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アイラの実りが揺れる声  作者: 夜霧ランプ
第六章~影を纏うもの~
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第七話「言われた通りに」

 僕はその晩も、猫達のお祭りを見ていた。今日の舞踏の部の採点は百六十七点だった。

(から)い点数ですねぇ」と、実況係の雉猫が言う。

「途中で足を滑らせましたからねぇ」と、解説係の白黒猫が言う。

 そのお祭りが開催されている間、僕のやっておく事としては……ポップコーンを食べて炭酸水を飲んでおく事だ。

 猫達のお祭りの向こうでは、子供達がヴィノ氏の作戦を展開している。


 最後に仲間になった「プラズマ体を操る子」は、ウィールと言う名前の、男の子だった。

 彼はザンバラに伸びた、傷んだ髪をしていた。

 ウィールも、少しばかり複雑な家庭環境に居る子だ。

 彼の姉と妹は病気がちらしく、風邪を引いては高熱を出す子供だった。

 両親がその度にてんやわんやに成るのを見て、ウィールは幼心に「俺は迷惑を掛けない子で居なきゃ」と言う、暗示を受けていたようだ。

 熱を出しても喉を傷めても、「平気平気」と言って学校に行く彼を、両親は「この子は体が頑丈で手のかからない子」だと判断するように成った。

 ウィールは、実際に病気に対する免疫力はあったが、体の作りは一般の子供と変わらなかった。

 怪我をすれば出血するし、内臓を圧迫されれば苦しくなる。

 そして周りの大人達は、彼が思っている以上に子供だった。

 彼が怪我をして頭を出血すれば、すぐにパニックに成るし、腹を打ち付けて痣と傷が出来てもパニックになった。

 救急車を呼ぶのではなく、彼を走らせて近所の病院に連れて行き、出血を促した。彼が傷の痛みや出血量の増加を訴えると、もっと急いで走らせた。

 切れた皮膚を塗ってもらう時には、ウィールは貧血になって意識も朦朧としていたらしい。

 何より痛ましいのは、彼がそれを「笑い話」として、大人達に語って聞かせる所だった。

 彼は、自分は大切にされる存在ではなく、「大人に迷惑をかけてしまって居る、出来の悪い子供」だと思って居る。

 守られる事を当たり前だと思えないが、彼は誰かを守る力は強かった。

 ウィールに関しては、僕もアナントもスカウトして居ない。ヴィノ氏が居場所を突き止めて、彼に直々に、南極地での「世界を守るための作戦」を話して聞かせた。

 ウィールも、レイユーと同じで、子供らしい――同時に子供らしくない――「当事者意識」を持ち、南極地で子供達を守る事について、「良いよ。やるよ」と、決して軽々しくない声で答えたと言う。

 ヴィノ氏はああ言ってたけど、何だか責任感の強い子ばっかりだなぁ。


 六人揃った子供達は、極地の気候に合うように毛皮の衣服で厚着をして、いずれ「大地を割る者」が出現されるとされているポイントへ移動した。

 輸送トラックの中で、キリクスとルシアとレイユーは、少なからず言葉を交わしたらしい。残りの三人の子供達は、慎重そうな面持ちで、沈黙していた。

 特に朔は、ポイントの周りに着く前から、能力を発動しなければならない。

「半径五十キロ圏内に到着しました。キリクス、朔、ウィール、レイユー。準備を」と、オペレーターに呼びかけられ、朔は走行をやめた車両内で、ベルトに体を預けたまま目を閉じた。

