第三話 カミ
また、自宅へ戻ってアイルさんからいろいろなことを聞いた。神術の存在や今住んでいるこの国について。
この国はレイナ神聖国という国で、聖神イレイナを崇める国家と聞いた。イレイナは人に感情を与えたとされているらしい。神聖国ということで、神を侮辱するものには厳しいとのこと。アイルさんは神のことについては
「神は人が自らの足で進むには邪魔な存在です。いつまで私たちは神術に未来を委ねなければならないのでしょうか。私たちの未来は私たちの手と足で切り開かなければなりません」
と言っていた。神術も使っていけばいいんじゃないかなと俺は思っていた。話を詳しく聞くまでは。
「神術もうまく使っていけばいいんじゃないですか?」
「あなたは知らないのでしょうね。神術のデメリットに。」
「デメリット?何かあるの?」
「神術とは、神に理をも曲げて任意の事象を起こさせてもらえる術です。だがそんなものにデメリットがないわけがない。第一に、使用者の生命を使う。言葉通りに寿命を削る。第二に、寿命を迎えたものは傀儡となる。」
「傀儡?」
「使徒となるのです。人はそれを魔物と呼んでいますがね。国はそれを隠していますが、いったいどのような手を使っているのでしょうか。」
いろいろと複雑な状況らしい。
「レン。あなたはこれから世界のことについて知っていきなさい。それはあなたの力となるでしょう。力には様々な形がある。一つ一つは点のように小さくてもつながれば線になり、それは線と線ががつながり、大きな力となる。」
そういうアイルさんはどこか遠くを見つめているような感じがした。彼もいろいろなことを体験して、自分を形作っていったのか。それを知る日はまだ来なさそうだ。
--- アイル宅(現在) ---
リビングに来ると、そこには荷造りをしている師匠がいた。
「師匠。どこかに行くんですか?」
そう師匠に問う。師匠は、作業を止めずに、振り替えもせずに
「そろそろここから離れなければなりません。そろそろ奴らも動き出すでしょうから。」
「奴らって?」
師匠は立ってこちらに向かってきた。そして、
「ここからはあなたの判断で決めてください。ここから出て、世界を旅するもよし、町のほうで一般人として過ごすもよし、私とともに来るもよし、どうしますか。」
師匠はこう告げた。なぜかその眼を見ると、俺が映ってように感じた。
「いきなりだな。もっと早めに行ってくれよ師匠。そもそも奴らってなんだよ。それがここを出る理由なのか?」
「そうだな。お前には話しておこう。昨日の鍛錬の途中、神術の気配を受け取った。」
そういうと、師匠の周りに何やら、鳥のようなものが漂い始めた。見た目は鳥なのだが、羽の羽ばたく音もなく、動きは鳥なのに近くで見ると違和感を感じる。
「これは神術を感知できる鳥型の機械です。結界の使い方もありますが、昨日の夕方ごろに一機反応した後、消えてしまいました。破壊されたのでしょう。ここはもう安全ではありません。」
「結局どういうことだよ」
俺の理解力がないことだけがはっきりと分かる。これには師匠も少しめんどくさそうな顔をしていた。簡単に言ってくれないとわからないんだよな。師匠は一呼吸入れてこう言った。
「つまり、ここは神によって攻撃される可能性が上がったのです。」