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アイラの実りが揺れる声  作者: 夜霧ランプ
第六章~影を纏うもの~
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第九話「寝た子を起こす祭り」

「何者か」は、機嫌が悪かった。星の対流の中で心地好く眠って居たのに、地上の卑小な者達が騒ぎ続けて、遂には対流の中にまで影響を及ぼし始めた。

 居心地の好かった黒い流れは、ピリッピリッと針で刺すような刺激を与えてくるようになり、その度に眠りを妨げられた。

 ぼんやりと意識を覚醒させると、卑小な者達は音を立て、騒ぎ合っている。あまつさえ、彼を包んで居た大地に大穴を開けていた。

 何の目的で、誰が、我の眠りを覚まそうと言うのだ。

 そう思ったら、対流の中は更に居心地が悪くなってきた。彼の体から生えている触手に、何か絡み付いてくる。一度脱ぎ出ないと、状態は治りそうにない。

 そんなわけで、彼は絡まりを解こうと、丁度開いていた大穴に頭を覗かせたのだ。


ゴアルウィニド(主様だ)!」と、隠れていた岩人間は叫んだ。「ゴアルウィニア(主様が)イノグワリャナ(お姿を現した)!」と言って、打楽器をダンダンダンと鳴らす。

「グイルギリガム・ガァウアウアアアアー!!」と、岩人間達は両手を天に上げて唱え始める。「グイルギリガム・ガァウアウアアアアー!!」

 その言葉は、人間にも「何者か」にも通じなかった。岩人間達のコミュニティは、南極地に限定されていて、他種族と交流を持ったことが無かったからだ。

 その濁る音の多い言葉の波が、煩い事だけは皆分かる。

 ペンギンより数の多い岩人間達は、遠巻きに「主様」を囲みながら、叫び声を波の音のように上げ続けた。


「主様」は、何処かから、星の流れを汚している、ある種の毒素が流し込まれている事を知っていた。

 その毒素が流れて来る場所を突き止めようと、触手を方々に動かした。

 地上に伸ばした方の一本で、だいぶ近くに居た、恐らく「人間」と言う種族の生き物を、触手に絡めてしまった。その「人間」は他に二匹居たので、一方に、掴んだ個体を投げつけておいた。

 奴等は群れて生きるので、集めて置けばどうにかするだろう。

 それより問題なのは、毒素は何処から流れてきているのかだ。頭を出した穴の周りには、他に穴は開いていないようだった。

 主様は、一度氷の中に引っ込んでみる事にした。

 体をチクチク刺してくる毒素は痛いが、地面の下の流動の中から、直接探したほうが早いと結論付けたのだ。


「引っ込んじゃった」と、キリクスは言う。「だけど、地面の下を泳いでる」

「どう言う事だ?」と、ウィールが質問する。「あの『何者か』は、岩人間達の願いを叶えに来た、『神様』じゃないって事?」

「そう言う事なんでしょうかね……」と、レイユーは自信がなさそうだ。「岩人間達は、まだ何か唱えてますけど」

「あれ、何て唱えてるんだろう」と、キリクスは疑問を持った。

 パッと、レイユーが何もつけていない片耳に手を当てる。「朔からの通信。『全世界に制裁を』って意味ですって」

「おお?」と、ウィールが人差し指をレイユーに向ける。「夢の中と接続できんの?」

「え。あ。まぁ、そんな感じ」と、レイユーは曖昧に述べた。

 朔が今居るのは、夢よりイマジネーションの中に近い、朔の意識が届く範囲の能力的テリトリーで、朔は其処から「覚醒した状態」で信号を送ってきている……と言う説明をするのが、まどろっこしく感じたのだろう。

