ネオンテトラとミレニアム 24
3-24
-2000年9月-
快晴の山野辺大学。
9月と言えば、まだまだ暑い盛りだが、山の上の大学は、少し涼しいと感じる。
坂下へ続く道から、続々と礼装した人々が集っている。
俺と妙子の結婚式は、日曜の大学を貸し切って行うことにした。俺たちの思い出の場所だ。
これ以上の舞台は、ない。
大学始まって以来の珍事だと言うが、ステファニーさんを通じて学生課と連携、半年かけて交渉し、最終的には、1000万の寄付を行う事で実現した。
実際、大学には大きな講堂があり、広い学食があるので、場所としては申し分ない。とはいえ、さすがにそれなりの地位にある人が来るので、専用の席は用意した。
砂池翁を始めとした、政治家の先生も何人か来るので、さすがに学食の椅子に座らせるわけにはいかない。
大学側は、腹を決めた後は、これをビジネスとして展開出来ないかと目論んでいるらしい。商魂たくましいな。
大学のチャペルに、みんな勢揃いした。
一応、ミッション系の大学なので、牧師さんもいる。
俺は白のモーニングコート。
こういうのは、ベタが一番だ。
チャペル設置の壮麗なパイプオルガンの調べと共に、妙子とお義父さんが入って来る。
観衆が静かに湧く。
あまりの綺麗さに度肝を抜かれる。
ああ、天使とは実在したのだ。
妙子は、プリンセスラインの純白のウェディングドレス。
腰の下でブワッと膨らんでる、アレだ。
可憐な妙子によく似合う。
こちらをみて、微笑んだ。
俺も微笑み返したが、なんかニヤニヤしてしまったかもしれない。
披露宴は、学食をレイアウト変更して行う。
【シャインガレット】のスタッフの他、【ネオンテトラ】現役のメンバーや、OBをバイトで雇い、配膳などを頼んでいる。裏方の仕切りは、新垣と二戸が中心になって色々動いてくれた。
今回、仲人を誰に頼むか、と言うのが懸案だったのだが、悩んだ末に、青木さん夫妻に頼んだ。
頼んだ時、長谷川さんが脂汗を流していた。
また、主賓をどうするか、これも非常に悩んだが、結局、結城さんにお願いした。【チャコフ】は、既に600億を運用する上り調子の巨大ファンドになっていて、誰も文句は言わないだろうからだ。
席を見渡せば、【輪台証券】と【村乃野証券】のテーブルが睨み合っている。島田さんとは徐々に取引を再開していて、次に大きく動くときは、島田さんに頼もうかと思っている。
結城さんと蒲田さんを中心とした投資家のテーブルは、明るく談笑しているように見えるが、何か腹の探り合いみたいになっている。
メグと政治家たちの謎のテーブルはいつも通り。
融資をしたくてしょうがない銀行関係は、義理で招待した。
お腹の大きい青木さんやマキのいるテーブルは、華やかだ。
【ブラックエンゼル】のメンバーが座る最前列のテーブルには、皿橋、新垣、花明院、二戸、真鍋、宮下。
その隣には、【バタフライアクセス】のメンバー。
河内親子も仕方ないから招待した。
親族席にいる妙子の姉たちを見て、若干色めき立っていたように見える。
その他、【パシフィックキッチン】の関係者、【Lang-Lang Cha】のランちゃん、【シリコンズ ゴールド】の親会社のアメリカ人とか、まあ色んな人を招待した。
【パシフィックキッチン】のテーブルには、数年ぶりに会う有希がいた。今は結婚して、麦田有希となっている。
流石に、皿橋達のテーブルに入れるわけにもいかない。
ほんわかした雰囲気はやや減って、社長らしい威厳のようなものを感じないでもない。
髪も黒髪に戻したようだ。
俺の友人席には、数少ない高校の友達なんかを招待したのだが、岩城がいた。高校の部活の後輩で、上京するなら俺を頼れ、と言い残していたのだが、前世と同様、秋田で高校の美術教師になったらしい。
丸眼鏡をコンタクトにして、少し大人っぽくなったようだ。
「さて、宴もたけなわではございますが、ここで新郎による挨拶をお願いいたします。では、新郎の順也さん」
何故かMCは皿橋なのだ。
お堅い系の司会もいけるんかい!っていう。
もう司会業でやってけよ。
「えー、新郎の岸谷順也です。
皆様、今日はお集まりいただき、誠にありがとうございます!
