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前編

「ねえねえ、これ」

「んー、なにー」

「ヤフー知恵袋でさ、おもろいもんみつけたんだけど」

「そんなことある? そういうやつだったっけ」

「なんかたまにやってんじゃん、大喜利みたいなやつ」

「あーね、たしかに。ちょっとざっくりでいいから教えて」

「えっと、まず質問者が『僕は天才。これを証明できる人はいないし、論破できる人はいないと思いますがどう思いますか?』って質問して、んで、それに対して回答者が『すごいですね!』って煽ってんのに、それを真に受けて『ありがとうね』って返答してる」

「…………」

「マジでウケるわー」

「……え、終わり?」

「え、そうだけど」

「オチは?」

「え、オチ? 何それ」

「いや、なんでもない。オモロいね」

「でしょー!」

「ちょっとじゃあ私、ドリンク取ってくるね」

「はーい」




 はぁ。

 疲れた。

 玄関でため息をつきながら、ローファーを雑に脱いだ。足先が凍っていて、ほとんど感覚がない。

 放課後のくだらない時間に、私は一体いくら使っているのだろうか。ファミレスでの出費が八百円ぐらい、帰りのアイスが百五十円……

「いたいなー」

 さっきの会計の時に、千円札が一枚しか残っていなかったのを確認していた。今日が二月十九日で、お小遣いは月の最終日なので、一日百円ちょっとしか使えない計算になる。今日一日で、今の残高と同じぐらい使ったのかと考えると、絶望的な気持ちになった。

 考えても仕方ないと思いつつ、私は制服のまま風呂場に行き、最速で服を脱いで湯船に浸かった。

「気持ちいいー」

 この瞬間のために、今日一日頑張ったんじゃないかってほど、最高だった。

 私は、肩まで浸かったと同時に、湯船の中でおしっこをする。今日は寒かったからか、いつもより勢いがあった。

 幼い頃に観た、昭和のバライティ番組を思い出した。内容はもうほとんど覚えてないけど、唯一覚えてるシーンがあって、それは、女子アナたちに馬の尿を飲ませるドッキリ、みたいな企画の一部分。マラソンのゴールの先に大量の尿入りカップを準備しておいて、芸人さんがそれを渡していくんだけど、女子アナたちはみんなヘトヘトだからそれをがぶ飲みする。だけど、彼女たちが飲みこむ前に芸人さんが「それ馬のおしっこやで」って言うと、一変してすごい勢いで吐き出し始める。ただそれだけのシーン。

 多分今思うと、その馬のおしっこは本物じゃなかったのかもしれない。けど、そんなことどうでも良くて、ただ、私の頭の中には、意外と人間って言われなきゃなんもわかんないんだなってことだけが、強く残ってた。だから、汚いのかもしれないけど、別に私が湯船でおしっこしようがしまいが、他の人は変わらず快適に風呂に浸かれるんだから関係ないんじゃないかって思ってしまう。

 頭を洗って、体を雑に洗って、さっさと風呂場から出る。少し長湯してしまったせいで、頭がクラクラした。

 部屋に入って、ベッドに横たわる。

 僕は天才。

 彼女との会話はほとんど覚えていなかったが、この一言だけはなぜか鮮明に残っていた。

「僕は天才」

 口に出して言ってみる。

 よくよく考えてみると、質問者の意図がよくわからないなと思った。天才であるということを見せびらかしたいのか、それとも論破できるかどうかを質問したいのか、どっちなのだろうか。そもそもとして、「天才」という言葉は褒め言葉なのだろうか。私にはただの皮肉のようにしか聞こえなかった。

 私の周囲の人間は、私のことを「天才だ」と言う。そりゃ、ほとんど勉強しないくせにテストで毎回上位に食い込んでんだから、才能はあるのかもしれない。でも、私からしたら、より良い順位を取るために毎日コツコツと勉強している友達の方がよっぽど凄いし、かっこいいし、天才だと思う。

 それに、自分のこと、他人のことを天才だとか凡人だとか分類する人のことを、私はどうしても好きになれない。なぜなら、私はそういった人達に、対等に見てもらった試しがないから。

「はぁ」

 孤独を紛らわすため、彼女に頼るしかないのが、我ながら不憫だなと思った。

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