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【再改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第四章

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#43 霊安室

 五人は中に入ってドアの鍵を閉めると、室内の真ん中に固まり、背中合わせに身構えた。


「さて……次は何が起こる?」


 緋雨の問いに答えるかのように、祭壇の前の空間にもやのようなものが発生した。不鮮明ながらも徐々に映像が浮かび上がってくる。


「緋雨、この子って皆と合流する前に映像で観た……」


 学生服を着た少年が、学校内の廊下らしき場所を一人で歩いている。


「そうだな」


「映像ならアタシも観たよ」茶織が少年を指差す。「コイツかどうかはっきりわかんないけど、背中が映ってた」


「動くイラストなら、俺とアルバも観させられました。男子生徒がいじめに遭っている様子の」


「全員何かしら観ているんだね」


 少年はトイレの手洗い場まで来ると、右側奥の男子トイレのドアの向こうに姿を消した。

 ややあってから、六人の男子生徒も姿を現した。全員こちらに背を向けた状態で写し出されているが、一番前に立つあまり背の高くない生徒が振り向くと、後ろの五人に話し掛け、何やら企むようにニヤリと笑った。


「あ、この子も前に映ってたよ。緋雨がTAROだって言ってたけど……」


「はっきり見えるわけじゃないけれど、確かに似ているわね」アルバが頷いた。


「この子も後ろの子たちも、先に入った男の子に嫌がらせしてたんだ。観ていて気分悪かったよ」


「何か嫌な予感がしますね……場所が場所ですし」


 場面が切り替わった。男子トイレ内で、最初の少年が背の高い二人の生徒に両腕をガッチリ掴まれ、必死に抵抗している。TAROと思わしき生徒は腕を組んで立っており、その隣の、この中では一番小柄な生徒が少年に向かって何か言うと、直後に蹴飛ばした。


「あ、このチビもサーカステントにいたよ。猿っぽいヤツ」茶織は小柄な生徒を指差した。


 TAROと思わしき生徒が最奥の個室に目配せすると、少年はそちらへ無理矢理引き摺られていった。

 そこからの動きは早かった。一番背の高い一人が見張り役として男子トイレの出入口に立ち塞がり、別の一人が少年を個室内へ突き飛ばすと、バケツを持った生徒が中の水をぶちまけた。モップを持った生徒が、洋式便器の隣に倒れているびしょ濡れの少年へ近付くと、一番小柄な生徒がモップを取り上げ、房糸部分で何度も少年を小突いた。少年が何かされる度に、常に笑いが起こった。

 見張り以外の五人が、個室を塞いだ。TAROと思わしき生徒が少年の髪を引っ掴み、他の生徒も腕を掴んで無理矢理起こす。


「駄目だ──」


「落ち着け」


 今にも映像に飛び掛かりそうな那由多の肩を、緋雨が掴むように触れた。

 少年は叫びながら必死に抵抗したが、TAROは容赦なく少年の頭を洋式便器の中に突っ込ませると目配せし、一番小柄な生徒がタンクのレバーを捻った。これ以上面白い事はないと言わんばかりに馬鹿笑いする生徒たち。


「やめろ!」


「やめろってば!」


 龍と那由多が耐え切れずに叫ぶのと同時に、映像は再びもやになると飛び散るように消え去った。


「……今のは……あの少年は……」祭壇の方をぼんやり見やりながら、那由多が呟いた。


「ピエロだ。生前の」龍は茶織の方を向いた。「前に言ってたよな、ピエロは自殺者の霊だって」


「うん。リョーカから聞いた」


「いじめの主犯格はTARO。そしてピエロの一連の中高生殺人は、自分を自殺まで追い詰めたTAROや、他のいじめ加害者たちに復讐する力を付けるため。

 中高生ばかりを狙った理由は、自分が丁度その頃にいじめで苦しみ最終的に命を絶ったから、楽しそうに学生生活を送る姿が羨ましくて憎かった……ってところじゃないか」


「そうかもしれないね」那由多は元気なく頷いた。「サーカステントで殺されていた男性や連れ去られた女性も、あのトイレでのいじめには加わってなくても、日頃から何らかの形で加担していたんだよ」


「トイレにいた他の生徒たち、サオリが猿っぽいって言っていた彼以外の姿は今のところ見ていないけれど……もしかしたら、もうとっくに報復された後かもしれないわね」


 ドンッ。


 突如、ドアに鈍い衝撃が響いた。


 ドンッ。ドスンッ。


「あいつらが叩いて……いやむしろ体当たりかましてる?」


 ドア付近に立つ龍と那由多は、祭壇の方へと後ずさりした。


「そういやアルバ、さっきはどうやって開けたんだ」


「ワタシは何も。自動的に解錠されたのよ」


 緋雨の脳裏に、莉緒華の顔が浮かんだ。


 ドスンッ。


「まさか簡単に破られはしないよね? 頑丈そうなドアだし──」


 那由多を嘲笑うかのようにドアの真ん中がへこんだ。


「他の出口あるよね!?」


「いかにも怪しいのがあるじゃん」茶織は釘バットで、祭壇前に置かれた縦長の白い大きな箱を指した。


「いや、それって普通はご遺体が入って……」


 ドスンッ! ドスンッ! ドスンッ!


 龍とアルバがドアに向かって武器を構える。


「お、簡単に開きそう」


 茶織は棺の蓋に手を掛けると、ゆっくり持ち上げた。


「わっ!」


 棺の中から強烈な光が溢れ出し、茶織と那由多、緋雨は思わず目を閉じ顔を逸らした。龍とアルバも、振り向かなくても眩しさを感じた。


「ねえ、何か目眩するんだけど、この感じって」


「どうやら戻れるようだな、現実世界に」


「ご遺体入ってなくて良かったじゃん、ナユタリウス!」


 光は全てを包み込むかのように部屋中に広がると、一際強く輝き──茶織たち五人の姿は、まるで最初からその場にいなかったかのように消えていた。

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