 今一つ納得できないウィールは、「え? 違うの? どゆこと?」と、更にツッコミを入れる。

「いや、夢の……うん、夢の……」と、レイユーも肯定しようか否定しようか迷っているようだ。

「とりあえず」と、しどろもどろしている背後の二人のやり取りを、キリクスが止めた。「岩人間が『穏やかな種族』じゃない事は分かった」

「全世界に制裁を……」と、ウィールが復唱し、「つまり、世界を滅ぼして下さいと」と纏める。

「そうなりますね」と、レイユーは咳払いをしながら言う。

「なんか、朔にエールを送りたくなっちゃう」と、キリクスは冗談を言ってから、「女の子達は大丈夫かな」と気づいた。

 目標物が地面の奥に引っ込んだ事から、気を抜いてしまって居た。


 女の子二人は、大穴を地面の遠くに見る、氷の地面まで吹き飛ばされていた。プラズマ体の保護は消えていない。下敷きになったルシアは、先に目を開けた。

「ノワ……。ノワ、起きて。重たい」と声をかけると、ノックダウンされているノワの周りの、「影」の方が反応した。

 ノワの体をお姫様抱っこするように、「影」が空中で支える。

 ルシアはようやく体を起こす事が出来た。何処にも怪我が無いか、自分の体を確認する。内毛皮の防寒具は、丈夫だったようだ。

「ひゅーん!」と言いながら、一人だけドレス姿のレンカが、地面に着地した。着地する時にちらりと見えたが、足元はふかふかのレギンスと毛皮のブーツで覆っていた。

「大丈夫? 結構吹き飛ばされたから、探すの手間取っちゃった」と、レンカ。

「一応、私は大丈夫。だけど、ノワが起きないの」と、ルシアは伝えた。

「頭打ったのかもね」と言って、レンカはノワの方に手を伸ばす。彼女の白い髪にタッチして、何の気も無いように「これで大丈夫」と告げた。

 その言葉通りに、ノワはぼんやりと瞼を開く。

 ルシアが、「ノワ」と声をかけると、数回瞬きをし、それから瞳が動いた。

「私……。どうなったの?」

「あのお化けダコに掴まれて、空中で私とぶつかったの」と、ルシアは説明した。

「ダメージは無いでしょ?」と、レンカが言う。

「え、ええ。そうみたい」と、ノワは答えた。

 ルシアは、レンカが「負」を吸い取ったのだと分かった。

 そんなに簡単に、他人のダメージを吸い取ってしまって大丈夫だろうか。

 その疑問に気づいたように、レンカは片手を上げて見せた。

「問題ない。私、許容量は多い方なの」

 そう言って、舌先をチロッと見せて来る。

 ルシアは「無理はしないでね」と言って、レンカの手に勢いよくハイタッチをした。

 その時、彼女が吸い取った「負」を、少しだけ肩代わりした。


 通信が通り、情報を受け取った女の子達は、「何者か」の後を追ってみる事にした。

「地面の流動の中を、何処かへ向かって泳いでる」と、レンカが情報を繰り返す。それから、「果たして、何処へ?」と、残りの二人に問いかけた。

「何処だろうね」と、ルシア。「岩人間は、『主様』に『世界を滅ぼして』って願ってるみたいだけど」

「じゃぁ、あのお化けダコは、岩人間の願いで呼び出されたって事?」と、ノワ。

「僕達の方では」と、キリクスの通信が飛んできた。「岩人間達に呼び出されたけど、願いを叶える気はなさそうだって意見で纏まってる。

 それから、オペレーターさんにも通信を送ったんだけど、何かのエネルギーでジャミングされてる。運転手さんは、現場の事は専門外だって」

 キリクスは淡々と告げた。

「頼れるのは自分達だけ、みたい」

 そこまで言い切られてしまうと、夢の中から様子を見ている僕も、戦力外なんだなぁって思えて来てしまう。

 それは事実なのであるが、大人としてはふがいない限りだ。


 輸送車の運転手の話では、予備の液体燃料を使っても、奥地に移動できるのは残り三百キロほどだと言う。

「化け物を追うのかい?」と、運転手は聞いてきた。

 キリクスは、専門知識が要らない程度に、噛み砕いて説明した。

「いいえ。女の子達の後を直線的に追って下さい。朔の『領域』から、彼女達が外れないように」

「その『領域』って言うのは、どのくらいの広さなんだ?」

「多分、三百キロ移動しなくても、ギリギリ届きます」と、キリクスは希望的な意見を残しておいた。

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