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アイラの実りが揺れる声  作者: 夜霧ランプ
第六章~影を纏うもの~
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第十話「外野達の沈黙」

 猫達の祭りは、一時中断していた。

 実況猫が、静かな声でマイクロフォンに言う。

「皆様、ついに、祭りも佳境。『主様』はお姿を現しかけましたが、瞬く間に隠れてしまいました。

 我々猫族も、彼のお姿を全て目の当たりにすれば、発狂は必至。照明さん、ライトをゆっくり消して。そうそう。

 先程、『主様』を鎮めるために駆り出された人間の子供達が、『主様』と遭遇し、七人の内の三人が、何かを成そうとしています。

 皆さんご存じの通り、岩人間達の目論見は、自分達を極地に追いやった、他の生物への報復でございます。

 彼等は『世界』が滅ぼされるのであれば、自分達が、いの一番に抹殺されるなどとは思って居ないでしょう。

 人間の子供達が何かをしているのか、岩人間達の一部は、次々に息の根を止められて行っています。

 ああ、空を飛んでいるほうの、人間の……髪の長さからして、女の子と思われる三名が、『主様』の行方を追っているようです。

 彼女達にカメラを近づけて見ましょう」

 その言葉の通りに、青い炎に包まれながら空中を飛んでいるルシアとノワ、そして白い光の殻に包まれながら空を飛んでいるレンカの様子が、ステージ上の巨大スクリーンに映し出された。

