EPILOGUE-茶織-
カフェ〈DIAMOND〉。
買い物帰りの茶織がアールグレイで一息吐いていると、左隣の高校生の男女四人組の会話が耳に入ってきた。
「[RED-DEAD]活動休止だってね」
その響きからは、ショックよりも単なる好奇心の方が強く感じられた。
「TAROがああなっちゃったんじゃ、仕方ないよな」
「つーか、大怪我負ってなくてもどのみちアウトだったんじゃない? 人として終わってる」
「他のメンバーどうなるんだろな」
「まあ、KILIKは歌唱力高いからソロでも活動出来るでしょ」
最初に声を上げた女子生徒が、考えながら答えてゆく。
「KENはバラエティ番組でのトークが芸人より面白いって前から評判で、既に出演オファー殺到してるみたい。YOICHIは元々俳優志望で、売れる前は劇団入ってたらしいから、そっちに転身するかもって」
「まあ、ぶっちゃけ天罰だわな」今まで静かだった眼鏡の男子生徒が言い切った。「アンチを中心に、死んで償うべきだとかって言ってる人間もいるけどさ、ある意味では死ぬよりも悲惨な罰を受けたよな。まさに生き地獄ってやつ?」
──死ぬよりも悲惨な罰。生き地獄。
一つの考えが茶織の脳裏を過った。ピエロには、実は最初から野村を殺す気はなかったのではないだろうか。命を奪ってしまえばそれで終わりだが、生かしたまま、この先何十年も心身共にダメージ──それこそまさに生き地獄──を味わわせてやれば、最高の復讐になる……。
──考え過ぎかしらね。
「サムディ、いる?」
帰宅後、自室で龍と那由多にトークアプリでメッセージを送信した茶織は、ヴードゥーの精霊を呼んだ。
「ほいほい登場~っ! およっ、リュウとナユタに何を送──っぶ!」
「勝手に覗くな」
「見事な裏拳でした……イテテテッ」サムディは顔をさすりながら茶織の正面に移動し、畳の上に胡座を掻いた。「で、どしたの」
「綾兄を探し出したいの。何もしないで、指咥えて帰りを待っているだけっていうのは嫌なのよ」
「ふむふむ」サムディは二回頷いた。
「まずはピエロの時と同じように、情報を集めようと思うの。人外の存在で、綾兄を知っている誰かがいるかもしれない」
「なるへそね~」
「それで、その……」茶織は小さく咳払いした。「あんたにも、改めて協力してほしいのよ。自分勝手だって事はわかってるわ。あんたが気持ち悪くてイラっとするとはいえ、散々ぞんざいに扱ってきたし、その──」
「モチのロン!」サムディはニカッと笑った。
「……有難う」茶織はボソリと言った。
「ああそっか、それでリュウとナユタにも連絡入れたのねっ」
「ええ。それと、ドロッセルマイヤーとかいう奴についても調べようと思う」
バロン・サムディとの融合が解け気絶していた間に、茶織は奇妙な夢を見た。背が低く痩せており、右目に眼帯をした男が、自殺後に成仏出来ず彷徨っていた少年の霊を唆し、ピエロの化け物へと変貌させたのだ。
「ねえ、パン食べたくない?」茶織は立ち上がった。「これから〈きくちパン〉に行こうと思うんだけど」
「食べたいですっ!」サムディも立ち上がると小躍りした。
「わかっているとは思うけど──」
「召喚れない限りは勝手に出て来るな、でしょ」
「よろしい」
「へーい。んじゃ」
サムディが消えると、茶織はトークアプリに目をやった。どちらもまだ既読マークは付いていない。
そういえば、自分の血で汚してしまった龍のジーンズ代をまだ弁償出来ていない。あの日、帰り際にその話をしたら断られたが、このまま何もしないのは気が引ける。今度会った時、無理矢理にでも万札を握らせよう。
那由多は、次はゆっくりお茶がしたいなどと言っていた。どんな店に行くつもりなのだろうか。アルバと緋雨も一緒なら賑やかになりそうだ。
共に戦った彼らとの再会を楽しみにしている自分に気付き、茶織は驚いた。
──でもまあ、悪くないわね。
茶織の顔に自然と笑みが浮かんだ。龍が見れば気付いただろう──その表情は、茶織がバロン・サムディと融合していた時によく見せていた、無邪気ささえ感じられるものと同じだという事に。




