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【再改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第四章

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#44 よくわかんない話

 瞼の奥まで照らさんばかりの光の輝きがようやく落ち着き、ゆっくり目を開けるとそこは、人気(ひとけ)のない路地裏だった。


「ここって……俺たちが異界に入った場所だ、二丁目の!」那由多は周囲を見回し、弾んだ声で言った。「そうだよね、緋雨?」


「ああ。現実世界に戻って来たのは間違いないな」


「あー、まだ目がチカチカする。皆無事?」


 那由多の斜め後ろに立つ龍とアルバは頷き、少し離れた所に座っている茶織は左手をヒラヒラと振った。


「戻って来られたのはいいが、ピエロはこっちにいるのか?」龍は心配そうに言った。


「いるわよ。あのピエロ独特の禍々しい気を感じるもの。それもそんなに離れていないわ」


「それだけではない。かなり多くの悪しき存在が集まっている」 


 アルバと緋雨は虚空を睨むようにしながら答えた。


「だったら早く探さねえと──」


「待って龍君、そのままじゃまずいよ」


 那由多は龍の脚を指差した。ジーンズが膝の周辺を中心に、乾いた血によって変色してしまっている。


「あー……」


「サオリが倒れていた時のものね。確かにこのままうろついていたら、呼び止められちゃいそう」


「でも、何処かで買って履き替える余裕なんてないだろ。おい、大丈夫か?」


 龍の言葉の後半は茶織に向けられていた。先程から座り込んだままで、一言も発していないからだ。

 龍は茶織に近付き、しゃがんで顔を覗いた。


「……あんた、ちょっと顔色悪いぞ」


「疲れただけ」茶織は素っ気なく答えた。


 緋雨も茶織の元へ来た。その顔は少々険しいものだったので、龍は不安になった。


「バロン・サムディよ、そろそろ離れたらどうだ。長時間の融合は茶織の心身に負担が掛かる」


「そうね、後で倒れちゃうかもしれないわ」


 アルバも同意すると、茶織は顔を上げて眉をひそめた。


「何の話? 時々よくわかんない話するよね」


「今のお前の人格は、瀕死の重傷を負ったお前の命を救うために、ヴードゥーの精霊バロン・サムディが一時的に融合し、新たに生まれたものだ。これから先もそのままというわけにはいかん」


「何だそれ……さっぱりわけわかんない」


「記憶に混乱が生じているのも無理はない話よ。サオリとしての記憶が残っているだけでも凄いのだから」


「と言われてもさ、全然ピンとこないや!」茶織は勢い良く立ち上がった。「ねえ、ここでずっと喋くってていいの? 何か向こうの方が騒がしいけど」


 茶織が釘バットで指し示すと、一同は通りの方へと振り返った。複数人の怒鳴るような声と悲鳴に近い声が聞こえてくる。


「とりあえず今は、あほんだら道化野郎をぶちのめすのが先決でしょ」


「わかった」返答に悩む様子の緋雨とアルバの代わりに龍が答えた。「ただ、もうあまり無理も無茶もするな。ヤバくなったら我慢せず誰かに言え」


「ほーい」

 



「あんの馬鹿……ほんっっともう、何処で何してるのよ!?」


 TAROのマネジャーである鈴木(すずき)は、苛立ちを隠そうともせず〈藤紫(ふじむらさき)第二ビル〉出入口前を忙しなくうろついていた。

 TAROは少し目を離した隙にビルを出ていった。スマホに電話やメッセージを入れても何の返事も寄越さず、とうとう本番になっても姿を現さなかった。トークショーはTARO不在で開催されているが、何故か機材トラブルが相次ぎスムーズな進行が滞っているらしい。

 運営スタッフたちは、TAROが事件か事故に巻き込まれたのではないかと心配しているが、鈴木の考えは違った。


 ──どうせ面倒になったからって逃げ出したんだわ。


 TAROが体調不良を理由にバンドメンバーとの打ち合わせやリハーサルをドタキャンした事は、過去に何度もある。理由は何であれ、関係者に片っ端から頭を下げて回らなくてはならない。


 ──もう辞めようかしら、この仕事!


「大丈夫ですか」ビルから、運営スタッフの中年男性が出て来た。


「うちのTAROがご迷惑をお掛けし、本当に申し訳ございません!」鈴木は反射的に頭を下げた。


「いえいえ。しかし心配ですな。今回は何だか色々と起こり過ぎて困ったもんだ」


「え、他にも何かあったんですか」


 男性スタッフはしまったという顔をしたが、開き直ったのか声を落とし、


「町内のあちこちで事故やトラブルが相次いでいて、本部も現場もてんやわんや。こっちにも波及してきていますよ。私は昔からスタッフやってますけどね、こんなの初めて──」


 ふと男性スタッフが、何かに気付いたように鈴木の後方へ目をやった。鈴木もつられて振り返ると、弓塚(ゆみづか)二丁目方面から、フラフラとおぼつかない足取りの女性がこちらにやって来るところだった。虚ろな目をして口は半開き、短い茶髪はボサボサで、服装や体のあちこちが汚れている。


「え……あの人……」


 よく見れば、汚れは乾いた血だった。


「大丈夫ですか!?」鈴木は女性に走り寄った。


「大変だ。救護スタッフ呼んできます!」男性スタッフは慌ててビルの中へ戻った。


「ねえ大丈夫? 何があったの!?」


 女性が足を止めてゆっくりこちらを向くと、鈴木は得体の知れない恐怖を覚え、伸ばしかけていた手を引っ込めた。


「ごめ……さ……ゆるし……」


「な……何言って──」


「ころさないで……ゆるして……いちばんわるい……のむら、しんたろう……」


「のむら……しんたろう?」


 鈴木は困惑した。その名前は、TAROの本名と同じだ。


「ゆるして……ごめ……ゆ──」


 女性は白目を剥くと、コンクリートに正面から倒れ込み、ピクリとも動かなくなった。


「何なのよ……どうなってんのよ……」


 救護する事も忘れ、鈴木は体を震わせながらその場にへたり込んだ。

 数箇月後、鈴木は[RED-DEAD]結成時からのマネジャー業を辞めるだけでなく、事務所を退所し、芸能界からも去る事になる。

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