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アイラの実りが揺れる声  作者: 夜霧ランプ
第三章~少年少女の勇気ある逸話~
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第九話「祭りの夜の天の蒼 参」

 医療団の背後から吹き付ける爆風を受けて、アーサーは剣を構えたまま、その場に止まるので精一杯でした。

「それでは、貴方は其処でお待ち下さい」と言って、医療団の先頭を歩く女が、アーサーの横をすり抜けようとします。

 アーサーは、風圧を振り払い、女に剣を向けました。

「誰が、通って、良いって、言った?」と、アーサーは女の首に刃を添えます。

「物騒な方ですね。それでは……」と、女が何か言おうとした瞬間、風圧に乗って一本のハンマーが飛んできました。

「アーサー! そこで踏み止まってろ! 今、みんなが来る!」と、鍛冶屋のとっつあんの逞しい声が聞こえて来ました。

 風の勢いに乗って回転してきたハンマーは、後ろの方に居た白衣の医術師達に直撃し、頭は辛うじて逸れたものの、脚や腰や、時には背骨を折ったのです。

 ハンマーに殴られた者は、皮膚に赤い裂傷が出来ました。

「アーサー! もうちょっと堪えておくれ!」と、パン屋の女将の声が聞こえます。

 バフッと、大量の白い粉が医療団を包みました。

「ミンミ婆!」と、パン屋の女将が合図を出します。

 町きっての魔術師である老婆が、風圧の中に「熱波」を送りました。骨を折られた者達の、負傷した箇所から、体が乾いて爛れて行きます。

 苦痛に叫ぶ声が響きます。

 小麦粉の煙幕で周りが見えない医術師達は、「透視」の視線を使いました。

 その間にも、町の住民達が手に手に武器を持って、医院の前に押しかけて来ています。

「我等を、小物風情と侮るな!」と、ミンミ婆がしわがれた声で威嚇しました。「そぅら、足元には気を付けるんだね!」

 医療団は、自分達の足元から特有の音がする事に気付きました。ガラガラヘビが、威嚇のために上げる尾の音です。

「蛇だ!」と叫んで、医療団は逃げ腰に成りました。「落ち着て。幻術よ!」と、先頭の女が仲間を鼓舞します。「まもなくアルゴが到着するわ!」

 その声と共に、小麦粉の煙幕の向こうから、赤黒く見える邪気の矢が飛んできました。

 狙われたアーサーは、魔力を込めた剣でそれを叩き返しました。が、その瞬間、剣を握っている手に痺れが走ったのです。


 外部観察ウィンドウで、外での戦闘を見ていたジークは、どうやら「アルゴ」と呼ばれているのは、遠隔から邪気を放っている「アンの容姿に似た個体」であると察しました。

「使ってるのはエネルギー変換能力だな」と、ジークは人差し指と親指で顎を支えながら言います。「なんで、アンと同じ事が出来るんだ?」

 アーサーが受けた邪気のデータが入手できたので、「アルゴ」と呼ばれている人物の魔力組成を追っていきました。

 極アンに近い容姿と魔力と細胞を持った、別人であると判断できました。

 アンの細胞を使って、彼女のクローンを作ろうとしていた者達に、ジークは覚えがあります。「アプロネア神殿の研究員達」です。

 ジークは、予てより連絡を取っていた人物に、再び確認の通信を送りました。


 夏の日差しが照り付けると、全身が軋むように痛みました。

 焼け爛れた衣服を纏い、顔の皮膚や唇にまで火傷を負っているミノンは、自分の皮膚がもう正常な感覚を無くしている事に気付きました。

 呪詛を受けてから二十時間、ミノンは短距離の「転送」を何度も使って、ある場所に辿り着こうとしています。

 ネイルズ地方の結界間際です。そこまで辿り着ければ、避難している彼等と連絡が取れます。

 ――お願い、あと少し、あと少しの力を……。

 ミノンはそう祈り、今にも真っ暗に成りそうな意識を奮い立たせました。

 次の「転送」を行なうと、森と山脈が目視できる限界の場所まで、ミノンは辿り着く事が出来ました。

