この世界は攻略対象者が多過ぎる
*ほぼ設定のみのお話です。
体育の授業で、バレーボールが頭にぶつかった瞬間…覚醒してしまった。
「やべ。ここ、ゲームの世界だわ」
**
目を覚ますと、視界にひろがるのは白い天井。
(…保健室?)
「あかねちゃん、大丈夫?」
心底心配そうな顔をして、私を覗き込むのは クラスメートの親友であり美少女の美花だった。
「美花…だいじょ……!!!!」
ん? あれ? ヤバイ?
美花の上に、ハートのゲージが見える。
目をこすってみても。
頭を振ってみても。
瞬きしても。
見える。
しかも、なんか……ピンク色でそろそろ満タン? って感じで…
「あかねちゃん? どうしよう。どこか痛いの? 添い寝しようか?」
「え? 違うの。ちょっと…はははは 寝ぼけていたみたいで」
うん。“添い寝”なんて私には聞こえなかった。断じて聞こえてはいない。
「そぉ?」
って、残念そうにしてない。目の前の美少女は、頬を染めて私を見てはいない!!!!!
**
さて、どうやら私は先ほどの衝撃で“覚醒"いや、“前世の記憶”を思い出したみたいだ。
私の前世は、どうしようもないおたく女子だった。どうして、死んだとかは覚えていないけれど、友達はいなく、何もかも中の下だった私はいつもゲームばかりしていた。その中で一番「クソゲーだな!」とか言いながらも愛していたオンライン乙女ゲームがあった。
……。
今、生きている世界がそのゲームの世界だって気付いてしまったんですけど。
確かゲームが始まるのは小学校に入学してすぐだったと思う。パラメーターを上げて、デートを重ねて…最後は“伝説の場所”で告白というゲームではなく、ひたすら出逢って、出逢って、出逢いまくるゲームなのだ。
ちょっと、こういう「乙女ゲームの世界に転生しちゃった」とかって、前世で読んだライトノベルだと、“ゲーム開始時”に思い出したりするんじゃないの?!
私は、今… 高校3年生でゲームも終盤。
しかも、モブやサポートキャラでもなく…名前からすると……ヒロインらしい。
………ヤバイ。
このオンライン乙女ゲームが幾人の廃人を生み出し、最終的にはクソゲーと言われたのには理由がある。
攻略対象者が、全校生徒……いや、学園にいる人物全員なのである。
学園長から校門にたっている守衛のおじさんまで。その人数、老若男女合わせて15000人。 男女問わず攻略対象者なのである。しかも、全員が全員、美少年、イケメン、美男子、ダンディー、美少女、美女、妖艶、可愛いのどれかにはいる。流石だな!
馬鹿である。
馬鹿な運営だ。
あるインタビューで『“攻略できないバグ”と呼ばれるキャラのない乙女ゲームが作りたかった』とコメントをしていた。“攻略できないバグ”とは、攻略対象者ではないけれど、魅力的な脇キャラクターの事で、例えモブだろうとも、実兄や実弟だろうとも、魅力的なら攻略したい! というのがユーザーの心理だとか。
しかも、頭を抱えたくなるのはそれだけじゃなかった。
学園にいる人物(攻略対象者)が全員――人外。
吸血鬼から始まって、竜、妖精、妖怪系、亜人系、植物系、動物系と和洋中と様々なジャンルの人外に手を出している。節操という言葉を辞書で引け。運営よ。
その学園に紛れ込んで入学してしまったのが、学園、ただ一人の人間。
ヒロインの葉月あかね
―――私だ。
…………ひたすら ヤバイ。
おかしいな? なんて思いながらも、人外である彼らを気付かずに過ごしていたのは、ヒロインの“鈍感補正”が働いていたからだ。
小学生にはいる前にもし、記憶が戻っていたのなら、入学を断固拒否していただろう。しかし、その頃の私は、両親が亡くなり天涯孤独になった所を、足長おじさん的存在の人から支援してもらいなんとか今の生活があるのだ。
その人は、実は 学園長(吸血鬼)というオチで、しかも、私が5歳の時にコウモリになっている学園長を罠から助けた恩返しというエピソードがある。(学園長を攻略するとわかる)
**
「あかねちゃん、帰ろ?」
可愛いく、スカートを翻した美花のスカートの中から、猫のような尻尾がみえたのを私は気付かない振りをした。
っていうか、なぜ気付かなかった!? 鈍感過ぎるだろ!! 記憶を取り戻す前の私!!
