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第54話 そして未来へ

 ゾンビによる王都襲撃は、アンジェリカの死によって阻止できた。

 だが、ゾンビ化から解放されてなお、大きな傷を抱えている人も多い。


 それでも、これで日常を取り戻すことができれば、わたくしたちが払った犠牲も少しは意味があったのだろう。


 王太子だったアラン殿下が亡くなり、次の王太子には当然パトリック様が選ばれた。


 パトリック様はアラン殿下を救えなかった自分が王太子になってもいいのだろうかと悩まれたが、それでもゾンビから王都を守ったパトリック様は英雄であり、未来の王として国民に望まれている。


 パトリック様はアラン殿下を止められなかった後悔を胸に、生涯この国を守るために王太子の地位に就くことを承諾された。


 これで王国には新たな王太子が誕生することになり、ゾンビ騒動による政治的混乱も最小限で抑えられる。


 その後、壮大なアラン殿下の葬儀が行われた。


 タイラーも神殿の許しを得て合わせて弔われ、同じく多くの人々が犠牲になったゾンビ禍の追悼式がしめやかに執り行われる。


 アンジェリカについては、原因不明の呪いで多くを巻き込んだ存在として噂されたが、真偽を知る者は誰もおらず、その名前もやがて忘れられていった。


 悲しみに包まれた王都は、しかし少しずつ復興へ向かって動き始めた。


 そんな中わたくしは宮殿に呼び出され、ゾンビ禍を共に戦った英雄の一人として、パトリック様が新王太子として正式に任命される儀式に参加することになった。


 宰相や重臣が見守る中、パトリック様は王太子の証として宝冠を授けられ、国王に代わり人々から祝福を受ける。


 悲しみは根強く残っているが、この国が新しい一歩を踏み出すためには必要な儀式だ。


 パトリック様は深い決意を胸に、堂々とした態度で即位の宣言を行う。


 その姿は凛々しく、痛みを抱えながらも国を導こうとする強い意志が感じられた。


 そして儀式の終わり頃、国王や重臣たちの前で、パトリック様がわたくしを壇上へ呼び寄せた。


 ゾンビを倒した褒章でももらえるのだろうかと思いつつ壇上へ行くと、彼は静かに膝をつき、わたくしの手を取った。


「ヴィクトリア、君には感謝してもしきれない。ゾンビの脅威から多くの人を救い、私を支えてくれた。これから王太子として国を背負っていく私に、今度は王妃として共に国を守ってほしい」


 その言葉に、わたくしの心は大きく揺れた。

 悪役令嬢のはずのわたくしが、この国の王妃に……?


 戸惑うわたくしの手を、パトリック様が安心させるように強く握る。


「君を、愛している」


 見慣れたアラン殿下の冷めた目とは違う、熱をはらんだ瞳が、わたくしを射抜いた。


 愛されているのだと伝わってきて、胸が震える。


 悪役令嬢だったはずのヴィクトリア・コーエンが、こんな風なハッピーエンドを迎えるなんて、誰が想像しただろうか。


「はい、わたくしもパトリック様をお慕いしております」


 わたくしの言葉に、パトリック様が嬉しそうに笑う。

 そして周囲の貴族や重臣からも歓声が上がった。


 人前でのプロポーズに顔が熱くなるが、押し寄せる幸せに心が包まれた。








 こうしてわたくしは『悪役令嬢』の呪縛から完全に解放され、誰からも認められる王太子妃となる道を歩み出すことになった。


 ゾンビによって多くの尊い命を失った人々の悲しみが消えるわけではないが、それでもわたくしとパトリック様がこの先の未来を作り出していくことで、笑顔を取り戻してほしいと思う。


 パトリック様と結婚したわたくしは王太子妃として公の場に立つことが増え、パトリック様とともに国政に関わる機会も多くなった。


 その傍らで、時折思い出すのは学園での日々や、アラン殿下とタイラー、アンジェリカが残した記憶。


 彼らの死は決して忘れない。


 けれど、それで悲嘆に暮れるのではなく、前に進むための糧にするのがわたくしの使命なのだ。


 本来王になるはずでなかったパトリック様と、アラン殿下に疎まれていたわたくし。

 そんな二人がいずれこの国を治めていかなければならず、その行く道は、決して平坦ではないだろう。


 でも、ゾンビという未曽有の脅威を乗り越えた今なら、どんな苦難であっても共に立ち向かえると信じている。


 パトリック様の隣で、わたくしは静かに未来を見据える。


 あの惨劇の後、わたくしが見たものは、希望に彩られた人々の姿だった。

 大勢の犠牲を忘れずに、それでも再生へ向かう姿こそ、この王国が持つ強さなのだろう。


 パトリック様が微笑みかけ、わたくしも微笑み返す。


 わたくしはもう、悪役令嬢ではない。

 いずれは王妃として、愛する人を守り、そしてこの国を護るために生きていくのだ。


 その決意を胸に、歩んでいこう。

 パトリック様と共に。












「僕、馬車にひかれたけど、治ってる。……でも、なんでだろう、凄く喉が渇くよ……。お父さんもお母さんもいないし……ここはどこ?」


 王都のはずれ、ゾンビに襲撃され瓦礫に埋もれた一角で目覚めた少年が、不安そうにあたりを見回した。

完結しましたー!


もしも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、

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どうぞよろしくお願いします!


いつも誤字報告をしてくださってありがとうございます。

感謝しております(*´꒳`*)

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