 それ以上先は、侵入を妨げるための結界が張られ、素手で触れようとすると感電したような痛みが走りました。

 入り口を探さなきゃ。

 そう思って体を引きずりますが、ミノンにはもう力が残されていませんでした。膝から力が抜け、地面に倒れました。

 ――誰か……これを……これだけでも……。

 ぼんやりとした念話を飛ばしていると、遠くから青く美しい、大きな鳥が飛んで来るのが見えました。その翼の付け根に、従僕(ウィニ)を示す模様を描いた。


 焦れるような心持で、メリューはジークの部屋の外部観察用ウィンドウを見ていました。

 アンのそっくりさんの力を借りた医療団は、町の人達の熱心な攻撃に対して、段々と反撃を見せるようになってきています。

 ある術師は、水と嵐によって、小麦粉の煙幕を洗い、人々の戦闘意識を挫こうとします。

 また別の術師は、よりによって、「アルゴ」と呼ばれているアンのそっくりさんと協力しながら、邪気の矢で住民達を射抜き始めました。

 メリューは、居ても経っても居られなくなり、思わずジークの部屋を飛び出そうとしました。

「だめ!」と、メリューの服の胸ポケットで、リニアが鋭く言いました。「貴女が捕まったら、メリュジーヌが捕まるのと同じ!」

「でも、見てられないよ!」と、メリューが大声を出すと、リニアは「私が行く。メリューは、ジークさんの部屋を出ないで」と、勇ましく述べます。

 リニアは自力でポケットから這い出ると、メリューの服を伝って床に降り、「メリュー。ありったけの『魔弾』を貸して」と言いました。

 メリューは、訳が分かったと言う風に、リニア差し出した小さな両手と、両手を繋ぎ、ありったけの魔力の塊を受け渡しました。

 カシスの香りと青白い炎が、リニアの身に宿ります。

「ありがとう」と言ってから、リニアはリスの姿に変化すると、二つの足で走るよりずっと早く、医者の家でメリュジーヌを守っているはずの、皆の下に急ぎました。


 医療団の反撃が始まってから数十分。町の住人達にも、アーサーにも、疲れが見え始めました。

 特に、邪気の矢が医者の家の扉に食い立つのを、刃で凌いでいるアーサーは、一撃一撃を撃ち返す度に、腕の麻痺が酷くなってきました。

 柄を握りしめる手に、必死に力を込めます。もう、一度でも指を緩めたら、剣を握り直せないだろうと分かったのです。

 彼の疲労に気付いた、「アルゴ」は、自分の頭の上に両手を掲げ、飛び切り強力な邪気の矢を練り始めました。

 剣じゃ無理だ、とアーサーは気づきました。魔力を維持したまま、体で受け止めるしかない。

 そう思って、痺れた手に剣を構えたまま、医院の扉の前に、改めて立ちふさがりました。

 邪気を練り終わったアルゴは、そのまま扉を撃ち抜いて破壊できそうな「矢」を練ると、不敵な笑みを浮かべ、それをアーサーめがけて放ってきたのです。

 赤黒い光の刃は、砲のようにアーサーに襲い掛かります。

 これは、全身麻痺、いや、体が壊れるな。

 そう悟っても、彼は顔を背けただけで、動きませんでした。

 そのお陰で、自分の足元に、小さな影があった事に気付かなかったのです。


 リスの姿から人間の姿に変化したリニアは、自分の体中から、メリューの魔力で出来た「魔弾」を撃ち放ちました。

 その一閃が、アルゴの胸を貫きます。

 邪気の矢が届くより先に、術師は意識を失い、邪気の矢は空中で霧散しました。

 アルゴが意識を失った事に気付いた医療団は、彼女と傷ついた仲間の体を回収すると、医者の家の前から何処かへ「転送」を使いました。


 町の住人達は、危険が回避できたと喜んでいたのですが、その頃医療団を名乗る術師達は、こんな事を通信先に報告していたのです。

「メリュジーヌとベータは捕らえられなかったが、彼女達の魔力組成を知る事が出来た」と。

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