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【再改稿版】骨の十字架  作者: 園村マリノ
第四章

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#40 殺人サーカス③

「よっし、発見!」


「待て、危ねえぞ!」


 隠し通路を見付け、我先にと走り出した茶織の後を追った龍は、数メートル進んだ先ですっかり性格の変わった仲間の腕を掴んだ。


「あんたは死にかけたんだ。もう少し慎重に──」


「え、アタシが? いつよ」


「……覚えてないのか?」


 茶織が僅かに首を傾げると、龍の顔は曇った。


「じゃあ……あの約束も?」


「二人共大丈夫ー?」那由多が通路の出入口から顔を覗かせた。


 五人全員が集まると、改めて茶織を先頭に進んだ。平坦な一本道に足音が反響する。


「何も出ないじゃん。つまんないの」茶織が子供のような口調でぼやいた。


「出て来られたって困る。こんな狭い所じゃ武器振り回せないだろ」


「まあ確かに、アンタの女の子みたいな可愛い顔にヒットさせるわけにもいかないもんねー!」


「何言って……おい待て、だから危ねえって言ってんだろ!」


 再び走り出した茶織を、龍は慌てて追い掛けた。


「茶織さん……ほんとすっかり別人だよね。何だか変な感じ」


「まったくだ。あれじゃあかえって調子が狂う」

 

 戸惑う那由多に、緋雨は溜め息混じりに同意した。


「リュウってば、敬語使うのも忘れているわね」アルバは楽しそうだ。


 隠し通路の先は行き止まりだった。


「さっきみたいに絶対に出口があるはず」


 茶織が釘バットとリュックを足元に放り、両手で壁を探り始めた。


「壁だけとは限らんぞ」緋雨は地面を指差した。


「なるほど……って待て待てやめろ!」


 片足を壁に引っ掛けようとする茶織を、龍は無理矢理引き剥がした。


「いや逆にさ、上かもしれないって」


「だからって危ない真似はするな! つうか登れねえだろ」


「はいはい、んじゃこっちにしますよーだ」


 茶織は片膝を突いて地面を探り始めた。


 ──やれやれ。


 龍は小さく溜め息を吐くと、茶織と同じ姿勢になって地面に触れた。大理石調になっており、少々ヒンヤリする。

 程なくして、茶織たちと同じように地面を探っていた緋雨が何かに気付き、手を止めた。


「恐らくここだ」ある一点を拳でコツコツと叩く。「異様に熱を帯びている」


「地面に穴開けるの?」那由多が後ろから覗き込んだ。


「そうなるな」


「はいはい、どいたどいたーっ」


 茶織は嬉々とした様子で釘バットを握っていた。




「教え子たちのいじめを見て見ぬ振りし、更にはいじめ加害者である野村君と山井君の嘘を鵜呑みにして被害者の少年を追い詰めた、中厚彦さん! 残念ながら不慮の事故で命を落としてしまいました! はい退場~! ケケケケッ」


 観客たちは笑っており、誰一人として哀れんだり動揺している様子はない。

 髭の女は中の死体を頭陀袋に押し込み、来た時と同じようにズルズルと引き摺ってステージ奥へと姿を消した。


「うう……ああ……」


 腰を抜かした野村を、ピエロの面の男二人が無理矢理引っ張り起こした。


「さて! 全員揃ったところで改めて! 殺人サーカス最初の演目は……これだ!」


 ステージ奥からピエロの面の男女が五人現れた。四人の男たちは所々に細長い穴の空いた大樽を抱え、女は刃渡りの長いナイフが何十本も乗せられた、三段式のワゴンを押しながらやって来る。それぞれ設置が終わると、ピエロの面の男女はステージの端へ下がった。


「ここにいる四人のゲストの中から一人、あの大樽の中に入ってもらう。そしてボクが樽中に空いた穴の好きな箇所を選び、ナイフで刺して反応を楽しむという、シンプルながらもクセになる演目! その名も『いじめっ子危機一発』!」


