第27話 連携しましょう
「タイミングを合わせよう」
パトリック様がわたくしに声をかける。
「分かりました」
「まずタイラーを足止めする!」
パトリック様は銀の剣の柄頭でタイラーの横腹を強打し、壁へ押し付ける。
続けて右脚を払ってタイラーを崩し、床に押さえ込んだ。
その隙にわたくしが《浄化の炎》を唱え、浄化の霧で包みこむ。
「う゛あ……」
タイラーが低い声を上げ、白い煙が揺らめいた。
そのまま彼は糸が切れたように力なく倒れ込み、土気色だった肌が徐々に人間本来の色合いを取り戻していく。
「成功……! 次、トーマス!」
パトリック様はタイラーを大きく後方へ蹴り飛ばし、そのまま隣にいるトーマスへ剣を奮う。
トーマスも抵抗しようと手を振り上げるが、銀の剣の背でその腕を押し留められ、同じくわたくしが《浄化の炎》を狙い撃ちする。
「ぐ、あっ……」
トーマスも倒れ込み、苦しげに喉を鳴らした。
やがて浅く息をしながらも人間に戻っていったのか、肌の色が元に戻り、うつ伏せの体勢で動かなくなる。
「さて、最後はアランだ……」
パトリック様が剣を構える。
ところがアラン殿下は既に後退していて、端のほうで蹲っていた。
ゾンビ化しているはずだが、何かを呟いている。
パトリック様がゆっくり近づくと、アランは低い唸り声を上げながら顔を上げた。
「ヴィク……トリア……俺は、どうなって……」
瞳は濁っていて、手足の動きは時折ギクシャクとしているが、言葉の端々に理性が戻ってきている。
わたくしとパトリック様は、思わず顔を見合わせた。
明らかに今までのゾンビとは違う。
「原因究明は後だ。とにかくアランを人間に戻そう」
わたくしとパトリック様の連携攻撃で、アラン殿下の体が霧に包まれた。
アラン殿下の身体が光に包まれ、苦しそうに顔を歪める。
しかし、やがて波が引くようにその苦痛の色が和らいだ。
「う……ぁ……」
意識が戻り、ゾンビ特有のくすんだ皮膚がみるみるうちに正常へと戻る。
アラン殿下はその場に倒れ込み、荒い呼吸を繰り返した。
パトリック様はすぐにアラン殿下の体を抱き起こし、脈や呼吸を確認する。
「どうやら致命傷は負っていないし、毒にも侵されていないようだ。ただし、ゾンビになったせいで、相当衰弱している」
「アラン殿下……! しっかりなさいませ!」
わたくしが呼びかけると、アラン殿下は額に汗を滲ませなが目を開けた。
その目はもう濁ってはいなくてホッとする。
「アラン。ゾンビになっていた間の記憶はあるか?」
パトリック様の問いに、アラン殿下は掠れた声で答える。
「うっすらと……。あ……俺は……」
ゾンビになって人を襲っている時の記憶がよみがえったのだろうか、顔を青くするアラン殿下に、パトリック様は「しっかりしろ」と声をかける。
「アンジェリカはどこだ」
「アンジェリ……カ……」
「そうだ。お前はあの女に噛まれてゾンビになったんだ。放っておけば被害が拡大してしまう」
でもアラン殿下はゆるゆると首を振る。
「分から……ない。……学園の外に……飛んで行った」
飛ぶ、というのは比喩だろうけど、それにしても厄介だ。
ゾンビ状態でも光魔法が扱えるばかりか、自己治癒をしてダメージを無効化する可能性まである。
彼女を放置すれば、街に被害が拡大するのは目に見えていた。
一方で、学園にはまだゾンビ化した生徒や教職員が残っているから、浄化を続けなければならない。
「追いかけたいところだが……さすがにヴィクトリアも限界だろう。一度神殿へ退避して、それから考えよう」
「それがいいですわね」
アラン殿下たち三人を救ったものの、彼らは衰弱しきって動けないため、安全な部屋に運ぶ必要がある。
後で医師や神官の治療を受けさせるしかない。
パトリック様はアラン殿下とトーマスを左右の肩に抱え、わたくしはタイラーの腕を掴んで何とか歩かせようとする。
三人とも口数が減って息苦しげだが、ゾンビの意識からは解放されているようだ。
そのまま神殿へと向う途中、廊下からは悲鳴やうめき声が聞こえてくる。
わたくしがまだ使える魔力の範囲で浄化を行い、パトリック様が安全地帯を案内する形で生徒たちを誘導していった。
「ここに集まってください! ゾンビ化しても浄化できる方法が見つかりました! 落ち着いて!」
わたくしの必死な呼びかけが廊下に響き、残された生徒たちも半ばパニックになりながら続々と集まってくる。
襲ってきたゾンビたちも、人間に戻していった。
そうしてやっと神殿に着いた時には、わたくしはそのまま気を失ってしまった。
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