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夜明け前、沈黙の中で息を知る  作者: 南 飛香
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その夜、世界が二人になった

立花 神楽 (たちばな かぐら)

積紋治 淺緋 (せきもんじ あさひ)

華月 (かげつ)

人はいつ、自分が”普通”ではないと気づくのろうか。人とは違うことを隠そうとするのはなぜなのか。そんなことを毎日のように考える事はおかしいことなのか。頭の中で自問自答を繰り返す。一人、教室の端の席で頬杖をしながら外を眺めていた。校庭にはサッカーを楽しむ生徒数人がいた。皆、楽しそうに笑ったり、怒ったり、十人十色に過ごしていた。立花神楽はそんな様子を見て不思議でしかなかった。あの人達はあんなことで何を感じるのだろう。何に対して楽しそうにしているのだろうか。神楽にはわからなかった。昔から人より感情が感じにくく、怒りや悲しみ、喜びなどがわからなかった。それが当たり前だと思っていた神楽が自分は“普通”ではないと初めて感じたのは小学生の頃、クラスで飼っていたハムスターが死んでしまったことがきっかけだった。皆、泣いているなか、神楽は泣きもせず、ただ立っているだけだった。そんな神楽を見たクラスメイトの一人が「何で立花くん悲しくなさそうなの、おかしいよ。」そんな一言が神楽の何も無かった心に突き刺さった。その日以来、周りをみて、普通になることを心がけた。自分は普通じゃ無い。そのことだけが神楽の心には常にあった。しかし、日に日に普通を演じることが神楽の心を蝕んでいった。普通になることが難しくなってきた中学生になった頃、そんな神楽の近くには誰もおらず、一人にもなれてきたとき、事件がおきた。学年では有名な不良である男子生徒に目を付けられてしまう。一匹狼で誰の挑発にも答えることもない神楽に怒りが涌いていた男子生徒は放課後、神楽を呼び寄せ、数人で痛めつける予定だった。しかし、神楽は護身術を学んでおり、逆に痛めつけられてしまった。そこで神楽は自分にも感情があると知ってしまう。もう意識もない男子生徒を執着に殴り続け、顔の現形もわからないほどだった。神楽の顔には満面の笑みがこぼれており、今までにないほどの喜びを感じていた。数十分にも続いた行為は喧嘩を見かけた通行人により通報され、駆け込んできた警察官により取り押さえられた。そのまま神楽は少年院に送られることになった。少年院に送られた後でも、あの時の快楽を忘れることはできず、出所した後、神楽は昼は普通を演じ、夜は自分の欲求を満たす生活を送った。そんな生活を送っていたが、無事中学を卒業し、高校へと入学した。高校へと進学したあとも中学の頃と何も変わりなかった。しかし、ある夜、いつも通り欲求を満たしていると、数人が神楽を囲んだ。新たな標的が出来たと笑みを浮かべ、数人の1人に襲いかかろうとしたとき、神楽の頬は強い衝撃に襲われた。地面へと倒れ込んだがすぐに飛び起き、もう一度殴りかかってきた男へ走った。しかし、その拳は男に止められた。神楽はその手を離そうとしたが強い力で簡単には離れなかった。その男は神楽をじっと見つめたあと、神楽に向かい話し始めた。

「お前か、数年前からこの辺で人をぼっこぼこにしてたのは。」

見知らぬ男はあたかも神楽を知っているかのように話す。神楽は必死に手を抜こうとしていたのをやめ、笑顔で答えた。

「だとしたら何ですか?」

生意気にそう答えると、男の目付きが変わった。神楽のみぞおちに向かい蹴りを入れた。ほんの一瞬のことで神楽は抵抗することもできず、そのまま目を瞑ってしまった。

次に目を覚ますと、そこには大量の男たちが神楽をじっと見つめていた。神楽が状況を理解する前に先程神楽に蹴りを入れた男が神楽の近くでしゃがみこんだ。

「目が覚めたか。お前の名前は?」

男に聞かれたが、神楽は直ぐに顔を逸らし質問には一切答えなかった。そんな態度を見た男だったが、顔色ひとつ変えず神楽の顔をぐっと掴み、もう一度神楽と男は目線を合わせた。神楽は怒った犬のように歯を剥き出して男を威嚇していた。しかし、もう一度男は同じ質問を繰り返した。

「名前は?」

真っ直ぐに男は神楽を見つめた。応じるつもりは一切なかった神楽だったが、男の瞳がやけに綺麗に見えたため、心が揺れ名前を答えた。

「.......神楽」

小さく呟いた神楽の声はしっかりと男の耳に届いたようで少しだけ男の頬が緩んだ。

「神楽か、良い名前だ。俺は積紋治 淺緋。よろしく。」

元々、自分の名前が好きではなかった神楽だったが、淺緋に名前を呼ばれても嫌な気持ちにはならなかった。状況をつかめず、ぽかんとしている神楽に淺緋は優しく説明をし始めた。ここは華月と呼ばれる地域の不良たちを暴力により退治し、治安を守るグループ。リーダーの雉 成瀬を中心とし活動している。神楽がいるここは華月の拠点だった。華月の存在はもちろん神楽も知っており、なるべく華月の活動範囲を避け喧嘩をしていた。ついに自分の正体がばれてしまったことに神楽は少し微笑んでいた。そんな様子をみていた淺緋は神楽の頭を優しく撫でた。

「どんな奴かと思っていたが、こんなにかわいい奴が犯人とは驚きだよ。神楽、なんでおまえはあんなことをしていたのだ?」

きっと誰しもが理由を知りたいだろうが神楽は何も話さなかった。しかし、淺緋は元々神楽が何も話さないことを分かっていたかのように頭を2回ぽんぽんとした。淺緋の意味の分からない行動に神楽は限界を達し、口を開いた。

「俺をどうするんだ?警察に突き出すか?それともここで殺すのか?」

怯えるでもなく、助けを求めるのでもなく強い発言をした神楽に淺緋は少し驚いたが、すぐに声をあげて笑い出した。突然に笑い始めた淺緋に神楽は直感的にこいつはやばいと気づいた。必死に手の拘束を取ろうともがいていたが、それを行動が止まるほどに淺緋の発言に神楽は呆然とした。

「神楽、俺たちの仲間にならないか?」

思ってもみなかった言葉に神楽は眉間にしわをよせたが、数秒で頭をフル回転させ、答えた。

「いいよ、なってあげる。その代わり俺のやり方にケチをつけることは許さないからな。」

淺緋はニコっと笑い神楽の入団を歓迎した。

この出来事が神楽の人生を大きく左右することになった。

外の生徒達を眺めていた神楽の携帯が振動した。

“今日は集会があるから遅れずに”

携帯の画面には淺緋からの連絡が来ていた。その連絡に少しだけ心が揺れていた。

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