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アイラの実りが揺れる声  作者: 夜霧ランプ
第六章~影を纏うもの~
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第六話「トップシークレット」

 ヴィノ氏達の作戦は、着々と準備が成されているらしい。

 僕は、適度に刺激的で、適度に子供に優しい、エンディングが必ずハッピーエンドの勧善懲悪を書いて居る。

 猫達の意識をさらった物語のほうが大人としては面白くて、迷いが生じる度に、「これは子供達のための優しい嘘なんだ」と念じながら書いて居る。

 夢の中で起きた事を書いたほうの文章は、個人的なノートブックに書くようにしているけど、そっちの方をちょっと読み返してみよう。


 南極地の「何者か」には、眷属が居る。眷属と言っても、「何者か」が具体的に、そいつ等に崇拝しろと言ったわけでも、自分を起こすために行動しろと言ったわけでもない。

 彼等は何時の間にか集まっていて、何時の間にか「何者か」を崇拝するようになった……。

 人間の世界で言うなら、ファンクラブの会員みたいな奴等らしい。

 入会費とか会員特典があるかどうかは分からないけど、氷の大地の下に住んでいて、時々地上に出て来て「何者か」を祀る儀式を行なっている。

 今の所、僕の夢の中には「岩で出来た体を持った、人間もどき」に見えている。

 奴等は丁度、この国にある「アラレ煎餅」と言うものを食べたくなるような容姿をしている。噛んだらサクッとしていて美味しそうなのだ。

 だけど、岩石質の体をしているので、実際に噛んだら前歯が折れるであろう事は分かる。

 その、ちょっと間抜けな姿の眷属達は、「何者か」が姿を現そうとしている地面の割れ目の周りに這い出てきて、彼等の主を攻撃している子供達が空中に浮いているのに怒っている。