 キリクスは「探知」の力場を拡大し、ウィールはプラズマ体の保護を子供達全員に行き渡らせる。そして、レイユーは全員への通信術の起動を行なった。

 朔が目を閉じてから、数秒後。

 キリクスが言うに、「彼の周りの空間が、歪んだような気がした」との事だ。

 同時に、遥か彼方のポイントの周りに群がっていた岩の塊のようなものが、一体、また一体と、崩れて行った。


 群がる者が、唯の岩の塊になってから、女の子達は輸送車の外に降ろされた。

 ウィールの能力で保護されている子供達は、外の寒さもあまり感じなかったそうだ。

「キリクス。『敵』の位置は何処?」と、オペレーターの声。

 キリクスはポイントの地面の奥を「魔力」と言われる能力で探る。

「猫達の能力が『地面』を砕いている」と、キリクスは報告する。「今の所、『何者か』は氷で身を覆われているだけだ。何時、出てきてもおかしくない」

「エネルギーの吸収は、まだ行なわなくて良い?」と、外に出たルシアはオペレーターに聞く。「それとも、すぐに?」

「『レンカ』が到着するまで待って下さい」と、オペレーターは答える。「『レンカ』は、アクスメディナの『居留地』から、既に解放されたはずです」

「はーい」と、ルシアは答える。

 ノワの表情が緊張している。氷の大地を見回している彼女は、辺り一帯が「負」にあたるもので染められているのを、見て取っていた。

 それが、極地にだけ存在する特殊なエネルギーである。

 彼女達の背の方から、呼びかけてくる者があった。

「居た居た。間に合ったー!」と、言うのは、緑色のドレスを着た女の子。

 ウィールの作る保護壁とは違う、半透明の球体のような殻に守られて、空中を飛翔して子供達の中に舞い降りた。

「ジャーン!」と、その子は言う。「レンカ・フォレスト、参上!」

 ふざけ方を知らない他の子達は、片手を天にかざしてポーズを決めたレンカを、ぼんやりと見ている。

「反応悪いなぁ」と、レンカは言う。「拍手は無し?」

 そう言われて、女の子達はパチパチとまばらな拍手をした。


 始終、レンカはテンションが高かった。

「私の相棒に成る子はぁ、貴女でしょ?」と、ルシアを指さす。「見ただけで分かった。だって、私とそっくりだもん」

「そうね。私、ルシアって言うの、よろしく」と名乗ると、「ルシア・ソーマでしょ? 聞いてるー」と言って、レンカは一人で拍手をする。

「それから居るのはぁ、キリクス・フォークリッドと、リョウ・レイユーと、ノワ・ベルヌーと、ウィール・キリー、それからモリモト・サクでしょ? 全員、顔と名前は覚えてる」

 そう、指を折りながら喋るレンカは、氷の大地をぐるりと見回す。「他の子達は?」

「男の子達は、車の中」と、ルシアが代表になって答えた。「それで、私達はこれから、『地下の何者か』を封印しなきゃならないんだけど……」

「ん。オッケー。私とルシアが『負』を吸い取ってる間に、ノワが『影』を落ち着かせるんでしょ? わかってるー。じゃ、行こう」

 そう言って、レンカは五十キロ先にあるポイントへ向けて、地面を滑り出した。片脚を一歩踏み出す度に、十メートルくらい前進する。

 あの移動方法は何? と女の子達が思って居ると、レンカはそれに気づいて戻って来た。

「あれ? みんな、滑らないの?」と言うので、ルシアとノワは頷いた。

「じゃぁ、滑り方とか、飛び方を教えてあげる。歩いてたら、どれだけかかるか分かんないよ?」と、レンカは述べて、その場で移動手段の講義が始まった。


 実際、歩いて移動する時間分、女の子達は「滑走」の術と「飛翔」の術の習得に時間に費やした。

 あんまりにも覚えるのに時間がかかったので、その日は車に戻って一泊する事となった。

 レンカは、率先して輸送車の扉を開け、「ドーン!」と声をかける。

 男の子達はどう反応して良いか分からず、呆然としている。

「初めまして。私、レンカ。あなた達の特技は聞いてるけど、実際に、どんな風に能力を使うの?」

 突然の突っ込んだ問いに、男の子達は黙り込んでしまった。

 ルシアがレンカの服を軽く引っ張り、「それは、夫々の秘密なの」と、答えた。

「えー。つまんないなぁ」と、レンカはふくれっ面で主張する。「なんて言うか、みんな『こう言う事できるよー』って、もっと、自慢したほうが良いと思うけど」

 他の子達は顔を見合わせた。

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