降ろしてくれ
私は高いところが苦手だ。理由はわからない。何ものにも代えがたいくらい怖い。
それなのに今日も高い所に行かされる。
誰も降ろしてくれない。誰も交代してくれない。
もう嫌だ。逃げ出したい。
しかし誰もそれを認めてくれない。
「安全バーをしっかりと下ろして下さい」
いつものアナウンスが流れる。まただ。また行かなければならない。
カタンカタンと振動音がする。ゆっくりゆっくりと私は一番高い所へと連れて行かれる。
「キャー!」
若い女性の歓喜とも絶叫ともつかない声が聞こえる。
私は声が出ない。目を瞑ることもできない。何もできない。
私が何をしたというのだ? この仕打ちは何だ? 理解不能だ。
元の位置に戻った。女性は降りたが、私は降ろしてもらえない。
夢なら早く覚めてくれ! しかし夢ではない。
紛れもない現実なのだ。非情なほどの結論。
声も出せず、目も瞑れずにまた戻って来る。でも恐怖は終わらない。
しかし何か様子がいつもと違う。乗客は待機させられている。
係員達はヒソヒソと会話している。
私の方を見て悲しそうな顔をしている。
何だ? 哀れみか? そんなものはいらない。
私が欲しいのはこの恐怖からの解放だ。
すると一人が私に近づいて来た。
もしや降ろしてくれるのか? ようやく願いが叶うのか?
係員は私を見て言った。
「この車両はもう限界だからスクラップだな」