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第一話 異世界どうぶつのもりへようこそ

 俺の名前は桐原颯太きりはらそうた


 年齢は三十そこそこで、趣味はトレカ収集、美少女フィギュア、それにDIY。


 まあ、平凡な社会人ってやつだ。


 朝起きて、会社行って、帰ってきて、ネットオークションでレアカードをチェックして、休日は美少女フィギュアを飾るために、自作の棚やケースを作る。


 それが俺の至福の日常だった。


 なのに、なんで俺、こんな状況にいるんだ?


 記憶をたどってみる。


 確か今日は、会社でトラブルがあって少し残業した。


 いつもの帰り道、コンビニで新商品のスイーツを買おうとして、レジで少し並んで、それから家までの道を歩いていた。


 スニーカーの靴紐が少し緩んでいて、直そうかと思ったその瞬間、目の前に突然現れたのが……。


 「え、なんだっけ……トラック?」


 そうだ。


 大型トラックが迫ってきたんだ。


 反射的に避けたけど、間に合わなくて……。


 「俺、もしかして死んだ?」


 その割には意識も体も普通にある。


 夢にしてはやけにリアルだし、死んだ後に意識があるなんて聞いたことない。


 目をこするけど、目の前の風景は変わらない。


 どこまでも広がる濃い緑の木々。


 その間を縫うように差し込む木漏れ日が、地面に複雑な模様を作っている。


 近くには小さなせせらぎが流れていて、清らかな水音が耳に心地よい。


 耳をすませば、鳥らしき鳴き声が遠くから聞こえるが、これが日本のものとは思えないほど高音で不規則だ。


 足元を見れば、湿った土の匂いが鼻をつき、地面には苔と不思議な形のきのこが散在している。


 幹がねじれた奇妙な木々の隙間からは、見たことのない形の花が風に揺れているのが見える。


 森全体が、どこか不自然な生命力に満ちているように感じられた。


 やっぱりここ、森だ。


 「いやいや、落ち着け颯太。まずは状況整理だ」


 深呼吸して落ち着こうとするが、胸に迫る不安は消えない。


 携帯を取り出そうとポケットを探るが、空っぽだ。


 「くそっ、スマホないのかよ! 現代人の生命線が!」


 ふと周囲を見渡すと、何かがこちらをじっと見ている気配がする。


 茂みががさりと揺れるたびに心臓がバクバクと音を立てた。


 「え、なになに、絶対なんかいるでしょこれ!?」


 茂みから顔をのぞかせたのは、小型犬くらいのサイズの何か。


 青白い毛並みが奇妙に光っていて、目がやたらとギョロギョロしている。


 しかもこっちに向かって「ギャギャギャ!」とか変な声を出している。


 「え、えーと……こんにちは?」


 思わず挨拶をしてしまったが、返事なんて返ってくるはずがない。


 だがその生物、俺を一瞬見つめると、牙をむいて飛びかかってきた!


 「ちょ、やめろやめろやめろーっ!」


 逃げる暇もなく俺は地面に倒れ込む。


 そいつは俺の胸に乗り上がり、唸り声を上げながら口を大きく開いた。


 その瞬間、俺は確信した。


 こいつは確実に、現代には存在しない生物だ!


 青白い毛並みが異様に輝き、ギョロついた目がやたらと動き続けている。


 どこからどう見ても、この世のものじゃないことが、見るだけでわかる!!


 「ちょっと待て! こんなの聞いてないぞ! 異世界とか……ありえないだろ!?」


 俺の心の叫びをよそに、その生物は今にも噛みつきそうな勢いで俺を押さえつけていた。


 とはいえ、小型犬くらいのサイズだし、もしかしたらなんとか押さえつけられるかもしれない。そう思った次の瞬間――。


 「ぎゃああ!!」


 突然、そいつの体がぶるっと震えたかと思うと、ハリネズミのようにトゲを飛ばしてきた!


 腕に、足に、何本も突き刺さり、俺は叫び声を上げた。


 「お、お前そんな攻撃まであんのかよ!?」


 痛みに悶えながらも、なんとかトゲを抜こうとするが、そいつは追撃の準備を怠らない。


 「くそっ、こんなやつに負けてたまるか!」


 そう思った矢先、そいつが口を大きく開けた。


 いや、大きくどころじゃない。ゴアっと音を立てて、ありえないほど巨大化していく。


 「……は?」


 俺は硬直した。


 その異様な口の中には鋭い牙がびっしりと並び、まるで俺を丸呑みするつもりだと訴えかけてくる。


 「あ、これ、死んだわ……」


 俺は完全に観念した。


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