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アイラの実りが揺れる声  作者: 夜霧ランプ
第二章~語り継がれる幻想のような~
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第五話「七番島での思索」

 この星の地上は、七つの島に分かれています。極地と呼ばれる、星の南端と北端にある大きな島と、北陸塊、南陸塊、東陸塊、西陸塊、そして最後に中央陸塊です。

 星って言うものは丸いから、何処が北で南で東で西で中央なのかは、最初に地上の陸塊の観測をした、人間の主観に委ねられています。

 僕達が住んでいるのは、北陸塊の西南側です。猫達が七番島と呼んでいたのは、恐らくこの「北陸塊」の事でしょう。

 七番島、つまり北陸塊は、他と比べると、少し小さな陸塊でした。

 猫達とノエルマータのやり取りを思い出すと、この陸塊の中全体で、「狂い羽」が増えていたと言う事です。

「狂い羽」が増えると何が起こるのか、それは以前見た夢でアナントが教えてくれていました。

 それに憑かれる事で、狂気に陥る者の増加。丁度、一時的な狂気の病に罹ったかのように。

 それを犬達が追い払う事が出来ますが、数の増えている「狂い羽」に応戦するには、猫達の祈禱式が必要です。

 ノエルマータではなくても、別の「戻り羽」を召喚して、定期的に七番島の「狂い羽」を天に還す儀式が必要なのです。

 そもそも、何故、この星は猫達の祈禱を必要とするように作られているのでしょうか。

 それは、長い長い昔に、ヒントがありそうです。


 そこまでの文章を見て、ヴィノ氏は「うん」と頷いた。「それで、君の机の後ろには歴史書が並んでるんだね」

「うん……」と、僕も控えめに頷いた。「何もしないよりはマシかと思って」

「そうか。それじゃぁ、面白い話をしよう」と、ヴィノ氏は、僕が渡したノートブックを閉じて言う。「中央陸塊にある、不思議な塔の事さ」


 東の遥か遠くの海の真ん中にある、中央陸塊には、一つの大きな塔が立っている。鉄で作られたものか、石で作られたものかも分からない。

 学者の一部は、それがもう何億年も前からある、考古学的な物質であると考えている。その考えは、あながちはずれじゃない。

 その塔の中には、透明な物質で作られたカプセルが幾つもある。そしてそのカプセルからは、無数の枝……いや、配線のような仕組みが通っていたと思われる跡がある。

 人間が入れそうな大きなカプセルもあれば、小型の生物しか入れないような小さなカプセルもある。

 その塔は何度も調べられたけど、旧文明の中の何かの施設であるだろうとされていた。

 だけど、ある日、錆で覆われていたカプセルを調べていた学者が、カプセルの中に骨を発見した。奇妙な骨格をしていて、今のこの世界の何処にも居ないような生物だった。

 そこから、学者達は、その塔が「方舟(アーク)」である事を考え始めた。

 数名の人間の男女と、動物のつがいを連れて、遥か遠くから飛び立ってきた宇宙船であるとね。


 そこまでの話を聞いて、僕は目を瞬きました。背中のほうに並んでいる、歴史の蔵書の中にも書かれていない事だったからです。

「僕達の祖先が、この星で進化して生まれたわけじゃないと言う事?」と、僕は固唾を飲みながら聞きました。

「そうだね。現在の人間と同じ形をした人類が、宇宙の別の星から飛んできた……と言う事さ。

 そして、この星に眠っている力に対して、その時に連れてきた動物達だけが適性があった。

 だから、猫達はレオ神と山猫のような伝説を語り継いでいるし、それはぼんやりとした意味で、史実なんだ」

「あの……」と、僕はヴィノ氏の言葉を遮りました。「『レオ神と山猫』は、僕の想像なんだけど」

 それを述べると、ヴィノ氏はとても愉快そうに微笑んだのです。いつもの、歯を見せない彼特有の笑い方で。

「まだ、君は『想像』していると思ってるのかい? 夢の中の、アナントの言葉を理解しているのに」

 その言葉を聞いて、僕は、僕にも何かが起こっていると言う事を察しました。

 ヴィノ氏は語ります。

「猫達は、常に君に伝えているのさ。自分達の顛末を知ってもらうために。そして君のほうも、猫達の意識を常に探っている。

 おめでとう、アラン。君は、この星の人間としては珍しい事に、『魔力』に対して適性があったんだ」

 僕は、一瞬、ヴィノ氏の事が怖くなりました。この人は、一体何処まで、世界の事を知っているのだろう。僕の意識の中で起こっている事を知っているのだろうと。

「君は、何者なんだ?」と、僕は一番最初に聞くべきだった言葉を口にしました。

「ずっと遠くから来た」と、ヴィノ氏は言いました。「今言えるのは、其処までかな」

「もしかして」と、僕は前置きを言ってから、「『方舟(アーク)』に乗ってきた……とか?」と、尋ねました。

「うーん。それは、ちょっと違うなぁ」と、大げさに首を傾けながら、ヴィノ氏は言葉を続けます。「君達が此処で繫栄してるから、僕は此処に来たんだ」


 ヴィノ氏が帰った後、外は雨が降り始めました。

 何時も、ヴィノ氏が来る時は晴れていたのに、初めて雨が降りました。

 僕は、書斎の中でしょげていました。ヴィノ氏の事は、友人だと思っていました。

 だけど、その友人が、人間ではなく「宇宙人」かも知れないと言う事を知って、ショックを受けたんです。

 もし、アナント達みたいに、僕の頭の中に自由に干渉できてしまう人なんだったと考えたら、恐ろしかったのです。

 それから、僕が、「自分の想像で書いている」と思っていた物語が、実際の出来事なのだと知って、僕は「想像する」のが怖くなりました。

 ザンザン降りの雨が、窓を叩きました。


 次の日からも、僕は書くのをやめませんでした。

 アナントが夢で伝えてくることや、僕が「想像している」と思っていた事が事実なんだとしたら、なおさら書くのはやめられません。

 だって、猫達は僕が「記してくれる」事を期待しているし、なにより、湯水のように溢れ出て来る「想像」を、止められなかったからです。


 大きな島があります。その島は、大自然の中に大きな人間の町が存在し、水のカーテンのように連なった滝と、それを受け止める湖のような滝壺が、目の前に見えました。

 それは一番島。別名、中央大陸。ヴィノ氏の語っていた、「不思議な塔」が存在する、世界の真ん中の島です。

 この星の人間達は、宇宙からこの大陸に辿り着き、子孫を残しながら各地の別の大陸に移住したのでしょう。

 方舟の塔は、一番島の東側にありました。塔よりさらに東には、皮肉な事に果樹園があります。

 ですが、何処かの宗教の伝説のように、林檎は植えられていませんでした。大陸全体が温かい事により、その果樹園では南国のフルーツが大量に育てられていたのです。

 木箱に詰められた果物は、貿易船を使って、各地に送り出されていました。

 虫が入らないように気をつけられている木箱の中には、不思議な蟲がついていました。透き通った羽を持った、青い蝶のような蟲です。

 僕は、その蟲は「戻り羽」なのだろうかと考えました。ですが、様子が違います。あの時見た、「戻り羽」であるノエルマータ達は、真っ白な姿をしていました。

 その蝶のような蟲は、空のような真っ青な羽と体をしているのです。

 その青い羽の蟲達は、貿易船に乗って、ゆっくりと別の土地に移動していました。どうやら、異変は世界規模で起こっているようです。

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