ネオンテトラは勇躍す 6
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「この物件は、築40年で、もう所有者以外住んでなかったんですが、さすがにボロ過ぎるって言うので、現状お渡しで売りに出てるものです」
歴史を感じるアパートの前に、俺と【猪鹿蝶不動産】の中塚さんは立っていた。
場所は、松陰神社前。
閑静な住宅街だ。
「うん、良いんじゃないかな。敷地面積は?」
「110坪です」
「値段は?」
「1億7千万ですね」
「いいよ。これを取り壊して、新しくアパートを建てよう。
大海崎さんに言っといてください」
「承知しました。
先日のと合わせて、2棟建てられる、と言うことで宜しいでしょうか?」
「ええ。よろしくお願いします」
俺は昨年から、杉並区、世田谷区、目黒区を中心にアパートを建てるべく物件漁りをしている。
一棟辺り10部屋かな。広めの1DKの部屋を量産する。
土地建物込みで、一棟辺り2億5千万くらいか。
建築と保守は大海崎さんに、管理関係はとりあえず【猪鹿蝶不動産】に頼んでいる。
俺が不動産屋を持ってれば良かったんだが、門外漢だからな。今後の課題だ。
ちなみにもう一棟は、桜新町に建てる。
何故そんなことをしているか、というと、【シャインガレット】や、【バタフライアクセス】、【ブラックエンゼル】のみんなに、社宅として提供しようと思っているのだ。
広い意味でのブラックエンゼルグループだな。
2万くらいで貸すつもりだ。
俺から各社に貸す段階で、保守費用が賄える程度の、かなり安い家賃を設定するので、会社側の負担は比較的軽い。
勤続3年以上とか、女子寮並の厳しめのルールは設けるにせよ、何が起こるかわからないので、まずは2棟、問題が起こる前提でやってみる感じかな。
首都圏の住宅事情は、本当に厳しい。
ウチは別に高給を払ってるわけじゃない。
それでも、住宅事情が改善されるなら、全然構わない、という人は多いはずだ。
むしろ若い頃の俺なら、この社宅に住まわせて貰えるなら、薄給も我慢できたと思うよ。
この施策は、会社の福利厚生的な側面が強いものだが、今の不景気な時期に、大海崎さんに継続的に仕事を提供したい、という意図もある。




