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第29話 推理パートはお任せ

 王都を囲む外壁近くにある第二憲兵塔。魔法犯罪者などを収容する憲兵団預かりの区域に存在するそこは魔力遮断の結界が常に張られている。

 警備も厳重で僕を見る憲兵たちの視線は冷たく、警戒心が強い。


 鉄の門を潜ると館内は静かだった。大理石と黒鉄で作られた塔の至る場所に教会の模様や装飾が残っている。それらを見たマーティンは一言だけ口にした。


「元々、教会の建物を接収したんだ」


 ゲームでも第三憲兵塔という似た場所があったのを一瞬、思い出した。


「こちらにサインを頼む。ヴィクトリアだけでいい」


 受付で手続きを済ませたヴィクトリアは周囲に目を向ける。


「相変わらずカビ臭いわね。何世紀前の建物なのよ」


「建て替えの話は出ているが予算は回って来なくてな。ちょうどこの前も王都の結界の維持と修繕に回されたばかりだ」


 そう言ってマーティンが僕を見る。

 彼は僕が王都の結界を破壊したことに気づいているのだろうか。目を逸らし、僕は鼻を摘まむヴィクトリアに声を掛ける。


「もしかして、来たことがあるんですか?」


「子供の頃にね。お父様の仕事で見に来たの。犯罪者は大抵こういうところで地獄のような暮らしをすることになるから気を付けなさいって」


 地下に続く螺旋階段を下る。途中で擦れ違う憲兵たちは自動小銃で武装していた。

 ……ゲームでの脱走劇を思い出す。

 自然とどうやって脱走しようか考えながら、マーティンとヴァルターに案内される。


「目的の囚人は特別区画にいる。他の囚人とは隔離してある」


 分厚い扉を何枚も開け、廊下を通る。

 地下空間を通る階段を降りる。厳重な封鎖と監視の先に──その部屋はあった。

 窓ひとつない石造りの部屋。中央には鎖で拘束された男が椅子に縛られている。


「マーティンさん。呪印はどこに?」


「胸元にある。だが、その前に少し待っていて欲しい」


 ボロボロの服。髪は伸び、あちこちに切り傷や痣がある。

 しかしその瞳だけは、獣のような光を宿してこちらを睨み返してきた。最初にマーティンが入室し、口元を覆った布を外す。その後に僕たちが入室する。


「なんだ……今度は娼婦の配給か? しかも良い趣味してんじゃ──」


 触手を出すと、男の顔が強張った。


「──お」


 即座にマーティンが口を塞いだ。


「自ら起動用の言葉を口にして、呪いを広げた奴が前にもいたからな」


 ゲームでも自爆技として使ってくる相手がいたのを思い出す。

 そんなことはさておき、口を塞いだ獲物の前で触手を揺らす。すると、男は注射を前にした子供のように暴れる。

 それをマーティンとヴァルターが押さえる中で、胸元に触手の先端を刺すと彼は動かなくなった。


【接続開始】


 黒い触手に奔る青白い光が男の胸元に届くと、カシャと文字列が表示される。


【触手接続:成功】

【解析開始】


 さて、ここからどうすれば良いのか。

 そう思いながら視界に表示される文字列に目を向ける。触手が僕の意思を読み取ってくれるのなら、この『黙秘の魔法』の呪印に触手を侵食させて停止させられないか。


(……理屈は分からない。でも、この触手ならできる)


【触手機関 稼働率:82%】


 ただ、できれば稼働率を減らさない低コストな方法でお願いしたい。

 そう思うと同時に、視界に文字列が表示される。


【触手侵食:局所展開】


 半透明な図が浮かぶ。青白い人体図から一本の触手を通じて、別の人間の胸元に伸び、更に図が拡張されて呪印と思わしき場所に触手が到達する。


【侵食率:23%】


 触手侵食を開始した。上手くいけそうだ。流石は触手である。

 ゲージに表示される数値を見ているだけで実に楽だ。侵食率がグングン上昇していく。


【侵食率: 100%】


 呪印の侵食は完了した。なんとなく内容が頭に入ってくる。

 とりあえず、このまま呪印の破壊と呪いの伝染を阻止することはできそうだ。

 ……思ったよりも簡単で拍子抜けだった。

 そんなことを思うと同時に、僕の視界に新たな表示が現れた。


【触手侵食:続行可能】


(……?)


 数秒ほど、その文字を眺める。

 どういう意味なのか考えていると、より分かりやすい文言が表示される。


【侵食を続行しますか?】


 僕の触手は現在、男の胸元──正確には呪印に触手の先端を刺している。

 その呪印は無効化した。では、何の侵食を継続するのか。その思考に応えるように、胸元に刺さる触手と人間のアイコンが表示される。


(人間にもできるのか……?)


