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【再改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第四章

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#42 追跡

 炎は、あっと言う間にテント全体を呑み込んでしまった。


「クソッ! あんにゃろーが!」茶織は釘バットを何度も地面に叩き付けた。


「足跡とか血痕とか、何か残ってないかしらね」


「ここに来るまでの間のように、隠し通路があるかもしれんぞ」


「捕まってる人たちが心配だよ」


「なあ、あれ……」


 龍が燃え盛るサーカステントとは逆方向の、数十メートル先の空を指差した。雲と雲の間に、大きな渦が発生している。


「おお、どうやら見付けたようだな」


「あの中に入ればいいってわけか! ほら緋雨、順番に運んで!」


「ほらじゃない。無茶を言うな」


「とりあえず真下まで行ってみましょう」


 アルバが言うや否や、茶織は「おっしゃ!」と笑顔で走り出した。


「やれやれ……とっととピエロを倒し、元に戻さんとな」


「ああ。じゃないと俺たちの身が持ちそうにない」


 緋雨と龍は互いを労うように頷き合った。


「あら、ワタシは今のサオリが結構好きよ」アルバがのんびり言った。「本来のサオリも好きだけれどね。でも本来のサオリの誰も寄せ付けないような雰囲気、生まれ持った性質じゃない気がするのよね」


「じゃあ……育った環境が原因、とか?」


「ちょっとちょっとー! 何してんのさー!」渦の真下に立った茶織が大声を張り上げた。


「ごめん、今行くよー!」


 那由多が応えると、茶織はまだ何か言おうとしていたが、ふと何かに気付いたように渦を見上げた。


「どうした」


 茶織は仲間たちに向き直ると、ニカッと笑い、


「先に行く!」


「何だって?」


「あら、あれ見て」


 アルバが渦を指差した。渦は右回りにゆっくり回転を始めていた。


「遅れないでよね!」


 茶織が釘バットを持った右手をピンと伸ばして上げると、直後、その体がゆっくり浮き上がった。


「え、何あれ!?」


「あの渦が吸い込んでいるのよ」


 渦の回転が速くなり、地上一〇メートル付近まで浮き上がった茶織は、あっという間に吸い込まれていった。


「わけわかんねえ」


「まったくだ。下りたと思えばまた上るのか」


「何かもうほんとに滅茶苦茶だね。ちょっと笑えるけど」


「ほら、早く行かないと消えちゃうかもしれないわよ」アルバは既に先へ進んでいた。「なかなか楽しそうよね。ワタシは二番目ね。ウフフ」


 残された男性陣はもう何も言わず、アルバの後を追った。




 渦に吸い込まれた茶織たち五人が放り出されたのは、無機質なリノリウムの床の上だった。薄暗い通路になっており、一方は行き止まりで、もう一方は真横にキーパッドの付いた頑丈そうなドアに続いている。


「今度は何処だ」


「あのドアの向こうに行かなきゃわからないみたいね」


「でもロック掛かってるかも」


「ぶっ壊せば済む話でしょ」


 ドアの方へ向かおうとする茶織の肩を龍が掴む。「失敗して罠でも作動したらどうするんだよ。何でそう短絡的な発想しか出来ねえんだ」


「じゃあ何さ、パスワード知ってんの?」


「知るわけないだろ」


「二人共、来たよ!」


 行き止まりの壁が歪み、ピエロの面の男女が一人ずつ這い出てきた。


「えー、迷うんだけど。ドアも壊したいけどアイツらも殴りたい」


「解錠はワタシが試してみるわ」アルバがドアの前まで進み出た。


「お前だって危ない事には変わりないだろ」


「リュウよりずっと頑丈よ」アルバはドアに向き直ると、キーパッドを睨むように見やった。「さて……どうしようかしら」


 最初に這い出て来た二人の後からも、次々とピエロの面の化け物たちが現れる。


「交通渋滞!」


 茶織が先頭に立って釘バットを振るい、仕留め損ねた敵はその後ろの緋雨が殴り飛ばす。敵はすぐに倒れ、溶けるようにして消えるものの、増援は次から次へと増え続け、一向に止まる気配がない。


「疲れた! 暑い! アンタの扇で仰いでよ、ナユタリウス!」


「そのあだ名は初めてだよ。あのね、そうしてあげたい気持ちは山々なんだけど、あんまり近付き過ぎちゃうと俺の頭が潰されちゃいそうだからさ」


 ガチャリ。


 小さいがはっきりとした音に龍と那由多が振り向くと、ドアノブを左手で掴んだアルバが、ゆっくりとドアを開けているところだった。

 茶織が腕の筋肉の限界を訴えた。緋雨が下がるように言うと、龍が二人の間に割って入って錫杖を振るい、光の刃を放った。その場にいた敵は一掃されたが、数秒後にはまた新たに数体が這い出そうとしていた。


「ドアはもう開いた。今のうちに入るぞ」


「中はどうなっている」


 アルバの後ろから部屋を覗いた那由多は、困惑の表情を浮かべて振り向いた。


「どうした」


「何か……今までで一番嫌な感じかも」


 アルバがドアを一気に開いた。五人で入るには少々窮屈な狭い部屋だ。壁際に二、三人が座れそうな背もたれのない長椅子と、その対面の壁の上部にエアコン、そして奥には小さな祭壇があり、縦長の白い大きな箱が台の上に横向きにして乗せられている。


「霊安室だ」


 しんとした薄暗い通路に、龍の声は不気味な程よく響いた。

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