ネオンテトラとミレニアム 9
3-9
-2000年1月-
1000年に一度、特別なミレニアムの幕開け。
世の中が浮かれている最中、
日本のITバブルが、絶頂を迎えようとしていた。
ITバブルは、言ってみれば、IT分野に対する過剰投資だ。
しかも日本の場合は、アメリカがそうであったから、釣られてなっているだけというか、実体があまりなかった。
しかしながら、一部の関連銘柄は、おかしなくらい株価が高騰しており、投機的な資金が集まっていた。
すでにこの時、インターネットやブラウザ、OSなどほぼ全てのIT分野において、日本はアメリカの後塵を拝している。
短期的な利益追求とコストカットが横行して、研究開発を疎かにして冒険せず、ただただ殻に閉じ籠り続けた結果だ。
二度目の人生を通して、俺はそう思っている。
俺はITバブルに合わせて、11億円分、前もって株式を購入していた。【クラウンローチ】と【ブラックエンゼル】の資金も1億、加えて入れている。
もっと買っても良かったかもしれないが、そもそも歴史通りになるかもわからないし、無理はしない、と決めているからだ。
1月の下旬に、【碇真光】を売った。
【碇真光】
・購入時(1998年1月)
単元100株40万
¥400,000 × 500単位(50,000株) = ¥200,000,000
・売却時(2000年1月)
単元100株1,800万
¥18,000,000 × 500単位(50,000株) = ¥9,000,000,000
・利益
¥6,512,000,000
2億が65億になった。
【碇真光】は、携帯電話ショップが基幹事業だが、IT分野でベンチャーキャピタルも派手にやっていた。
3月にバブルが弾けるタイミングでスキャンダル記事が出て、とんでもない株価の下落を記録することになる。
【輪台証券】の松永さんは、前々から売り時だとか言ってた癖に、
「まだまだ上がるっすよ!」
とか、調子の良いことを言っていた。
この人は投資しちゃダメな人だ。
というより、世の中全体が浮かれていた、と言えるかもしれない。80年代のバブルほどではないが、周りの空気に流されやすいのは何か感じる。前世の俺がまさにそうだった。
赤信号もみんなで渡っちゃう心理だ。
【シリコンズ ゴールド】の日本法人も順調に立ち上がり、銀座に一号店が3月オープン予定だ。
うんうん。
4月以降、日米双方で大変な事になるから、早くやっておくに越した事はない。
【シャインガレット】の移転は無事に終わり、今は通常運転している。
今は青木さん、事務二名、花明院、二戸、真鍋、宮下の7人なので、執務エリアはかなり閑散としている。
しかし、派遣の合間の人員や、研修期間中の人員の座る席があるのは、真っ当な企業として安心できる。
【シャインガレット】は女性のみの会社なため、当然適齢期になると、結婚して退職していく人員が、一定数いる。
関東に居られなくなるとか、家庭に入るとか、子供が出来たから……理由は色々だ。
青木さんは、その中から、ベテランでかつ【まだ働きたいが、フルタイムで働くのが難しい】という理由で退職する人員に、目をつけた。
いわゆるパート従業員、として雇用するシステムを作ったのだ。
元々、現場マネジメントの部署が必要であることが、課題としてあったのが発端だ。
定期的に派遣先にヒアリングすること。
定期的に派遣スタッフに不満やストレスがないかを確認すること。
スキルシートを更新すること。
問題があった場合にアラートを上げ、解決策をまとめること。
契約更新の連絡。
研修終わりの新人のフォローなどなど。
こういった業務は、現場を知るベテランがやることが望ましいので、ここにパートをあてる。
デスクワークだし、やる事は決まっているので、業務時間も調整し易い。最低限、週3で各5時間くらい入ってくれれば、まあ対応可能。
今まで、みんなで分担してやっていたこのタスクを集約できるメリットはデカい。特にプレイングマネージャーの動きをしていたマキは、メグのサポートもしており、最近とみにげっそりしているので、負担を減らしたい。
とりあえず現場と関わりの深い二戸にこの部署を任せ、マキはサポート。現役の人員から、管理に回ってもいい、というスタッフを一名つけた。パートのあては、とりあえず二名いたので、まずはそこから始める。
席に余裕があると、こういう施策を打てるのでありがたい。
それからもう一つ。
花明院達に任せていた、新事業の形が見えてきた。
F1層を対象とした、マーケティング事業を受託するビジネスだ。
【シャインガレット】のスタッフは、70人ほどで、ほぼ全員が東京に住む現役の働くF1層だ。その友達まで含めると、400人くらいは集めることが可能。
このメリットを活かそうかと考えた。
化粧品や文具、エンタメ商材や広告等、F1層の意見を知りたいと考える企業は多い。
元は、【パシフィックキッチン】から、【Lang-Lang Cha】の新商品の反応をあらかじめ知りたいから、御社のスタッフに試供する会を開けませんか?と、呼びかけがあったことがきっかけだ。
その時は、なるほど様々な意見が出て、商品力の向上に役立ったのだ。
【Lang-Lang Cha】の例のように、その場で反応が知りたい場合は、土日とかで希望者を募ればいいし、継続的な使い心地とかを見るなら、商品を渡してアンケートを取る、といった形になるので、それほど手間でもない。
ウチのスタッフはみんなノリが良いので、【Lang-Lang Cha】の時はイベント感覚で来てくれたし、バイト料も出るので、とても喜んでいた。
こういう目的のために、【シャインガレット】の新オフィスには、多目的ホールを設置したのだ。
商売としては、それほど旨みのあるものではないが、試しにやってみてもいいかな、と言う感じ。
新しい商売に繋がる情報が得られるかもしれないし。
皿橋や新垣がちょこちょこ営業をかけているので、少し仕事が入り始めている。まずは様子見だね。