皆様に祝福され、ここにいる妙子と二人で、これからの人生、精一杯幸せになると、改めて心に誓いました!
私のような若輩者と、共に歩んでくれた友人、一緒に仕事をしてくださる諸先輩方、優しく見守ってくれた私や妙子の家族、親戚の皆々様。
皆様がいたから、今の私があると思っております。
私は、幼い頃より投資に興味を持って、今では預言者などと呼ばれておりますが……
誰が呼んだんでしょうね?島田さん?」
島田さんをチラ見。
投資家連中から、小さな笑いが起こる。
島田さんのおろおろした様子を見て、少しだけ溜飲が下がった。
「……それはいいとして。
今までも、これからも、私は投資家として、経営者として、事業に邁進する所存です。
この先、どのような未来が待ち受けているのか?
……それは預言者たる私にもわかりません。
しかし、いかに過酷な未来が待ち受けていようとも、それに立ち向かうことが出来るよう、全力で取り組みます。
そして、この国で真面目に働き、幸せを願う人達の力になりたいと思っています。
この国に住んでいて、働いていて良かったと、誇りを持てる未来をつくりたい。
大言壮語を吐いている自覚はありますが、小さなことからこつこつと、私は私の夢を叶えていきたいと思っています。
……妙子、君は着いてきてくれるかい?」
俺の思いは、生活する中で、それとなく妙子も察しているとは思っている。このクソ甘い望みを。
前世、周囲の環境がどんどん悪い方向に向かう中、わかっていながら何も出来ず、自分のことで精一杯だった。
そして自分の状況すら、どうする事も出来ない袋小路に入っていた。だから一緒に生活していれば、言動にも行動にも出てしまうものだ。
未来への、焦燥感が。
だが、こうしてはっきりと言葉にするのは、初めてだ。
丁度良い。
俺の知り合いが、ほぼ全員集まっているのだ。
偽らざる思いを伝えても構わないだろう?
真面目か!?って言われても良い。
みんな楽観的過ぎるからね。
妙子は呆れただろうか?
青臭えなコイツ、なんて思っただろうか?
いきなり自信が無くなってきた。
俺は矮小で優柔不断で、普通の男なのに……。
と、妙子がズカズカと近寄ってきて、マイクをひったくった。
「あったりまえじゃん!!!」
キィーン、とハウリングした。
「みんな!先輩を、私と一緒に支えてくれる?」
胸を張って、まず最前列のテーブルのメンバーに、そして全員を見渡し、挑戦的にマイクを向ける。
千両役者、曽良岡妙子の本領発揮だ。
一瞬の静寂。
「もっちろんだよ!!」
真っ先に、デカい声で皿橋が応える。
「ジュンジュン!応援するぞ!」
マキだ。
そして、みんなが歓声と拍手で応える。
青木さんは泣いていた。長谷川さんが肩を抱く。
メグが涙ぐんで、うんうん、と頷いている。
オカンかおまえは。
悠華さんは静かに微笑んでいたが、黒田さんと赤松さんは、ハンカチで目頭を押さえていた。
結城さんと蒲田さんが、顔を見合わせて、やれやれってな表情を浮かべて拍手の波に参加したのを、ぼんやりとみていた。
ふと気がつくと、妙子が、真っ直ぐに俺を見つめている。
「先輩!大丈夫だよ!!ウフフ!」
俺が最も言って欲しい言葉を、言ってくれた。
「ありがとう!みんな!」
妙子、おまえはやっぱり最高だ。
俺が言う事無くなった。
マイクを受け取った俺は、頭を掻きながら、
「ありがとうございます」
と、所在なげに言うしかなかった。
第三部、終了です。
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