ネオンテトラは始動する 9
-1994年4月-
世田谷の三宿にある、イタリアンレストラン【フォンターナ】。
内装に噴水があるなど、バブルの頃は、ドラマの撮影にも使われている。ティラミスフィーバーの時は、TVでも取り扱われた店だ。
今回の新歓コンパは、この店を借り切った。
テーブルを片付けて、立食形式にしてある。
お笑い同好会や演劇部に声を掛けて、バイトで余興も用意した。
食べ放題飲み放題で、なんとお土産付きである。
人が集まらなければ、寂しくワインでも飲もうと思っていた。
が、蓋を開けてみれば、冷やかしも含めて新入生が50人ほど集まった。
だいたいが2、3人の小グループだが、一人で来た子も結構いるな。
前方に用意した小舞台に、マイクを持った皿橋がテテテっと、上がる。
「こーんばーんわー!!
ファイナンス&インベストメント同好会【ネオンテトラ】の新人歓迎会にようこそ!!部長の文学部 英語文学科 2年、皿橋 直美です!
それではまず、学生個人投資家でもあり、本サークルの後援者でもある、会長の岸谷からご挨拶させていただきます!」
物怖じしないところは、こいつの美徳だよなぁ。
「あー、こんばんは。
会長の国際交流学部 国際経営学科 3年、岸谷順也です。
このサークルは、投資や、資産運用に少しでも興味がある人のために、今年から出来ました。難しい印象があるかもしれませんが、活動内容は、まったりやれればいいと思ってます。
気軽に部室の方に顔を出してください。
今日は楽しんでいってくださいね」
そこそこの拍手が起こる。
マイクを渡すついでに、皿橋に一声かける。
引き継いだ皿橋の挨拶が続く。
「……というわけで、ご静聴ありがとうございます!
それではみなさん、楽しんでくださいね!
……ああーっと、それから!
お一人で来てくださった新入生は、前方の私の居るテーブルに来てください!一緒にお料理食べましょう!!」
一人で来る子は、サークルへの熱量が高い可能性がある。
居辛くなって早々に帰られても困る。
コミュ力の高い皿橋に任せることにした。
ちらほらと、前方に行く子達が見られる。
その他は、皿橋以外のメンバーが話しかけにいっている。
俺は目立たない二階席で、ワインをちびちびやっている。
やはり女子限定にして良かったな。
落ち着いている。
女子校で生徒会長をしていた皿橋を、初期メンツの構想に加えた時点で、考えてはいたことだ。ちなみに有希も女子校出身だ。
普通のサークルのように男女混合の場合、俺が前に出なければならなくなる。男子大学生なんて女の尻を追っかけるのに夢中な奴が多い。前世の俺自身がそうだったからだが、あながち間違ってないと思う。
そうするとどうしても、皿橋部長体制では、統制が取れない。
人には得手不得手というものがある。
俺自身で部長をする必要が出てくるのだが、そこまでサークル運営に手を取られたくないのが正直な所だ。
また、将来的に、サークル出身者を新卒採用することを考えると、サークル内で惚れた腫れたをしてほしくない。
サークルの外でやってもらう分には、勝手にすれば良い。
ということで、現在のような体制になっている。
「カワイイ子がいっぱい来てくれたね」
ほろ酔いの有希が、ワインのボトルを持ってきてくれた。
「そうだな」
「……」
「イデデッ!!」
二の腕をつねられた。
「有希が一番可愛い」
「よろしい」
有希がワインを注いでくれた。
その様子を、曽良岡が下から見ていたような、気がした。
三宿は、池尻大橋と三軒茶屋の間にあります。
昔は、(今も?)多数の芸能人が住む、知る人ぞ知る隠れ家スポットだった、らしいです。