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【再改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第五章

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#49 最終決戦②

 四方八方から現れる霊や悪鬼たちを退けながら進むと、三人は開けた場所に辿り着いた。ピエロが中央に立ち、その周囲にはそれぞれ種類の異なる棺が四基、無造作に置かれている。赤錆色の空は変わらないが、サーカステントが建っていた土地よりは狭く、至る所がグニャグニャと歪んでいる。


「限界に近いはずよ」アルバは龍の耳元で小声で言った。「もうかなりの力を消耗している」


「あの馬鹿は連れて来なかったのかい」ピエロは三人を一瞥してから問うた。


「足手纏いになりそうだったもの」


「空気も余計に悪くなるからな」


「顔も中身もマジで不細工だし」


「ケケッ、今頃ボクの仲間が、アイツを生きながら喰らっているだろうよ!」


「そうなったらなったで構やしねえ。因果応報だ」


「そうね」


「ん」


「意外と薄情だねえ……」


 会話が途切れると、三人とピエロは相手方の動きを警戒するように身構え、睨み合いになった。


 ──サオリの限界も近い。融合が解ければ、おじ様は大丈夫でも、サオリは恐らく気絶する。そうなった場合、ちょっとキツくなるわね。


 アルバの槍を握る手に力が入る。


 ──短期決戦でいきたいけれど……。


 ピエロの周囲の四基の棺が、カタカタと音を立て始めた。


「キミたちを殺したら、後はあの眼鏡君と着流しのオッサンだ。ちょっぴり寂しくなるねえ!」


 ピエロが両手を上げると、四基の棺の蓋が一斉に外れ、人面を持つ青い火の玉が飛び出した。茶織たちを挑発するように、笑いながらあちこちを飛び回る。


「あんなのに構ってらんないよ」茶織は唇を尖らせた。


「だからって無視も出来ない。いきなりピエロに突っ込もうとするなよ」


「えー」


「えー、じゃない」


 火の玉の一つが急降下した。三人が飛び退くと、それが合図になったかのように残る三つも縦横無尽に暴れ出した。

 龍は一番近くを飛ぶ火の玉に錫杖を振るった。火の玉は光の矢をあっさりと躱し、男か女かわからない笑い声を上げた。目で追うのがやっとだった。


「っ!」


 背中を掠めた別の火の玉に、振り向きざまに光の矢を放つ。やはり手応えなし。アルバの球電も飛んで来たが、空中で弾けて消えた。少々離れた後方では、茶織が骨の十字架から生み出した大きな人間の頭蓋骨が、歯をカチカチ鳴らしながら火の玉を追い掛けている。

 

 ──!!


「気を付けろ! ピエロがいねえ!」


「逃げたんじゃないのぉ~?」茶織が叫ぶように言う。「アイツ逃げてばっかだしぃ~!」


 茶織の正面に飛んで来た火の玉が大きく口を開け、中から刀を手にしたピエロが飛び出した。


 ガギィッッ!!


 釘バットが刀の一撃を阻んだ。


「やっぱこっちの方が使いやすいんだよね」


 ピエロが横に飛び退くと、その後ろから火の玉が突っ込んで来たが、茶織は紙一重で避けた。

 ピエロが先端の大きく欠けた刀を放り捨てると、泡が弾けたように消え失せた。

 再び火の玉を避けた茶織は、釘バットを骨の十字架に戻すと、先端から赤黒く燃える火の玉を生み出した。


「目には目を、火の玉には火の玉を!」


 赤黒い火の玉と青い火の玉は、互いに相手を喰らい尽くさんと、火花を散らしながら何度もぶつかり合った。


「さて、これでアンタに集中出来るかな」


「随分と余裕そうだね」ピエロの右肩付近に、小さなもやが発生した。「でも本当は、だいぶお疲れのようだ。ケケッ」


 もやは拳銃となり、白手袋をはめたピエロの右手に収まった。


「それはお互い様じゃないの?」茶織は不敵に笑った。




 茶織が召喚した頭蓋骨が、焼かれながらも火の玉を喰い散らかしている。


 ──あれは相討ちになるな。


 それでも龍には、少しだけ希望が見えてきた気がした。


「あっつ!」


 喰い散らかされている火の玉から、あちこちに火花が飛び散っていた。その近くで、別の青い火の玉が赤黒い火の玉とぶつかり合って更に多くの火花を散らし、更にその奥で茶織とピエロが距離を置いて睨み合って──別の意味で火花を散らして──いる。


 ──ピエロの奴、銃持ってるじゃねえか……!


 茶織に加勢したいところだったが、残る二つの火の玉がそうさせてはくれないようだった。アルバの球電や槍の攻撃を避けつつ、隙あらば焼き尽くそうと狙っているのが、自分に向けられている目でわかった。


 ──出来るもんならやってみろ。


 アルバが龍の元へ走り寄り、耳打ちする。「悪いけれど、ちょっとの間ワタシを守ってくれないかしら」


「当然だ」


「上手くいったら、素敵な力を貸してあげられるから」


「え?」


 アルバは再び龍から離れると、手にしていた槍を消滅させ、両手を組むと何か唱え始めた。すかさず二つの火の玉がアルバを狙う。


「させるか!」


 龍は錫杖を火の玉に向けかけたが、アルバの言葉を思い出し、彼女の方へと光を放った。


 ──守る。


 シャン。シャン。


 遊輪(ゆうかん)の鳴り響く音は、これまでよりもずっと優しく聞こえたような気がした。

 放たれた光はアルバを痛め付ける事はなく、ドームのように体を覆うと、直後に突っ込んで来た二つの火の玉を弾き返した。

 安心するのも束の間、二つの火の玉は龍に狙いを定めた。弾かれた影響か二回り以上は小さくなっているが、凶暴さは何ら変わっていないようだ。

 龍は錫杖を軽く一振りし、自分の周囲にも防御壁を生み出したが、それはあまりにも薄く、今にも消えてしまいそうだった。


 ──二人分は無理なのかよ!?


 大きく口を開いた二つの火の玉が、それぞれ異なる方向から龍に迫る。


 ──避けられねえ!


 絶望的な思いに反して、龍の体は自然と素早い動きで火の玉を回避していた。


 ──ん?


 二つの火の玉は正面衝突し、小爆発を起こすとあちこちに火花を散らした。龍は咄嗟に腕で顔を庇った。


「有難う、リュウ。お陰で集中出来たわ」


 龍は顔を上げると、相棒の元へ走った。爆発した二つの火の玉だけでなく、残るもう二つと、頭蓋骨や赤黒い火の玉も、既に消滅しているようだった。


「助けてくれたのか?」


「魔法を掛けたの。しばらくの間、リュウの身体能力が格段に上がる補助魔法をね」アルバは微笑んだ。


「そうか、だから躱せ──」


 乾いた破裂音が響いた。振り向いた龍が最初に目にしたのは、膝から崩れ落ちる道脇茶織の姿だった。

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