第十四話 ギガマンティス襲来
時間は昼過ぎ。
村で、敵の来襲に備えて待機している俺。
長老のいる家屋の屋根から俯瞰で村全体を見渡していた。
同じく屋根の上に乗っているリリアーナが隣で心配そうな表情を浮かべている。
「今までと同じでしたら……もうすぐ来ますの。ギガマンティスが……」
「まあ、待つしかないだろ。朝のうちに、準備は全部やりきったし」
なんとか、やれることはやったつもりだ。あとは……。
「もしマンティスがやってきたら、俺が出ていくから、心配すんな」
さすがですわ、とリリアーナが感激している。
そこまで期待されると、めちゃくちゃ気まずいんだが……。
だって俺、数日前まで魔物とかと無縁な、たんなる日本のブラック企業リーマンだったんだよ?
ゴキブリと格闘経験があるくらいで、人とも喧嘩すらしたことない。
なのになんでこんなことに……。
「いったいどういう戦い方をするのか……期待ですわ!」
目をキラキラさせてこちらをのぞき込むリリアーナ。
やめてくれ。プレッシャーきつい。
ただでさえ、絶世の美少女フェイスなんだから、そういうのきついっす。
その時、村の入り口の森の向こうから、異様な咆哮が響いた。
「ギャオオオオッ!」
乾いた音が響き、森の木々をその手に備わった大鎌で切り倒しながら、やつが現れた。
ギガマンティス。
その巨大な体躯は、光を反射する硬い外骨格に覆われ、複眼が不気味に光っている。
てか、くそでけえ……。
体長、5メートルくらいはあるんじゃねえの!?
あのギガマン情報にだいたいの大きさは書かれていたけど(家畜であるマダラ牛3頭分くらいとか)、実際リアルでみると、マジでやばい。
でかすぎる。
そんな、体積の化け物のような巨大昆虫が、村に入るやいなや、鋭い鎌を振り上げ、畑を荒らし始めた。
「くそ……畑がめちゃくちゃだ!」
それだけではない。
ギガマンティスはエルフたちが大切に育てている家畜をも斬り殺し、家屋までも次々と破壊していく。
「ひどい……」
リリアーナが声を震わせる。
「じゃあ、いってくる」
俺はそう言い残して飛び降りた。
※ ※ ※
村の中央まで来ると、ギガマンティスはついに人が住む家屋を破壊し始めた。
「ひいいっ!」
母親が小さな子供を連れて逃げ出す。
「メルちゃん! 走って!」
だが、小さい子供が転んでしまった。
「そんな!! メルちゃん!!」
母親が叫ぶが、ギガマンティスの巨大な体躯が、親子に接近する。
「うえーん、うえーん!!」
泣き出す子供。
しかし、そこに容赦なく、巨大カマキリの鋭い鎌が子供を狙おうとする。
「いやあああああああ! やめてええええええ!」
エルフの母親の声が村中に響き渡る。
その瞬間。
ドカァン!!
ギガマンティスの頭が爆発した。
「ーー!?」
なにかが投擲され、ちょうど頭にあたり爆発したのだ。まるで、手りゅう弾のように。
煙がもくもくと立ち上る。
その爆発物を投げたのは、はい、もちろん俺です。
投げたものは、『炎の魔法石』。昨日、合成でつくったものだ。
奇襲攻撃としては、最高のタイミングだったが……。
「どうだ!?」
期待を込めて見つめるも、煙の中からギガマンティスが姿を現した。
「全然効いてねえ……マジかよ……」
ぶっちゃけ、無傷でした。
硬質なその外殻にその頭も守られていたようだ。
「しかも……むしろ怒ってるじゃねえか!」
炎の魔法石の一撃はノーダメっぽい。逆に激怒したギガマンティスは、投擲した俺を見つけ、複眼で狙いを定める。
「お、おいおい……これ、ヤバいやつだ!」
ギガマンティスが、エルフ親子からターゲットをかえ、俺に向かって突進してくる。
「うわああああああ!」
村の中央から、必死で逃げる俺。
しかし、これも一応俺が考えた作戦のひとつのルートではあった。
逃げる途中、脇の木陰に隠れていたヘッジホッグウルフが、爆走していく俺をスルーしつつ次に通り過ぎようとするマンティスににらみをきかせている。
「いけ、ウルフ!」
「がうがうがう!」
ウルフは背中のトゲを飛ばしてギガマンティスに攻撃を仕掛ける。
だが、
キィン!
トゲは硬い外骨格に弾かれてしまう。
ギガマンティスは、俺から今度はウルフの方にギロリと視線を向け、鋭い鎌を振り上げて襲い掛かる。
「!! しまった! まずい! ウルフ! 逃げろ!」
「がるるるる……!!」
俺が叫んだ時には、もう遅かった。ギガマンティスの鎌がウルフを狙って振り下ろされる。
その斬撃は、しかし幸運にもウルフが隠れていた木々に遮られる。
ザシュッ!
ズズン……
ウルフの周りの太い木々が、鎌で切られて音を立てて倒れていく。
なんてパワーだ……。
建設業界で無双できるぞ。あのカマキリ。
「ぐるるるるる……!!」
そんな状況にもかかわらず、あいかわらず威嚇をつづけるウルフ。
「!! おい! お前の攻撃が通用しなかったら逃げろって! 言っただろ作戦!!」
「がうがうがう!!」
「くそっ……! ダメだ!!」
ギガマンティスが、ついにその大鎌でウルフの首をはねようとして……
俺は、すんでのところでウルフを抱きかかえる。
次の瞬間、ギガマンティスの大鎌で俺は吹っ飛ばされ、木に叩きつけられる。
「ぐあっ……!」
全身に鈍い痛みが走る。
「腹に、合成でつくった鉄板を仕込んでなかったら死んでたな……」
大鎌が直撃した場所は、ちょうど俺の胴体だった。
だから、吹っ飛ぶだけで助かった。
しかし、それでも息を整える暇もない。
「どうする……マジでどうする……なんも効かねえし」
ギガマンティスの外骨格は恐るべき防御力を誇ると情報にはあったが、実際目の当たりにするとその硬さに絶望する。
「こんな化け物……どうやって倒せばいいんだよ……」