 観客たちは一斉に拍手喝采した。

 ピエロがワゴンの上からナイフを一本取り上げて頭上に掲げると、会場内は更に湧いた。


「さて、樽の中に入るゲストだけど」ピエロはゲスト四人へ振り返り、ニイッと笑った。「誰がいいかなあ?」


 村上と中谷が口々に「許してくれ」「助けて」と懇願するのを、野村は他人事のように聞いていた。


 ──オレはメインゲストだと言っていた……今じゃない。


「お前が死ねよ」山井の言葉は野村に向けられていた。「お前がアイツを率先していじめてたろ」


 山井に睨まれ、野村は一瞬怯んだが睨み返した。


「ぞ、ぞうだあああっ! お前が()ぬべぎだっ!!」


「そうよぉ! わ、わたしはそこまで悪い事してない! あ、あんたと山井のせいでえええっ!!」


「うるせーなブス! オレは野村(コイツ)程やっちゃいねーよ!」


「ふ、ふざけんな山井テメ──」


「はいはいうるせえうるせえ」ピエロの顔からは笑みが消えていた。「あんまり時間掛けるわけにはいかねえんだよ。とっとと来い……村上」


 村上は叫びながら逃げ出そうとしたが、大男二人がそれを許さず、ステージ中央の大樽まで無理矢理引き摺っていった。


「嫌だあああ!! はなじでぐれええええっ!!」


 抵抗虚しく、村上は後ろ手に縛られ、首から上だけが出た状態で大樽の中に入れられた。


「さあ、やっと準備が整った! 事前に入れておくべきだったかな? 次からはそうしよう!

 さて、それでは改めて……『いじめっ子危機一発』!」


 観客たちの歓声を背に、ピエロは再びナイフを頭上に掲げ、ゆっくり大樽に近付いてゆく。村上は壊れた機械のように「嫌だやめてくれ助けてくれ」を繰り返し続けている。


「マジかよ……マジでやるのかよ……」震えながらも山井の視線はピエロに釘付けだ。


「嫌……やめてお願いだから……!」中谷は顔面蒼白で、今にも気絶しそうだ。


 野村も震えつつ、少々安堵していた。


 ──とりあえずは助かった。残りの山井と中谷(こいつら)を犠牲にしてでもぜってー逃げてやる……!


「ど・こ・が・い・い・か・なぁ~?」


 ピエロが歌うように言うと、観客たちは興奮した様子で「上段!」「ど真ん中だ!」「下から順に!」と好き勝手に叫んだ。


「いやだやめでぐれだずげでぐれえっっ!!」


 ピエロはナイフを構え直し、ゆっくりしゃがんだ。「ようし……まずは下からいってみよう!」


 村上の悲鳴は大歓声に掻き消されたが、BGMが鳴り止み、代わりに緊張感を高めるようなドラムロールが轟くと、観客たちは一瞬で静まり返った。


「まずは左端から!」


「ごめんなざいごめんなざいごめんなざい!!」


「一発目! ご覧あれ!」


「ごめんなざいごめんなざいごめんなざ──」


 ピエロが大樽の左下の穴に、ナイフを深々と突き刺した。同時にドラムロールが止んでシンバルが鳴り響き、村上は苦痛に顔を歪めながら絶叫した。

 ピエロはナイフを引き抜くと、刺す前と同じように高々と掲げて見せた。刺す前と異なるのは、刃先が血で真っ赤に濡れ、柄を伝って流れ落ちる点だった。

 観客は歓声を上げ、野村たちゲスト三人は悲鳴を上げた。




「えーと、ここは……」


 新たに発見した狭い通路は、下り階段となっていた。延々と下り続け、ようやく姿を現した古びたドアを開けるとそこは、地面が乾いてヒビ割れた殺風景な土地だった。


「ねえ皆、向こうを見て」


 一同はアルバが指差す先を見やった。数十メートル先に、てっぺんで赤い旗がなびく、紅白のストライプ柄の大きなテントがそびえ立っている。


「あれは……サーカスのテントか?」


「ピエロに相応しいね」


「えー、アイツ『六堂大道芸で派手な演目を披露する』んでしょ。テントの中でサーカスじゃ、大道芸とは違うじゃん」


「おい、釘バット振り回すな!」


「シーッ」アルバが人差し指を口元に当てた。「ほら、聞こえない?」


 大勢の歓声と悲鳴、いやむしろ絶叫のようなものが風に乗って聞こえてきた。


「行こう」


 仲間たちと同じように走り出そうとした龍は、茶織に呼び止められて足を止めた。


「……何だ」


「約束なら覚えてる。クソ生意気で身勝手な人殺し道化野郎をさ、一緒に倒すって話でしょ。アタシとアンタで」


「……ああ」


 龍は平静を装いながらも、内心安堵していた。口調が変わろうと少々子供っぽくなっていようと、やはりこの女性(ひと)は道脇茶織なのだ。


「そんでもって裸にひん剥いて色々してやるんだよね」


「やらねえよ。記憶を改竄するな」


 茶織が笑いながら走り出すと、龍は何とも言えない表情で後に続いた。

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