 彼等にも言語は存在するので、よく分からない発音の言葉で罵り声を上げる。

 意訳すると「降りて来やがれ!」とか、「主様に何をする!」とか言ってるっぽい。


 南極地に居る「何者か」を起こそうとしているのは、主に祈祷式をしている猫達だ。

 眷属達は、この猫達には気を許しているらしい。目的が同じだからだろう。

 だけど、猫達は明らかに何かを狙っている。もしかしたら、「地中にこんな奴がいるから、さっさと退治してくれ」と言う事なのかも……と、僕は思い始めた。

 じゃないと、わざわざ自分達の平和を脅かす「何者か」を、猫達が呼び出すはずがない。

 そして、南極地で「何者か」とバトルをしている、七人目の子供の事が分かり始めた。

 その子の戦法は、魔力的な力を体に纏って、対象物にタックルをすると言う、中々荒っぽい技だ。

 その魔力的な力は、プラズマ体のような揺らぎを持っている。それを身に纏っていると、青い火炎を纏っているように見えるのだ。

 一度対象物にタックルをすると、プラズマ体の防御は解除されるようで、その子は「何者か」やその眷属に捕まらないように、タックルの後は瞬く間に空中に逃げる。

 プラズマ体の威力はかなりあるようで、頭の先を見せていた「何者か」に一度タックルをすると、頭は確実に地面の下まで引っ込むのだ。


「何者か」にしてみたら、猫達や眷属は「起きろ。姿を現せ」と祈ってくるし、起きてみたら、人間の子供達が目覚めの邪魔をするし……と言う、散々な事態であろう。

 ヴィノ氏の話を聞く限り、人間が「何者か」の全身を見ると発狂してしまう。

 子供達のバトルが唯のイメージで、「僕を発狂させないための何かの防御反応」なのだとすると、実際の南極地では、どんな作戦が展開されるんだろう。

 ヴィノ氏の作戦については、ノワから少しだけ聞いた事があるけど、その当時の僕は世に拗ねていたので、しっかり内容を聞いて居なかった。

 ノワに「もう一度教えて」と言いたいけど、近頃の夢ではノワにもミラにも会えていない。

 これは、実際にヴィノ氏に聞いてみるしかないかなぁ。


 僕はある日、朔の事に付いて報告に来たヴィノ氏に聞いた。

「南極地でどんな作戦を行なうかを、インタビューしたいんだけど」と。

「トップシークレット」と、ヴィノ氏は言う。「それを聞いても何にもならないよ」

「いやぁ、君に関わってる子供達は、割と気軽に喋っちゃってるみたいだけど?」

 そう述べると、ヴィノ氏は目を閉じて唸ってから、「子供達の責任感の軽さは、どうしようもないからなぁ」と呟く。

 それから、「絶対誰にも喋らない事を守れるかい?」と言って来た。

「大丈夫」と、僕はノートブックとペンを構えて、答えた。「メモはするけど、喋らない」

 ヴィノ氏は音がするように溜息を吐いてから、話し始めた。


 キリクスには「対象物の探索と状態の確認」を、ルシアとレンカには「無秩序エネルギーの削減」を、レイユーには「全員への通信の維持」を、朔には「眷属の排除」を、ノワには「『影』の安定」を頼む予定らしい。

 最後の、名前の分からない「プラズマ体を操る子」に関しては、「全員の守り」を頼むとの事だ。

 僕とアナントが夢に見ているより、ずっと穏やかで効率的に動いてもらうようだった。

 ルシアとレンカとノワが、割と「何者か」に近づかなきゃならない危険な役目を担う事に成る。

 朔はきっと「象徴世界」の中に敵を落とし込んで攻撃するだろうから、実際の彼が意識を失う事を、予め視野に入れて置けば、ファンクラブを潰すのは簡単だろう。

「その時に、僕達はどうしてたら良い?」と、僕は聞いてみた。「アナントと僕は?」

「猫達と一緒に、お祭りでもしててくれれば良い」と、ヴィノ氏は気軽に答えた。


 僕はその話を聞いてから、何度もノートブックを読み返して、自分の無力を呪ったものである。

「結局、大人って何も出来ないんだなぁ」と言う事が、メモからもひしひしと伝わってくるのだ。

 だけど、ヴィノ氏が何故子供達を使う事にしたのかと言う疑問とか、夫々の子供達へのフォローはちゃんと出来るのかとか、大人だから分かる事もある。

 キリクスには「相手に自分の存在を知らせない必要」がある。ルシアは「負」を吸い取った後の浄化が必要だ。多分レンカの方も同じだろう。

 レイユーは、起きている状態でもアナントの言葉を理解できる能力があるから「通信係」に選ばれたんだろうけど、彼の能力が暴走したらパニックを起こすかもしれない。

 朔に関しては、上にも書いてある通り、現実の彼が意識を失ってしまうか、夢遊病者のようになることのフォローが出来れば何とかなる。

 ノワの存在が一番肝心だ。彼女はミラを介して「影」を呼び出し、コントロール出来る。

 ヴィノ氏の口ぶりから、極地の「何者か」は、地中の「洞の影」が、安定しなくなった事で目を覚ましてしまったようだ。

「洞の影」が安定すれば、また眠りに就く可能性は大きい。

 だけど、極地は他の五陸塊と違う、別のエネルギー法則が働いていると言う事も聞いた事がある。

 そのエネルギー法則と言うのが、「洞の影」の事なのだろうか。


 洞の影に付いて聞いてみた時、「嘆きの……」と言いかけて、ヴィノ氏が黙った事があった。

「嘆きの?」と聞き返したけど、「んん……」と、ヴィノ氏は唸ってから、「これは今話す事じゃ無い」と述べた。

 何だよ、引っ張るなよ、と僕は心の中で愚痴った。

 ヴィノ氏は、僕の心境を表情から察したらしい。

 彼は少し節目になって、眉を寄せてから、口元を引き締め、椅子の上から立ち上がった。

「君には、全部がちゃんと治まってから説明するから、今の所で納得いかない部分は、メモにでも書いて覚えておいて」

 そう言って帰って行く彼の後姿を見て、「本当に説明してくれるの?」と問い質したい気持ちを抑えたものである。

 僕達は恋愛でもしてるのか。

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