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ネオンテトラは勇躍す 5

4-5


9月といえど、京都の街は、今も暑い。

四条通り沿い、四条大宮駅から徒歩5分の、4階建てのビルの一角に、【シャインガレット】関西支社がある。


 【シャインガレット】関西支社は、【花蓮峡】という派遣会社であり、今もその名前で営業している。【ブラックエンゼル】が花明院家から300万で買い取った。


花明院 楓は、【花蓮峡】の社長として就任した。

元々この会社を取り仕切っていたのは、奏蔵 道晴(そうくら みちはる)と、奏蔵 小梅(そうくら こうめ)の兄妹。

二人とも、さらりとしたストレートヘアで、控えめな印象。常に微笑みを湛えているが、何を考えているかわからない、いわゆるザ・京都人である。

花明院から見ると、遠縁の親戚だ。

この二人は、そのまま部長職として動いている。

大迫は、花明院の直属で動いてもらっている。


この頃の京都は、修学旅行の高校生が風物詩の、のどかな古都だ。確かに観光客は多いが、2010年代からのインバウンドの狂騒を考えれば、なんて事はない。

若者も多く、働き手はいくらでもいる。


肝心の派遣スタッフだが、花明院家に紐付いている子女が3、4人いるだけだったので、早速採用活動を開始し、就職の波に乗り遅れてプラプラしている女子層を中心に、徐々にスタッフを増やしている、という状況だ。

男も使っていいという方針だったが、花明院がノウハウを吸収してきたのが【シャインガレット】だ。

結局、女子オンリーと言う感じになりそうだな。

目元の涼やかな道晴が、持て囃されそうだ。


東京本社と概ね思想は同じなんだが、研修内容だけ変えている。本社は、徹底的にIT研修。その次に携帯電話研修って感じ。

対してこちらでは、第一に接客研修だ。

お辞儀の仕方から電話対応まで、花明院家の子女を厳しく鍛えてきた内容を引き継いでいる。

その次に英語研修。

これは一朝一夕には行かないが、観光客相手の会話に絞れば、働きながらでも、半年くらいで何とかモノになる。

もちろん本人の意向次第で、IT研修も受けられるようにするつもりだ。



「このほうじ茶パフェ、ってのは美味しいな」


「でしょ!

抹茶パフェも捨てがたいけど、ほうじ茶パフェも良いのよ!」


JR京都駅には、駅ビルとして【伊多参】という百貨店があり、そこに、【甘利】という茶スイーツの専門店が入っている。

前世の記憶で存在だけは知っていたが、実際に来たのは初めてだ。


意外と甘党なのがわかった花明院は、いつもの捜査官スタイル。何の飾り気もない。袴の方が似合うぞ。

化粧もちゃんとしろ。



周りはカップルや女子グループばかりだ。

俺と花明院はデートでもしているかと言うと、そんな訳はない。普通に報告会だ。



「じゃあ、概ね順調ということか?」


「そうだね。

今は稼働しているのが15人くらいかな」


「大迫は?連れてきていないようだが……」


「舞は、道晴たちにしごかれてるよ」


「そうか」


「で、やりたいことって?」


「ああ。そうだな。

ちょっと頼みたいことがあってな。

町家を何軒か買いたい」


「町家ってあの古臭い家のこと?

奥に向かって細長い」


「そう、それだ」


「確かに京都には、いっぱいあるけど……。

あんなくたびれた建物どうするの?

住みにくいし、何の役にも立たないよ?」


「まあそう言うなよ。

富裕層向けの、コンドミニアムに改装しようかと思っている」


「別荘的な?」


「まあイメージはそうだな。

一週間とか二週間とか滞在可能な施設だ」


「なるほど。

でも旅行って言ったら、2、3日ってとこでしょ?

そんな長く滞在する人居るかな?」


「日本人ならな」


「外人さん向けなの?」


「そうだ。外国人観光客は、長い休みを取って観光旅行をする。ホテルなんかより、滞在型のコンドミニアムの方が、喜ばれるんだ」


「町家を改造することで、和風な感じも出せるってわけね」


「うむ。町家の遺構を残したい、という自治体の要望も汲み取れるだろうしな」


「わかった。何軒か探してみるよ」


「なるべく中心に近くて、建物の状態の良い物件で頼む。

まずは何軒かで、テストしてみたいんだ」


「オッケー。楽しみにしててよ」


この時期の京都は、比較的土地も建物も安い。

外資に買い漁られて、歴史的な景観が損なわれてしまう前に、目ぼしい物件を押さえておきたい。

そして、そこを会員制のコンドミニアムとして貸し出し、掃除や管理を【花蓮峡】の余剰人員に任せる。

ホームページは悠華さんとこに任せればいいし、客はUS支社の方で営業をかければ大丈夫だろう。

国内にも知り合いのセレブはいるから、そっちは俺がそれとなく人を選んで声をかければいい。


まずはやってみて、課題を出し、それを解決してより良いサービスとする。PDCAの基本だね。

ちなみにPDCAとは、

P:プラン、D:ドゥ、C:チェック、A:アクション

の業務改善のサイクルのことを言う。

今回はDありきなんで、順番が少し違うけども。


まぁ、俺は前世、PDCAを引き合いに出してダメ出しをする開発部署の上司のこと、マジで終わってんなと、思ってました。上手くいかなかった時の、理由付けに使われることが多いんだよな。



 今日は、祇園の辺りを散策してみようかな。

長閑なうちに、京都を目に焼き付けておきたいと、思っている。

 


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