ネオンテトラとミレニアム 19
3-19
-2000年6月-
あたしは花明院 楓。
由緒正しい公家の出ー明治以降の呼び名で言えば、華族ということになるかな。ウチの家の座右の銘と言えば、【俗世と関わらずお家を残せ】なんで、あたしとしては、芸術の道に進むつもりだったんだけど、何の因果か、岸谷という先輩の会社【シャインガレット】で執行役員をしている。
あたしまだ25だけど。
そんなわけでバリバリ俗世と関わっちゃってるんだけど、まぁ、仕方ないよね。平成だし。
岸谷先輩は【ネオンテトラ】という投資関連のサークルを立ち上げて、会長をしてた人だ。名誉職だから、多分今も会長なんだろう。だから会長、と呼んでる。
公卿の鼻、というのはよく利くもので、この人に着いていくのが最適解だ、と直感的にわかっちゃったんだよね。
人としては、お人好しで優柔不断。
ほんとにフツー。
でも、ビジネスのことになると、冷徹で的確なんだよねぇ。
預言者ってのも、頷ける。
就職を決める時、親にそんな話をしたら、
「婿に貰っても良い」
なんて言われたけど、会長は一人息子だし、あたしもそんなに好みじゃない。方向性は合ってるから悪くはないんだけど、もうちょっとダメな感じの方が好きなんだよねぇ。
それに、妙子っていう彼女がいるし。
あたしは妙子、ちょっと苦手なんだよね。
付き合ってみると、良い子だったからまあ良いんだけど。
超優秀だし。
そう言えば、会長は妙子と結婚するらしい。
世田谷に家買ったんだってさ。
「楓、マネジメント部、夏頃には安定稼働出来そうだよ」
「沙苗、ありがとう」
「営業の方はどうする?」
「ひとまず佳奈にやらせる」
「え」
「あとさくら達をバイトで入れる」
「今の三年の子?」
「うん。会長とも話したけど、どうせ入社するなら【シャインガレット】の研修を受ける訳だし、どっちにしろ手間も省けるから良いんじゃない?って言ってた」
「なるほどね!」
「営業はなかなか、中から選抜って出来ないんだよね。
ウチの子達は、言われた仕事だけやって、遊びたいって子ばっかだから」
「うーん。そうねぇ。
中途採用とか考えないの?」
「会長は、今は中途は考えてないって言ってた。
でも、知り合いを紹介するのはありだってさ」
「なるほど」
「知り合いって言っても、使える子は働いてるし、無理じゃんって思うけど」
「ま、そうね」
「地道に、合いそうな子を、中から探すしかないね」
「先輩、社長がいらっしゃいました!」
あ、そうだ。
会長がなんか話があるとかで、アポ取ってたんだった。
「佳奈、ありがと」




