ネオンテトラは始動する 8
-1981年4月-
二年半で、1200万ほど貯めた。
毎週のように馬券売り場に付き合ってくれた父には、感謝しかない。
ちなみに、成績を全部覚えているわけでもなかったので、外すことも多く、一回盛大に外した後反省して、一点買いをやめた。
そんなことをしながらも、何とかまとまった資金が用意出来た。
「順也様の名義で証券取引きをされたいと?」
「……ええ」
「承知致しました」
納得していない感じの若い証券マン。島田さんという。
人懐っこい印象で、どことなく子犬っぽい。
地方にもあった、大手の村乃野証券。
この時代、株式投資は庶民にはハードルが高い。
そもそも定期預金で勝手に金が増える時代だ。
リスクのある投資をする意味も、あまりなかった。
「早速なのですが、セブンスマートの株を目一杯買ってください」
島田さんは、ちらりと父の方を見る。
「順也の言う通りに」
「……承知致しました。それでは、手配しておきます」
セブンスマートは、数年前に上場したばかりの会社だ。
前世ではコンビニチェーンの最大手になっている。
コンビニという形態を輸入したばかりで、かなり安く買える。
この時期、どの株を買ってもだいたい上がると思うが。
「しばらくホールドする予定ですが、売る時はまた連絡します」
「承知致しました」
セブンスマート株は単元1000株で20万。
1100万円で55,000株購入した。
競馬で荒稼ぎしたが、以降は控えめにするつもりだ。
とはいえ、社宅のトイレを洋式にする資金は断じて用意したいと思う。
「ジュン、疑うわけじゃないが、セブンスマートで良いのか?
もっとこう……モトヨ自動車とか、日洋電器とかさ」
「うん、上がるは上がると思うけど、多分セブンスマートの方が良いと思う。それに、セブンスマートが早くうちの近くにも出来て欲しいから」
「なるほど」
父は、俺が未来を見てきたという話を、表面上は信じてくれた。
事実として未来を言い当ててるしな。
本当のところ、どう思ってるかわからない。
俺が父だったら、薄気味悪いと思う。
それから、一つ気がついたことがある。
競馬の予想やアニメの来週のあらすじなどは父に話しても問題ないが、政権交代や国営だった電話会社であるMPPの民営化、当然バブル崩壊のこともだが、ある一定以上重要な出来事のことを話したり伝えたりしようとすると、体が動かなくなる。
歴史の修正力、という目に見えないものを、感じずにはいられない。