第33話 ゾンビ化の原因
「外のゾンビはどうなりましたか?」
昨夜は結界の外にゾンビが集まってきていた。まだいるのだとしたら、彼らを人間に戻しておかなくては。
「それが、夜のうちにどこかへ行ってしまったそうだ。神殿の結界が破れないので諦めたのかもしれないが、それはそれで問題だ」
「それだけの知能がある、ということですものね」
アンデッドであれば、そんな知能はないので、闇雲に結界を破ろうとしていただろう。
そして朝日を浴びて消滅するまでがセットだ。
「アンデッドのように消滅したということはないのですか?」
確かにゾンビは昼間でも動いていたけど、もしかしたら朝日は別で、致命傷になるとか。
「いや、おそらくそれはないだろう。神殿騎士が夜が明けても動くゾンビを見ている」
「そうですか……」
やはり、そんな都合の良いことはなかったらしい。残念だ。
それにしても、わたくしたちの想像通り、ゾンビになって時間が経つと知能が復活してくのだとしたら、人間と変わらない知能と能力を持つゾンビの存在は、このまま放っておくと世界中の脅威になりかねない。
だって既に死んでいるのだから、不眠不休で戦う不死の軍隊ですら作れてしまう。
もしこのことに野心のあるものが気づいてしまったなら……。
「アンジェリカのような、自己回復があるゾンビは厄介だ。アンジェリカだけなのか、それとも光魔法を持っていればそうなるのかは分からないが、神官や神殿騎士にはくれぐれもゾンビに噛まれないように気をつけるよう通達してある」
確かに光魔法を持っているのはアンジェリカだけではない。
ゲームで聖女になるほどの力を持っているアンジェリカだからこそ、ゾンビになっても回復できるというのであればいいんだけれど。
他の光魔法を持っている人で試してみるわけにもいかないし、ゾンビにならないように注意するしかないわね。
「アンジェリカはどこにいるのでしょう」
逃げてしまったアンジェリカは、きっとあれからもゾンビを大量に作っているに違いない。
手遅れにならないうちに見つけないと……!
「どうやら下町でゾンビの集団が見つかったらしい。学園にいたゾンビなのか、それとも新たに発生したゾンビなのかは分からないが」
「もしかしたら、アンジェリカが……」
「その可能性は高いと思っている」
「そんな……学園を壊滅状態に追い込んだのに、今度は下町を?」
ぞっとする想像だった。
いくらパトリック様が作った聖水とわたくしの《浄化の炎》で人間に戻せるといっても、下町の人間全部を浄化するのは不可能だ。
それに光魔法を使うアンジェリカを倒せるのだろうか。
「それにしても、一体なぜゾンビが発生したんだろう」
黒髪をかきあげるパトリック様に、わたくしが予想したことを伝える。
「もしかしたら……なのですけれど、アラン殿下とアンジェリカたちが下町で瀕死の子供を救ったという話を聞いたことはありませんか?」
わたくしが尋ねると、パトリック様は思い当たったのか小さく頷いた。
「神殿でも、それほどの力を持つのは聖女ではないかと騒がれていた」
「その子供が、瀕死ではなく、既に死んでいたとしたら?」
パトリック様の紫の瞳が驚愕に見開かれる。
「死人をよみがえらせただと? それは神への冒涜だ。……それで、ゾンビが生まれたのか」
「アンジェリカが子供を生き返らせてから流行り始めた奇病、そしてゾンビの発生。きっと、アラン殿下なら、なにがあったかご存じだと思います」
そう言うと、パトリック様はしばらく考え込んでいた。
「神殿だけでどうにかできる問題ではないな。王宮へ行こう。結界に守られたこことは違い、王都の中心にいる人々を放っておくわけにもいかないし、陛下や重臣たちも具体策を決めなければならないだろうからね」
パトリック様の言葉に、わたくしはすぐ賛成の意を示す。
危険だが、王宮と協力しなければ解決など無理だろう。
学園ほどの規模を一夜で壊滅に追い込んだゾンビ禍を止めるには、国家規模の対策が必要だ。
「そうですわね。王宮に行きましょう。……アラン殿下たちはどうなさるのでしょう?」
アラン殿下自身がゾンビ化の当事者だった以上、王宮で話を進めるためにも彼がいるほうが説得力があるだろう。
それに彼の取り巻きたちも、自分の口で語る責任がある。
パトリック様は軽く肩をすくめるようにして答えた。
「ここに置いても安全とは限らないし、彼らが学園でのことを説明したほうがいい。それに自分たちがゾンビになった経緯を陛下に直接話すほうが、信ぴょう性がある」
「なるほど……。確かにあれだけの被害が出ている以上、王宮も対策を練らなければなりませんものね」
多くの生徒がゾンビ化し、人間に戻せたとはいえ被害は小さくない。
下町のことを考えれば、事態はこれから一層深刻化するかもしれない。
それにしても、パトリック様がわたくしと同意見になっているのが、少し不思議な感じもする。
以前は顔を合わせても、さほど親密に会話を交わす間柄でもなかった。
どこか丁寧に距離を置いているような彼の態度を、わたくしは勝手に「アラン殿下に対する配慮かしら」と思っていた。
けれど、この騒動で彼とわたくしの距離は大きく変わったように思える。
きっとそれは、これからも……。
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