表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/54

第48話 廃城

 それは本当に朽ち果てた門だった。

 石造りの門柱は苔に覆われ、上部のレリーフはひび割れだらけ。


 かつては王族が使っていたとされる立派な廃城なのだろうが、今では野生のつる草が絡みつき、門扉は半分壊れている。


 その奥に広がる中庭には、茶色く枯れた草や獣の骨のようなものが散らばっていて、まるで長年放置された荒野そのものに見える。


 パトリック様が馬を降りて、騎士団に指示を出す。


「ここから先は馬では通れないようだから、歩いて進む。神官たちは樽を運ぶのが大変かもしれないが、なるべく静かに頼む」


 わたくしも馬車から降り、杖を手に歩み始める。

 近くの騎士が低い声でつぶやく。


「人の気配はまったくしませんが、本当にアンジェリカがここを拠点にしているのでしょうか……」


 ゾンビは人ではないのだから、人の気配がしなくてもおかしくはないが、今まで遭遇したゾンビたちには、完全に魔物であるアンデッドとは違って、確かに気配のようなものがあった。


 けれどここには、そういった気配はまったくない。


「それをこれから探すんだろう。無駄口をたたくな」


 騎士の前にいた上官の叱責に、騎士はすぐに口をつぐんだ。

 無言のままそっと門をくぐると、想像以上に広い中庭が現れた。


 かつては噴水や花壇があったかもしれないが、今はすべてが枯れ果て、石の破片や絡みついた草ばかりが目につく。


 そこへ、不意に低いうなり声が響いた。

 ゾンビだ。


「数は多くないようですね」


 パトリック様が銀の剣を抜きながら小声で言う。

 小さな集団のゾンビが建物の影から現れ、こちらに気づいてゆらゆらと近づいてきた。


「神官長は聖水の樽を下ろして。騎士はゾンビが一体でも噛みつかないよう距離を保ちながら弓や槍で対処を。もし火球や雷撃を放つ個体がいれば、私とヴィクトリアが迎撃する」


 パトリック様の指示に、全員で従う。

 わたくしは杖を掲げて、いつでも魔法を発動できるように、魔力をこめた。


「聖水をかけろ」


 パトリック様の号令で聖水を浴びたゾンビは一瞬怯み、わたくしの《浄化の炎》が触れると霧散するように崩れ落ちる。


 中には人間へ戻る個体もいるが、崩れ落ちた時点で肉体が損傷し過ぎて灰になる者のほうが多い。


 人間に戻った者たちには、後で必ず助けにくるからと言い残して先に進む。


「やりましたね。数が少ないから意外と余裕です」


 一人の騎士が声を上げるが、パトリック様は険しい眼差しで首を振る。


「おかしい。廃城が拠点なら、もっと大勢ゾンビがいると思ったんだが……」


 わたくしもその言葉に同意する。

 わずか十数体のゾンビだけが、この広い中庭を支配していたはずがない。


 アンジェリカがここにいるのだとしたら、もっと大勢の護衛がいてもおかしくないのに、それが見当たらないのだ。


「ひょっとして廃城の奥にいるのでは……それか、もしかするとアラン殿下たちが先に来て、既に何かあったとか」


 わたくしの言葉に、パトリック様が顎に手を当てて思案する。


「確かにアランたちが到着して戦闘を起こした結果、ここのゾンビが散った可能性もある。でも確かめるには中に入るしかないな」


 神官長が樽を守りながら、ちらとわたくしたちを見る。


「くれぐれも慎重に参りましょう。もしアンジェリカがここを拠点にしているなら、もっと強力なゾンビを従えているかもしれませんし」


 わたくしたちは頷き合い、大きな古い扉を押し開けて廃城の内部へ足を踏み入れた。


 石造りの壁は、かつては美しい壁画で飾られていただろうが、今は酷く風化し、所々に剥がれ落ちた跡がある。


 床には瓦礫や砕けたタイルが散乱し、一歩進むたびギシギシと嫌な音がした。


「失礼します――」


 思わず口にするが、もちろん返答はない。

 ゾンビやアンジェリカから出迎えられても困るのだけれど、あまりの静けさがかえって不気味だ。


 わたくしたちは部屋の隅々を探索しながら大広間へと向かう。


 道中には時おり小さなゾンビの集団がいて、神官たちの聖水と、わたくしの小規模な炎で浄化していくがそれほど苦労はない。


 大群に当たらずに進めることに、逆に得体の知れない恐怖を感じる。


 やがてひときわ重厚な扉を開けると、広大な大広間が目の前に広がった。

 高い天井には蜘蛛の巣が張り、扉や家具は半ば朽ちている。


 廃城とはいえ、そこはかつて王族が暮らしていたとは思えないほど荒れ果てていた。


 しかし、そこでわたくしははっきりと、人の気配を感じた。


「…………」


 なんと、奥のほうから歩み寄ってくるのは、タイラーだった。


もしも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、

広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします!


いつも誤字報告をしてくださってありがとうございます。

感謝しております(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