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【再改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第五章

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#47 廃校②

 (りゅう)とアルバは、髭の女の突進を何とかかわしたはずだったが、何故か吹っ飛ばされていた。

 教室内から茶織の騒ぎ声が聞こえ、直後に前方のドアが開いた。姿を現したのは、抵抗する野村をズルズルと引き摺るピエロだった。


「おい! 助けてくれ!」顔に怪我をした半泣きの野村が叫ぶ。「頼む! 助けて! 助けて!」


 追い掛けようとした龍を、アルバが腕を引っ張って止めた。


「リュウ、来るわよ」


 髭の女は、勢い余って硬い壁に激突したにも関わらず、何事もなかったかのように身を翻した。

 錫杖を構える龍を庇うようにアルバが前に出ると、左手から球電を放った。髭の女が右の掌を突き出すと、球電は途中で四散し、アルバは龍を巻き込んで吹っ飛んだ。


(いって)え!」


「ごめんなさいね」


「どうなってんだ?」


「衝撃波を使うみたいね」


「衝撃波?」


 二人が起き上がろうとした途端、髭の女がアルバの髪を掴み、力任せに引っ張った。


「ああもう、そういう事されると──」


 アルバの首が取れた。髭の女は一瞬驚いたような顔を見せたが、すぐ近くの窓にアルバの首を勢い良く叩き付けた。


「アルバ!」


 窓ガラスにヒビが入る。アルバは悲鳴も呻き声も上げなかった。

 龍が悲鳴に近い叫び声を上げ、錫杖を振るうのと同時に、髭の女は再びアルバの首を叩き付けた。女は光の刃を喰らって吹っ飛び、アルバの首は転がった。


「アルバ! アルバ?」


 龍は慌てて走り寄り、アルバの首を拾った。あちこちに切り傷が出来ており、血の筋が流れている。閉じていたアルバの目がゆっくり開かれると、龍は安堵の溜め息を吐いた。


「痛かったろ?」


「デュラハンはそんなに柔じゃないわ」


 髭の女がゆっくり立ち上がるのが見えると、龍はアルバの首を胴体に戻した。


「有難う、リュウ」


「ん。……ピエロの奴、何処に行くんだ」


 ピエロは二つ隣の教室前をゆっくり進んでおり、野村は変わらず助けを求めて叫び続けている。

 髭の女は体勢を立て直し、低く身構えた。


「どうするんだよ衝撃波は」


「そうね……」


 髭の女が雄叫びを上げ、跳ぶように走り出す。


「これで駄目なら──」


 龍とアルバの目の前の床に、魔法陣が浮かび上がった。髭の女が一歩踏み入れた瞬間、大きな火柱が上がり、数秒後には何事もなかったかのように消え去った。

 髭の女は跡形もなく焼き尽くされた──かと思いきや、全身に火傷を負いながらも突進をやめなかった。


「──ちょっと厳しいかも」


 髭の女が今まさに二人を直接吹っ飛ばそうとしたその瞬間、三者の間を遮るように黒い障壁が発生した。髭の女は、もろにぶつかりひっくり返った。障壁に防がれたのか、二人は衝撃波の影響を受けなかった。


「これは──」


 前方ドアに、茶織が寄り掛かるようにして立っていた。


道脇(みちわき)さん。今のはあんたが?」


「うん」


「あれ、それは……」


 茶織の右手に握られているのは、釘バットではなく骨の十字架だ。


「何か勝手に変わっちゃってさ。まあそのおかげでさっきはマジで助かったんだけど……クソッ、まだ痛いや」茶織は頭をさすった。


 黒い障壁が消えると、アルバは大の字で伸びている髭の女の元へ近寄った。


「リュウにサオリ、ちょっと反対向いてて。あと耳も塞いで」


「何でだ」


「いいから、そうして頂戴。ね?」


 美しい女性の甘えるようなお願い事──アルバをよく知らない者ならそう捉えただろう。しかし龍は知っている──これはお願いではなくほとんど命令と同じだと。


「……おう」


「えー何でー?」


「いいからあんたも」


 龍と茶織が言われた通りにしたのを確認すると、アルバは笑顔のまま、髭の女の首を槍で突き刺した。窓ガラスが振動する程の悲鳴が上がる。


「え、何なに、何してんの?」


「ウフフ、まだ駄目よ」


 アルバは何度か槍を突き刺すと、髭の女の首をもぎ取った。それでもまだ力尽きず、白目を剥いて口をパクパクさせている女の耳元に口を寄せ、


「さっきのお返し」


 左手で持った首を、窓ガラスに何度も何度も、ガラスが割れてもなお叩き付け、完全に力尽きた首が消滅しそうになると胴体の上に放り投げ、纏めて炎の柱で消炭にした。


「ふう……もういいわよ、二人共」


「何していたかぐらいわかるぞ」龍は振り返りながら言った。「むしろ俺がやってやりたかったよ」


「あら、ワタシのために?」


 アルバが微笑むと、龍は仄かに顔を赤らめてそっぽを向き、そこで茶織の様子に気付いた。


「道脇さん?」


 茶織はドアに左手を突き、屈み込むようにして深呼吸していた。


「見るなって言われたのに見たのか?」


「サムディおじ様との長時間の融合がだいぶ(こた)えているのよ。武器が戻ってしまったのもそのせいね」


「大丈夫だって」


 龍が背中をさすると、茶織は元気なく笑った。


「それよりも……道化野郎を追わないとさ」


「あいつは何処行った?」


「まあ、あの一番奥でしょうね」


 アルバはピエロが進んで行った方を指差した。三年二組の教室の先に一組の教室があり、その目の前に階段、そしてそれらより先、校舎北側の一番端にあるものは──


「トイレ、か」


「自分が受けた仕打ちを、そのままそっくり返してから殺すつもりかしらね」


「ばっちいトコでラストバトルかよ」茶織はぐっと体を伸ばし、大きく息を吐いた。


「なあ、あんた本当に大丈夫なのか?」龍は心配そうに茶織の顔を見やった。「何だったら、俺とアルバで向かう」


「おいちょっと、アンタこそ約束忘れたの?」茶織は龍の服の襟を掴み、グイと引き寄せた。「言ったよね、ピエロ(アイツ)はアタシとアンタでぶちのめすんだって」


「……ああ、忘れちゃいない」


 龍が苦笑し頷くと、茶織は満足げにニカッと笑った。

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