手をぎゅっと、握られて……美花の上に見えるゲージがどんどん 赤く染まっている気がする。
人外ばかりのこの学園で、一番弱い人間の私が、なぜ今まで無事だったかというと、学園長の後ろ盾も勿論だが、私がきっと……考えたくもないが……
ガラッ!!
「あかね!! 大丈夫か!」
「あかねさん!」
「葉月、倒れたって聞いたけど」
「あかねちゃん、大丈夫? お見舞いにきたよ?」
「誰が、ボールをぶつけたんだ? 俺がそいつを殺ってやるから!」
「葉月あかね! お前が死んだら俺は!」
「ちょっと、お前らどけよ。僕のあかねが混乱しているでしょ!」
…………………………以下 続々。
頭の上に真っ赤なハートのゲージをギラギラさせた攻略対象者たちが、保健室を所狭しと、いや、入り切らない人は廊下に。 うわ、窓の外にも浮かんでいるのやら続々と。怖い。怖いよ!!
焦るな。考えろ。こういう時は、今までどうしてた? ……あれだ!
「みんな、ありがとう。大丈夫だよ!」
二パー。
と、笑えばそれで収まる(ハズ)
あ、みんな クラクラしている。効いた。すげーなヒロインって―――あ、私か。
そう、私は数々…百単位じゃなく、もう千単位で攻略者のハートゲージを満タンにしているからだ。その私の信者となった人外たちが、たまに現れる私を排除しようとする人外から護ってくれているのである。毎日、色々なイベントをこなしすぎて、詳細は覚えてはいないが。
前世でオタクで、中途半端に終わった人生をきっと心の奥底では悔やんでいたんだろう。学校にいれてくれた足長おじさんに恥じないよう、この世界の私は活発に勉強にスポーツに友達交流を頑張った。
そして、ゲームでは最難関といわれる、攻略対象者の半数のハートゲージを満タンすると“生徒会長”になるというイベントをこなしていた。
ええ……中学の時から生徒会長やっていましたが……。
改めて――詰んだ。
目立たないように学園生活を送るって、今からじゃ無理だわ。全学園の生徒に名前と顔知られているわ。今は高校三年生ということもあって、生徒会長は6月で引退したけど……やばい。この学園で目立ち過ぎている。
超怖い。
このゲームは、攻略対象者が15000人でしかも人外ということもあって、エンディングの数が果てしない。 学園崩壊なんて、何百とあり、地球まで崩壊するルートまである。死にやすい人間なので、デスルートも何千もあって、もはや『乙女ゲーム』じゃなくて、『デスゲー』と揶揄されていた。しかも、オンラインという事もあり、そのエンディング数は常に増え続けていた。
そして何よりも、プレイヤーが設定したヒロインの年齢によって、CEROが働く。今思えば、15歳を過ぎてから、際どいイベントが多かった。
キスをされそうになったこと…3日に1回はある。
スキンシップが過剰になり、やたらと触られること……1日に数十回はある。
ああ、私……ここまで(色々な意味で)無事に過ごせてよかった。……奇跡に近いよ。
このまま、誰ともくっつかずに、奇跡のエンドと呼ばれている「ノーマルエンド」を目指して、もう普通の大学に通おう。奨学金とかの事も調べなきゃ…。
一応、学園ちょ…もとい、足長おじさんにも手紙を送った方がいいかな。メールじゃなくて、手紙を送る設定なんだよね。コウモリに渡して手紙のやり取りをするという。……気づけよ。何度突っ込ませるんだ。私よ。足長おじさんは近くにいるから。
この時の私は、まだ呑気に構えていた。
18歳の誕生日を超えた時から、このゲームが『CERO Z』…つまりR18になる事を。
今までの『CERO C』(R15)が意外に生易しかったのかを、身をもって知る事となる。
頭を打ってすっかり、忘れていたのだ。
その18歳になる誕生日が…明日にせまっていた事を。
………忘れていたのだ。
続きは…R18サイトで。(続きません)