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02_曲がり角で美少女とぶつからない

 「僕は今日もかっこいい。僕は今日もかっこいい。僕は今日もかっこいい。」


 鏡に向かって三回唱える。

部屋の壁に立てかけられた姿見は、僕の頭のてっぺんからつま先までをはっきりと映している。

今の時代にしては少々古風な学ランは、僕が一年前から通っている中学の制服だ。

身長が大いに伸びることを期待して買った制服は、入学から一年たった今でも裾を持て余している。


 しかし問題はない。身長は伸びる。僕はそう確信している。


 なぜなら、僕の父親の身長は180センチを優に超しているのだから。


 生涯伸びる身長の90%は遺伝で決まっているらしいとどこかで聞いたことがある。


 それならば僕の身長がこのまま伸びないというのは非常に考えづらい。

二つ上の姉だって高校生にもなって未だに身長が伸びている。

僕は第二次成長期が来れば一気に伸びる。間違いなく。


 唯一の懸念点とすれば、母親はかなり小柄な方だということだが、まあ気にすることはないだろう。姉が伸びてるのに僕が伸びないはずはない。



 毎朝のルーティーンを終えて家を出る。時計を見るともう始業時刻の10分前だ。


 僕の家は幸いにも学校にほどよく近い。走れば5分ほどで門をくぐることができる。


「ちょっと急ぐか」


 歩いても間に合う時間ではあるが、道中何があるか分からない。


 昨日も登校中に変な人に話しかけられたし。


「それにしてもあれは一体何だったんだろう」


 黒いローブを着た怪しげな人物で、たしかUFOがどうとか言ってたっけ。

もしかしたら電波系というやつだったのかもしれない。アルミホイルの話題が出てからは聞き流していたから詳しい話は覚えてないが。


 しかもやけにしつこくて、始業時間に気づかずうっかり遅刻になってしまった。


 もう同じ轍は踏むまいと、少し早足で歩く。


 角を曲がる。

突然目の前に影がかかった。それとほぼ同時に、鼻が押しつぶされる感覚と猛烈な痛みを感じた。

何かとぶつかったのだ。

昨日のことに頭を集中させていたせいか、前方への注意がおろそかになっていたようだ。


 そのまま勢いよく仰向けに倒れ込む。


 背中に衝撃が走る。今朝ベッドから落ちた痛みがまだ残っているのに、さらに追撃が加わった。神様は僕の背中になにか恨みでもあるのだろうか。


「ふぐっ」


 痛みに耐えながら、なんとか起き上がろうとするが、なぜか上手くいかない。

すぐに原因は分かった。何かが上に乗っている。正体を確認するために、頭だけを起こす。


 女の子だった。

見知らぬ女の子が僕の上に倒れ込んでいる。


 年は僕と同じくらいだろうか。


 ぱっと目に入ったのはやわらかな桜色の髪。

ぶつかった拍子で乱れているが、腰くらいまであるだろう。


 ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐる。


 そう、飛び出してきたのは少女だったのだ。


 そのときなぜかふと今朝の占いが頭に浮かんだ。


 「運命的な出会いがあるかも」


 なんていったアナウンサーの声が脳内で再生される。


 確かにこれが少女漫画なら曲がり角で美少女とぶつかる王道展開。

僕がかっこいいヒーローなら、すぐに立ち上がり、彼女に手を差し出すべきだろう。


 しかし今の僕にはそんなことできそうにない。


「お、重い」


「失礼じゃないかなあ!」


 それまで僕の胸に顔を埋めていた少女は突然意識を取り戻したように僕の発言に食ってかかった。


 顔を上げた彼女と初めて目が合う。

端整な顔立ちだと思った。ぱっちりとした目ときゅっと上がった口角に桜色の髪が揺れ、穏やかな春の日差しに満開の花を連想させる。



 「それより!これって運命です!あなた、魔法少女とか興味ありませんか?」


 「は?」


 急に何を言い出すんだ。

何が悲しくて二日連続で変なやつに捕まらないといけないんだろうか。


「魔法少女ですよ。分かりませんか?」


 彼女は僕の疑問符を言葉の意味に対してだと思ったのか、説明を続けようとする。


「それより早くどいて欲しいんだけど」


 変なことを言う彼女に少し語気を冷まして、未だに僕の上にのしかかっている少女にどいて欲しい旨を伝える。


 すると彼女ははっと気づいたように立ち上がり、少し申し訳なさそうな表情をした。


「いやー、ごめんなさい。少しうっかりしてました。ここだと私、体重があるんでしたね。」


 まるでどこかでは体重がないみたいな言い方に疑問を覚えたが、大して気にしないことにした。僕はすでに確信していた。この人は昨日の不審者と同じ人種だ。また独自の世界観を語られて時間を取られるわけにはいかない。

幸いにも彼女にケガはないようだし、ここはさっさと切り上げて学校へ向かおう。


「それでは僕はここで失礼します」


 そう笑顔で去ろうとしたとき、右腕を捕まれた。

もうすでに彼女とぶつかったことで時間はギリギリだ。このまま引き留められると遅刻常習犯のレッテルを貼られかねない。


 「あの、お名前を教えていただけませんか」

 「はる―」


 上目遣いで問いかけられ、その破壊力に先ほどまでの彼女の発言を忘れてうっかりと名前を教えそうになる。ほぼ言ったも同然で、途中で止めたせいで逆にハンドルネームみたいになったが、もう会うことはないのだからいいかと割り切る。


 改めてぶつかったことに対する謝罪だけ簡潔に述べて、僕はその場から去った。


 ちなみにギリギリ遅刻した。




「あー行っちゃった」


 少女はぽつりとつぶやく。


「はるちゃんかー。かわいかったな」


 それにしてもまさか本当だとは思わなかった。

曲がり角で走れば美少女と衝突できるっていう文献。ほとんど絵でかかれていたから解読しやすいかと思って選んだ本だったが、正解だったようだ。この世界の書物は信憑性に欠けると思っていたけれど、勘違いだったのかもしれない。考えを改めなくては。


 考えをめぐらせていると手に痛みを感じたので見てみると、すこし血がにじんでいた。どうやらぶつかった時に手の平だけ地面に擦っていたようだ。


「少しもったいないけど仕方ないか」


 ポケットをまさぐり、棒状のものを取り出す。ケガの反対の手で()()をもち、傷口に向けて言葉を放つ。

 するとそこから光が集まり、傷は跡形もなく消えた。


「私の魔法はタダじゃないんだから、使い道は慎重にならないとな。

でもでも、こっちに来て早々にあんな逸材に出会えるなんて、私ってば超ラッキーじゃないですか!絶対あの子を魔法少女にしてやるぞ!」


 そう言って、握った拳を青空に突き上げた。

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