 魔導具といった物にだけ触手侵食はできると思っていた。

 だが、そんな訳でもないのかもしれない。


「……マーティンさん、この人って魔力とか魔法とか使えるんですか?」


「……微弱だが魔道具を動かせる程度の魔力はあるだろう。それがどうかしたか?」


「いえ……もう少しで終わります」


 ここで僕は一つの仮説を立てることにした。

 魔道具は魔石からエネルギーを得て起動する。そのエネルギーに触手は干渉できる。

 魔力と魔石から発生するエネルギーは殆ど同じ物らしいから、魔力のある人間にも触手は同じことができるのかもしれない。


【警告:これ以上の侵食は対象に不可逆な影響を与える可能性があります】


 僕の思考を肯定するように、わざわざ警告文を表示してくる。


「オムニティス嬢、大丈夫か?」


 その文字を二回読んだ頃に、マーティンに声を掛けられて僕は応じる。


「問題ありません」


 呪印の機能を破壊する。それから侵食機能をキャンセルして触手を引き抜く。胸元に出現していた呪印は崩れるように消え、男はビクンと身体をのけ反らせる。

 呼吸は荒く、皮膚からは尋常ではない汗が流れている。

 僕を見上げる瞳は恐怖に染まっていた。マーティンが口布を外すと声を荒げた。


「ば、化け物……!」


 何か言おうかと思ったが、僕を庇うかのようにマーティンとヴァルターが立つ。


「黙秘の魔法は消えた。今までみたいに甘い対応をすると思うなよ?」


 それから二人は憲兵で学んだのだろう尋問術で着々と情報を絞り出していった。

 ──ということもなく、恐怖に顔を歪めた男は僕の顔を見たくないとばかりに顔を背け、憲兵二人の質問に従順な態度で答えていった。



 ◇



 そこからは、僕にとって小難しい展開が続いた。

 得られた証言を元に大量の資料を持ってきたマーティンとヴィクトリアが話し合っている。僕は彼女たちが話し合う姿を見ながら隅で静かに菓子を食べていた。


「輸入記録を見る限り、サン・ルク港での受取人はカルディナ商会。代表はカルディナ伯爵家の甥で、形式上は貿易業者だ」


「それで、この資材だけ定期的に伯爵所有の倉庫に運び込まれてる。不自然ね」


「更にこの記録……ラトゥール侯爵家がカルディナ商会に依頼する形で倉庫から王都に物資を運んでる。物資というよりも密輸された銃火器だろう」


「最終的な納品先はどこ?」


「聖堂だ。……だとすれば、そこに通行証がいる」


 マーティンの指が、机上の地図に描かれたカルディナ領から王都の学園へと続くルートをなぞった。覗き込むのはヴィクトリアだ。

 憲兵が出してくれる菓子を食べながら、ぼんやりと彼女の横顔を眺める。綺麗な顔だなー、とか触りたいなーとか思いながら、彼らの会話に耳を傾ける。


(……ねむくなってきた)


 正直に言ってよく分からなかった。

 ゲームで登場しなかった知らない商会と知らない貴族の話をされても困る。役に立たないとヴィクトリアに見抜かれた僕は、隅で静かに菓子を食べることしかできない。


「……ここの通行証に使われているのはルミナリエ公爵家の認可印だ」


「複製の形跡はないわね。あら? ……つまり、公爵家の関与は確定と見ていいわね」


 お菓子をモグモグしながら考えるが、よく分からなかった。欠伸を噛み殺す。


(アルビーのゲームでも推理系のクエストは全滅で怒らせたっけ)


 こういうのは適材適所だ。聡明なヴィクトリアたちに推理パートはお任せしよう。

 バームクーヘンを口にする。柔らかくて美味しい。

 ……ヴィクトリアの分を残したので好感度の底上げも十分だろう。


「ヴァルター。まずカルディナ伯爵家とその港倉庫を押さえろ。ラトゥール侯爵家もだ。残りは、ルミナリエ邸への捜査準備に入る」


「聖堂は?」


「相手は教会だ。既に処分した可能性も高い。確実に捕まえられる所を優先しつつ一網打尽にする」


 手帳を弄るヴァルターが軽薄な笑みを浮かべる。


「捜索令状の準備はもうしてるが、司法塔との調整にボスへの報告もするのか?」


「そっちは私がやる」


「了解」


 少しウトウトしている間に色々と進展があったようだ。

 最後に追加の茶菓子をテーブルに置いたヴァルターは僕に顔を寄せてくる。顔は端正な部類だが男の時点で近づかないで欲しい。美女になってから出直して貰いたい。


「エレノアちゃん。君のおかげで、うちの隊長の首が繋がりそうだ」


「良かったですね」


 というか何故ちゃん付けするのだろうか。王国民の距離感の近さは異常である。


「ああ、だから感謝してるよ。本当にありがとう」


「どういたしまして」


 どうやら数日以内にセレナの実家を始めとした教会派の貴族に憲兵団が捜索をするようだ。今度の夜会と日にちが被りそうだが良い結果になればいいと思う。


「……あ、お菓子、美味しかったです。蜂蜜味のマドレーヌが柔らかくて良かった」


「それは良かった。いっぱい食べる子って素敵だと思うよ」


 ニコリと笑みを見せて退出するヴァルター。

 今のは皮肉だろうか、それともお世辞か本心なのか。よく分からなかった。


(彼にも触手侵食は通用するのだろうか。そうすれば分かるのかな?)


 一瞬、そんな思考が思い浮かぶ。

 触手侵食は人間にも通用する。その時、何がどうなるのだろうか。

 意識を乗っ取るだけではない。相手の記憶や思考も読み取れるようになるのかもしれない。そうなれば、やっていることはモンスターと一緒だ。


(ナクメア、ベロス、リルヴィク、イレザリア、レクタム……ゲームの魔王たちはみんな強かった。普通じゃない能力を持ってたし、肉体も精神も支配できてた)


 ゲーム『理想郷を求めて』でラスボスとなる魔王はルートや選択肢で変化する。

 夢を食べて支配する獣、音を聞かせて洗脳する鐘、記憶に寄生する大型虫、精神や人格を植え替える花園。快楽をもたらし心身を支配する泥スライム。


 いずれも普通ではない強さで、ゲームの難易度を跳ね上げたのを覚えている。何度も主人公である聖女が蹂躙され、屈辱を味わうことになったから特に覚えている。


 でも、触手タイプの魔王なんて見たことはない。

 だから僕は魔王では無い筈だ。

 多分、ゲームをしたアルビーが他の魔王たちの能力を真似して搭載したのだ。


(そんなことより、いよいよだ)


 これでヴィクトリアの準備は整ったはずだ。

 彼女には僕の為にも存分に復讐を果たして貰おう。


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