EPILOGUE-龍-
六堂大道芸初日に相次いだ事故は、不可解さも相まってか話題が尽きる事なく、一〇日が経過した現在でも大々的に報道されている。死者一名、負傷者二〇名超。当然ながら二日目は中止となり、それどころか来年以降の開催も危ぶまれている。
しかし最も世間の注目を集めたのは、他ならぬTARO──野村自身のニュースだった。
ピエロとの戦いが終わった後、野村は楼風台内の神社で元同級生の女に襲われ、逃げる際に石段から転落。一命はとり留めたものの、頚髄損傷の重傷。復帰は未定だという。
そんな彼に追い討ちを掛けるかのように、数日前、某週刊誌が彼の〝黒い過去〟をすっぱ抜き、更なる話題を呼んだ。
〝元メンバー怒りの暴露「TAROの作詞はほぼ盗作」〟
〝RED-DEADボーカル 同級生への鬼畜の所業の数々〟
放課後、龍はもやもやした気持ちを抱えながら一人帰路に就いていた。
──天罰が下ったんだ。同情なんて出来やしない。
野村がクラスメートを死に追いやらなければ殺人ピエロは誕生せず、理人や何人もの中高生たちは殺されずに済んだのだ。慶太は未だに弟の死から立ち直れず、学校は休みがちだという。
──生きている人間だって人生を狂わされた。野村新太郎、あんたも生きながら苦しみ続ければいい……。
そんな風に考えてしまう自分にも嫌悪感を抱いてしまい、龍は最近それなりに落ち込んでいた。
「ひ・だ・か・くぅ~ん!」
陽気な少女の声と忙しない足音が、龍を現実に引き戻した。走って来た大屋亜子が、龍にぶつかるギリギリの地点で止まるところだった。
「一緒に帰ろうよっ!」
「……おう」
正直なところ、今の龍は誰かと会話したい気分ではなかった。
「ねえ日高君、近いうちに今度こそ皆で集まろうよ! 『ドキッ☆ 高校生だらけの仁義なきカラオケ大会』なんてどう?」
「何で仁義がないんだよ」
「えー、じゃあボウリングにする?」
「カラオケが嫌とは言ってないだろ」
ふいに亜子が足を止めた。
「ねえ……もしかして日高君は知ってたの? 六堂大道芸で事故が起こるって」
「え……?」
「ほら、前に警告してくれたでしょ、六堂大道芸は危険だって。タチの悪い人たちが集まろうとしているって話だったけど……本当はさ、日高君は、色んな事故が起こるかもって予知して、あたしに教えてくれたんじゃない?」
「……どうして……そう思うんだ」
「うーん、何となく。勘ってやつかな!」
龍は、亜子に全てを喋ってしまっても構わないのではないだろうかと思った。非難されようが嫌悪されようが、野村に対する本音を、このどす黒い感情を吐き出してしまえば、この心のつっかえが取れて楽になるかもしれない……。
「いや──」
ここで吐き出さなくとも、家に帰れば全てを受け止めてくれる小さな相棒が待っているではないか。
「──そりゃ考え過ぎだ」
「アハハ! そうだよね」亜子は屈託のない笑みを浮かべた。「うん、ほんと可愛い」
「へ?」
「日高君、今ちょっと笑ったよね。可愛い!」
「はあ?」
「もう一回! 今の微笑みをもう一回!」
「何言って──」
周囲を歩く磨陣高生たちの視線が集まる。
「あ、田中君と村瀬君!」
亜子の言う通り、後方から親友たちが走って来た。
「え、お前ら部活は?」
「顧問に急な用事が出来て自主練になったから、サボった」田中はあっさり答えた。
「俺の方も今日は何か暇だったから、帰ろうとしたら田中に会ってさ。今なら日高にも追い着くかなって話してたら、大屋さんとイチャ付いてるのが見えたから」
村瀬がそう言うと、田中はニヤリと笑って「なー!」と同調した。
「ばっ……何言ってんだお前ら」
「もう二人共、わかってるなら邪魔しちゃ駄目でしょーっ!」
「あ、悪ぃ悪ぃ」
「すまんな日高」
「コラ!」
龍の様子を駅前の交差点付近から見守っていたアルバは、安堵し微笑んだ。
ここのところの龍は、いつも通りに振る舞っているようでいてその実、落ち込んでいるようだった。どうしたものかと考えていたが、心配し過ぎる必要はないのかもしれない。
「先に帰っているわよ、リュウ」
自らの首を小脇に抱えた少女は、クルリと身を翻すと、次の瞬間には姿を消していた。




