ネオンテトラは勇躍す 8
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「うーん。
そうですね……やはり、みんなが安心して暮らせる国になって欲しいです。今、私たちの世代には、働きたくても働き口がない多くの人がいて、苦しんでいると思います。
そんな人たちが安心して家庭を持ち、子供を育てられる社会になって欲しいです」
「なるほど。
私たち国政に携わる者からすると、国の舵取りをどうするか?という点に目が行きがちなのですが、足元が崩れかけてますよ、と言うことが仰りたいんですね?」
「はい。流石は木戸さん、私の拙い言葉を噛み砕いて頂いて、ありがとうございます。
グローバリズムを意識するあまり、日本人の良さである血縁の力、集団で集まる力を軽視してはいないか?と思わずにはいられません」
「父が家を守り、母が育てる、ですか。
岸谷さんはお若いのに、昭和的というか、昔ながらのお考えをお持ちのようだ」
「家族を核とした人類の営みは、紀元前から続く自然の摂理だと思います。いけませんか?」
「いえ、私も全く同じ考えなんですよ。
日本人は、昔から血の繋がりを大事にしてきました。
家族を核として、家族同士が繋がり、そして大きな力になる。歴史とはまさに、そうやって作られていくのだと考えています」
ちょっと、ほっとした。
結局のところ、家族を作れないから子供は生まれず、国は衰退していく。その残念な未来を知っている身としては、少しでも賛同してくれる政治家がいるのは、有難い。
「よかったです。
先程言った、苦しんでいる私の世代、いっぱいいるんです。
男も女も関係なく、誰にも助けてもらえない。
成果主義だとか何とかで、新卒での就職が絞られ、さりとて中途で応募しようにも、未経験は不可だとか、新卒で取ってもらえなかったような奴は信用ならないとか、酷いものです。
結局、不安定な低賃金のアルバイトくらいしか、働く手段がない。女性なら水商売にも流れるでしょう。
それでは、家庭を築くことは出来ません」
「しかし、それは不景気の影響ではありませんか?
そこを何とかする為に、大泉さんが頑張ってらっしゃる」
「ええ、民間の事情はそうです。
景気が良くなれば、企業は採用活動をするでしょう。
では、不景気の時に取ってもらえなかった人たちは、どうなるのでしょうか?本人の努力もあると思いますが、採用へのハードルは高くなります。
仕方なかったね、ではすまない影響が、出るのではないかと思っています。
ならば、国策として、何とかすることは出来ないものでしょうか?」
これ以上語ると、俺の身に良くないことが起こりそうな気がする……。
「ふーむ、なるほど。
確かに、見て見ぬふりをしていたかもしれませんねぇ。
君は、どうすれば良いと思いますか?」
「それは、私には分かりかねます。
わかりやすいのは、公共事業だと思いますが……」
「ふむ、それは私も考えていました。
今は財源がない、と言って公共事業を怠る空気が、霞ヶ関には、あるんですよねぇ」
「昔ながらのダム建設や、道路工事などでは、ダメかもしれません。今の時代に合っていて、政府も喜ぶようなものが、いいと思うんですが」
「何でしょうね?」
「……例えば、コメの価値観を変えて、コメを大々的に増産する、とか」
「ほう?価値観を??」
「ええ。
コメが余っていて、毎年政府が買い上げている、というのは、一般的な知識として持っています」
「そうだね」
「では、何故コメが余るのでしょうか?」
「それは、需要に対して供給過多だからだろう。
それがわかっているから、減反政策を行ってきたんだ」
「はい。であれば、需要を増やせば良いわけですね?」
「それが出来れば、苦労はしないよ」
長年、減反政策に関わってきた砂池さんが、思わず口を出す。
「そこで、価値観を変えるんです。
コメの用途は何でしょう?ごはんですね。
日本人の主食です。
しかし今、パン食が一般的になって、コメの消費量は落ちている」
「うむ、その通りだ」
「あ、岸谷さん!
パン食と同じことをする、と言うことですね?」
「はい、その通りです」
木戸さんは、かなりのキレ者だな。
「木戸くん、ワシにはよくわからないんだが……」
「砂池さん、パン食が一般的になった理由は何でしょう?」
「うーん、洋食への憧れ……かな?」
「そうですね。
他にも、手軽に食べられる、とかもありますが、基本は憧れ、です。カッコいいんですよ」
「ワシも憧れたもんじゃ」
「だから、同じことをすると」
「同じこと?コメに憧れる、ということか?」
「そうです!それが岸谷さんの言う、価値観を変える、と言うことなのです。皆がこぞってコメを食べれば、需要は高まり、価格も維持され、コメを増産する必要が出てきます」
「なるほど……コメの価値観を変える……」
「今は、コメを食べるのは日本人だけではありません。
世界から望まれるようなコメの国となれば、それこそ公共事業として、大々的に行うだけの意味があるのかもしれません」
「うーむ。
ワシには考えもつかない発想じゃな。
岸谷くん、そう言うことなのかな?」
「ええ、木戸さんの仰る通りです」
「しかし、コメだけ優遇しては、他の業界からの批判を招くぞ」
「そうですね。
そこは先生方の手腕が問われる、ということではないでしょうか?」
「フハハ!これは一本取られたわい」
「しかし、コメの例はわかりやすかったですね。
統計資料を見ているだけでは、気が付かないこともあります」
「いち投資家の浅知恵と、考えて頂ければ。
私の言いたかったことは、素敵な公共事業があったら嬉しいな、ということです。ハハハ」
今はまだマシな気がするけど。
20年後30年後の未来、俺の目からは、何の意味があるのかわからないような予算や補助金が、多々あったと思っている。
誰の懐に入っているのやら。
志ある政治家が、存分に税金を使ってくれる事を、願っている。




