第三話
「ケティさーん! いつものヤツ、よろしくお願いしまーす!」
「はいはい、いつものヤツね」
一階共用スペースに設置したパソコンを前に、座布団を敷いてキーボードをカタカタと打ち鳴らす我が家の付喪神。
ヒエラルキーの頂点たるランさんに脅された翌日、大勢の家族とともに朝食を終えた俺は、ロケットエンピツの付喪神、ケティさんに根気のいる作業を依頼していた。
「有名どころサイトと某掲示板はいつも巡回してるし、今日はリンクたどってみるよ」
「よろしくお願いします」
根気のいる作業とは、インターネットで付喪神やオカルト関連の品々・事件探し、そしてそういう類の論争などの火消しだ。
我が家にいるような付喪神のようなオカルトは、それが見える人が減ってからはその存在が信じられなくなり、いつ間にか隠されるようになった。
まぁ今さら付喪神や八百万の神がいるなんて言われても、頭がおかしいとしか言われないだろうし。
さて、そういうわけで日々気を使ってはいるが、やはりインターネット程情報が集まる手段はないし、情報が拡散するものはない。
なので、月に1回はインターネット上の様々なサイトや掲示板を調査して付喪神を探しては家に連れて帰ったり、サイトで論議されている心霊現象の否定などを行っている。
もちろん簡単な仕事ではないし、複数人でやるにはパソコンが足りない。
そこで頼りになるのが、我らがケティさんだ。
――ケティさんは疲れないのです?
ポシェットからやや子が心配そうにケティに声をかける。
「ああ、心配してくれるのかい? 大丈夫だよ、アタシには変わりがいるのさ」
――なんだがカッコイイですぅ!
チカチカと操作画面を点滅させて興奮するやや子。
「まぁ文字通りだからなぁ」
そう、ケティはロケットエンピツの付喪神という特性から『ケティ』は合計で10人いる。
一人ひとりが性格が違うということはない。眠くなったり疲れたりすると、次の『ケティ』に変わることで作業を続けられるのだ。
・・・その能力でいつも徹夜でネットサーフィンしているが。
「・・・とはいえ、辛い仕事を頼むことに変わりはない。お茶入れるから、ちょっと待っててくれ」
「うん。よろしく頼むよ、主さま」
マウスがカチカチと鳴るのを聞きながら部屋を出た。
いつも背筋を伸ばして姿勢よくパソコンの前に座るケティ。
そんな彼女は我が家で一番の働き者にして、我が家で一番の電力消費者。
最近の趣味はネットゲームらしい。
オカルトの塊が最新科学の塊に勤しむのは、はてさて皮肉か冗談か。