 丁度、映画を観てるみたいだった。


 その頃の、朔の「象徴世界」の中も、大変なものだったとアナントは後に語った。

 朔は、地面を動く大岩に手を触れながら、それ等を抹消しつつ、予定の「穴が開く場所」まで辿り着いた。

 周りの岩を消していると、地響きと共に「白くて巨大なバルーン」が氷を砕いて現れ、風船の先の尻尾を振り回し始めた。

 そのバルーンは、朔の存在を感知できないようだ。風船の先の尻尾が周囲を一周しても、朔の「体」に触れる事は出来ない。

 やがて、岩達が変な事を叫び始めた。

「全世界に制裁を」と言う、波のような叫び。

 通信の中で疑問が上がっていたので、聞き取れた内容を送っておいた。

 しかし、その声は余りに煩いので、朔は顔をしかめて片手を頭に当てた。

 何時の間にか、巨大なバルーンの周りに、鳥がいる。

 白い鳥が一羽、風船の尻尾に捕まった。黒い鳥の一羽に、その身をぶつけられている。

 二羽は、空中から滑るように吹き飛ばされてしまった。空中に残っていたもう一羽の黒い鳥は、見失った仲間の二羽を探すように、あちこちをふわふわ飛んでいる。

 それから、ある一点を見つけると、そっちに向かって飛んで行った。

 あの鳥達は、きっと「ノワ」と「ルシア」と「レンカ」の三人だ。あの三羽を、助けてあげないと。

 朔は、鳥達の後を追った。


 地面に落っこちていた白い鳥と黒い鳥の所に、三羽目が合流する。

 よかった。大丈夫だったみたい。

 そう思って、朔は次にすべき事を考えた。

 振り返ると、大穴からはみ出ていた白い風船は居なくなっていた。

 朔は、世界の中を覗くための視野を使った。

「心の内に入り込む時はね、こうするんだ」と言って、トリノが教えてくれた方法だ。

 南極地の一部が、上空から地図のように見える。大穴のある場所の周りには、四ヶ所に小さな穴があった。外側から氷を削って開けた穴だ。

 地面の中を動く風船は、その穴の一つに向かっている。

 鳥達も、その風船に付いて行く。

 穴の周りは動く岩で埋まっているので、鳥達の降りれる場所を作ってあげなきゃ、と朔は思った。

 視野を戻し、岩達を始末しながら先を急ぐ。

 動く大岩達は、穴の周りで踊り狂っていた。黒い水滴のようなものが、抉られた氷の縁から、大地の深くに滴っていた。


 それは、かつてミラが僕に話してくれた「影の水」と同じ物だった。

 僕も、それを受けた時は「心臓が冷えているような感覚」を感じたけど、「主様」にとってもあんまり居心地の好い物質ではないようだ。


 アナントは、朔が何処に行こうとしているかを知り、懸命に岩達の間を潜り抜けて、彼の元に駆け付けた。

「朔!」と、呼びかけ、その足元に息を弾ませながら身を寄せた。「あの穴に近づいちゃいけない。毒素が……」と、声を嗄らして知らせる。

 少年も、岩達の異様な様子が分かったようで、息も絶え絶えのアナントを抱えて、来た道を引き返そうとした。

 しかし、鳥達は穴のすぐ近くで滞空しようとしている。

 朔は一瞬迷った。避難すべきか、それとも鳥達を守るべきか。

「大丈夫だ」と、アナントは言い切った。「あの鳥達は、悪いものに食べられたりしない」

 朔はその言葉を信じる事にした。

 大量の岩が集まっている遠くの大穴と、少数の岩達が集まっているその周りの穴の間。岩達の存在がまばらになっている辺りで、再び空を見上げた。


 ノワは、「影の水」が岩人間によって意図的に集められている事を知り、大きな瞳を怒りに吊り上げた。

「あれ、何してるんだろう」と、ルシアが穴の周りを指さす。

「影を汚してる」と、ノワは答えた。彼女の周りを守っている青い炎の中で、内なる火のように、黒い影が揺らぐ。「外の世界の『影』を毒にして、地面の中の世界に送り込んでる」

「つまり、環境汚染」と、レンカが言う。「それは黙って見てられないね」

「ノワ。何とか出来る?」と、ルシアは聞いた。

「出来る。だけど二人とも、少しだけ……悲しい気持ちがするかもしれない」と、ノワは言う。「ミラ。守って」と、自分を覆う影に指示を出し、透明な闇の殻に身を包むと、一滴の雫のように大地の穴の中に消えた。


 猫達は、ノワ達の様子をスクリーンで眺め、小さく感嘆を漏らした。

 実況猫がマイクロフォンに言う。

「人の子の一人が、ご覧のように、大地の底へと向かいました。彼等は、岩人間達を打破し、この地に平和をもたらすことが出来るのでしょうか。

 この間もいらっしゃっていた、一般市民の人間の方。是非、貴方の感想をお聞きしたい」

 そう言われて、僕にマイクロフォンが向けられる。

「『環境破壊』は良くないですよね」と、僕は呟いた。「でも、なんであなた達は、岩人間に協力して居たんですか?」

 それを聞くと、猫達は総毛立った。

 近くに居た猫達が、身を震わせながら僕に文句を言う。

「何をおっしゃる。我々が『主様』を呼び出したのは、あんな岩共に(くみ)するためでは……」

「ストーップ……」と、実況猫が、喋ろうとしている猫の口に肉球を当てて、静かに止める。

「お静かに。解説のブリューゲルさん。一般市民の人間の方に、そーっと説明を」

「はい。承りました」

 そう言って、白黒猫は僕に耳打ちする。

「我々がこの数年間、夜ごとに行っていた、この儀式には、訳があります」

 ブリューゲルの言葉を整頓すると、こうだ。

 南極地に追いやられた岩人間達は、近年の温暖化により数が増えてきて、南極地の一部ではペンギンより数が多くなってしまった。

 普通だったら活動の鈍くなる冬季でも、何やら怪しげな動きを見せるようになり、猫達の調査で、それが「嘆きの滴り」を集める活動である事が分かった。

 どうやら、南極地で眠りに就いている「主様」を悲しい気持ちにして叩き起こして、その嘆きで、「自分達に都合の悪い世界」を滅ぼして頂こうと言う計画を練ったようなのだ。

 猫達は、「主様」が少しでも理性を持っているうちに、ご自分の身の危険に気づいてもらうために、「早起き」をしてもらったのだ、と言う事である。

 どっちみち、本体に起きてもらって、彼自身にどうにかしてもらわないと、猫達にはどうしようも出来ない事だったそうだ。

「それは大変でしたね」と、僕が納得すると、「でしょう?」と、ブリューゲルは囁いた。

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