表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/200

ネオンテトラとミレニアム 17

3-17


-町田市-


プロポーズが無事に成功して、一週間後。

ああ、ついにこの時が来てしまった。


「やっぱ日を改めた方が……」


「ウフフ、先輩。

大丈夫ですよ!」


「しかし……」


妙子の実家前である。

住宅街の中にある、一軒家。

曽良岡、と書かれた重厚な表札。

綺麗に手入れされた植木鉢や、プランターが並んでいる。


着慣れないスーツを着て、手土産持参。


マジで嫌だ。

いや、遅いくらいですよね。

妙子と同棲してはや3年。

ええ、幸せですよ!!

ずっと妙子を見ていられる特権を、世界でただ一人持っているのは俺だけだ!ああ!俺だけなんだー!!

まだ振られてないぞ!これからも頑張って妙子を独り占めだー!!ワーハハハハ!!


ふう。現実逃避はこのくらいにして。



 「あら、いらっしゃい。岸谷さん。

待っていたのよ?」


妙子によく似たお母さんが出てきた。


「失礼します!」


実は妙子の母、ゆかりさんには、何度か会っている。

妙子は四人姉妹の末っ子だ。

ゆかりさんは、妙子のことを大変可愛がっている。

変な虫が寄り付きはしないかと、ハラハラなさっていた。

なので妙子が気を利かせて、お茶したりご飯したりと、コミニュケーションを取る機会を設けてくれたのだ。

と言う事で、今日は味方である。


玄関を上がると、廊下の先から、3人の姉が顔を出す。

手前から、ちょっとぽっちゃりした妙子、ちょっと気の強そうな妙子、ちょっと派手目の妙子。

母方の血、濃すぎぃ!!


軽く会釈する。

お姉さん達は初対面だが、多分ただの野次馬だ。

ちなみに、ちょっとぽっちゃりした妙子こと長女は既婚、他の二人は未婚だそうだ。


恐る恐る応接間に入ると、今日ご挨拶しなければならない相手が、ソファで腕組みして待っていた。


四角い眼鏡をかけ、気難しそうな表情を浮かべたおじさん、曽良岡 慎二さんだ。能面の様な顔をしてらっしゃる。

とある電機メーカーで、品質管理の仕事をしているそうな。


ゆかりさんは何度か、俺とお義父さんを会わせようとしたようなのだが、何故かいつも拒否されている……。

と言う事で初対面なのだ。


「失礼します」


「お父さん、岸谷順也さん。

大学の先輩なんだ」


「……知っている」


重いなぁ、空気が。


「まあまあ、座って座って」


ゆかりさんが助け舟を出してくれたので、妙子と共に腰を下ろした。


「岸谷順也と申します。

妙子さんとは、お付き合いをさせて頂いております」


「……」


眉を顰めている。

ゆかりさんに聞くところ、お義父さんは、それはそれは妙子のことを可愛がっており、溺愛と言っても過言では無いそうだ。

甘え上手な末娘だ。

可愛いだろうなぁ、ははは……。


「もう、お父さん!

先輩が困ってるでしょ?ウフフ!」


「……妙子」


「なに?」


「……おまえ、勝手に同棲したな」


「え?お母さんには相談したよ?

お父さん話聞かなかったじゃん」


「だからっておまえ!

お父さんにキチンと話をだな!」


「全然聞いてくれなかったじゃない」


「それはダメって事なんだよ!

わからんかなぁ!その辺の機微というものが!」


「言わなきゃわかんないよ。

それに、私はもう子供じゃないんだよ!」


「結婚前の娘が、同棲だなどと……

お父さんがどれほど心配したか!」


「先輩は優しくて理解があって、包容力もあって、私のことを一番に考えてくれてます!

心配なんかしなくて大丈夫だよ」


「むぐぐ……」


なんか、妙子に聞いてたのとだいぶ話が違うと言うか……

かなり緊迫してるなぁ、親子関係。

これ、話を切り出しても良いのかな……。


「まあまあ、お父さん。落ち着いて。

ほら、お茶でも飲んで」


ふうふう言ってるお義父さんに、ゆかりさんが仲裁に入る。

多分、こういう家族なのかな……。

自分以外全員女、というのはなんかこう、みんな口は達者だろうし、お義父さんに同情する部分がなくもない。


お茶を一口飲んで、お義父さんは俺に向き直った。


「……岸谷くんだったね」


「はい」


「その歳で、投資家として成功しているとか」


「はい、成功していると言えるかどうかは、分かりませんが、投資家をしております」


「その、危なくないのかね?

浮き沈みが激しいと聞くが」


まぁ、一般的にはそういう認識だよな。

胡散臭い、と思われるのは仕方がない。

実際には、投資を持ちかける人、が胡散臭い、というかほぼ確でクロなんだが、イメージがごっちゃになっている。


「リスクは承知しています。

なので、私は自己資金だけでやっています。

会社も無借金経営です。もちろんこの先も」


「ふむ」


ゆかりさんから、事前情報は得ているだろう。

これはただの確認だ。


確かに不安定な職業だ。

破滅する人も多かろう。

だが、俺は自己資金だけでやっているので、破滅するとしたら、読みを誤った時だけだ。

それでも信用取引をしていないので、ゼロ以下にはならない。間違って株を塩漬けにすることになったら、それはそれ、またどこかで上がるのを待てばいい。

リスクは最小限。


お義父さんは、ふう、とため息をついた。


「君は、妙子との結婚を相談に来た、と言う事で合っているかね?」


先に言われた!!


「は、はい」


娘さんを私にください、ってやらないパターンか!?


「私は可愛さ故に、この通り、妙子をわがまま放題に育ててしまった」


「ちょっとお父さん!」


「妙子、お父さんの話を聞きなさい」



「自慢の娘だが、君には苦労をかけることも多かろう」


「そんなことはありません。

妙子さんは、私には勿体無い、素晴らしい女性です」


「そこまで断言されると、何も言えんな」


「じゃあお父さん!?」


妙子が立ち上がる。


「うむ。認めよう」


「やったー!」


片腕でガッツポーズをする妙子、何だろう、小動物っぽくて可愛い。お義父さん、この希少な小動物は、私が責任を持って保護すると誓いましょう。

全然言うこと聞かないで、地球の裏側に旅立っちゃいますけど。


「良かったわね、妙子!」


「岸谷くん、妙子を宜しく頼む」


「はい!」



その後、やれやれ、だの、私より先に結婚するなど許せん、だの、ちっ!もっと修羅場になればいいのに、だのといった空気を醸し出すお姉さん方にご挨拶をした。

怖いなぁ、お姉さん。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