ネオンテトラとミレニアム 5
3-5
-1999年7月-
【ブラックエンゼル】の入っているフロアの会議室。
ここには、皿橋、新垣、妙子、花明院、二戸、真鍋、宮下のフルメンバーが揃っている。
まぁ、週次でやっている全体会議なんだけどね。
「本日のアジェンダです。
各事業の報告、真鍋さん宮下さんの配属、【ネオンテトラ】の夏合宿について、以上です」
進行は皿橋。
慣れたものである。
「では、【Lang-Lang Cha】(ランランチャ)から。妙子ちゃん」
「はい。原宿の1号店、渋谷の2号店は順調に売上を上げています。二店舗合わせて、利益は月に40万ってとこかしらね。
原宿の別の場所に3号店、池袋に4号店が来月オープン予定です」
「ほう」
思いの外順調だな。
「雑誌の取材も、月に3本くらいはコンスタントに入ってますから、しばらくは勢いが続くと思います。また、夏限定でトロピカルフルーツティーや、ライチココナッツティーといったメニューも投入予定です」
ぱん、と二戸が手を打った。
「私見ましたよ!
この前の【東京食べ歩き散歩ムック】に載ってました!」
「私、普通に渋谷店に通っちゃってます。
トロピカルフルーツティー、楽しみだなぁ」
もじもじと宮下も呟く。
「あれ、存在感あるから、なんか自分がイケてるように見えるんだよね」
と真鍋。
「「それそれ!」」
なんか女子の承認欲求に、響くものがあるらしい。
「【パシフィックキッチン】は何か言ってるか?」
「タピオカミルクティーがここまで売れるとは、思ってなかったようで、名古屋や福岡への出店も積極的に進めたい、とのことです」
「そうか。順調で何より」
「それから、明日より一週間ほど渡米します」
「うん」
河内パパと渡米した時のコネクションが生きていて、妙子は定期的に渡米している。米国でのビジネスも視野に入れて、コネクション作りと情報収集だ。ただ、そのままイケメン社長と恋に落ちたりしないかと、ヒヤヒヤしている。
「では次に、【バタフライアクセス】について。翔子ちゃん」
「はい。
先月リリースした【わいわいゲームらんど!】ですが、約1ヶ月で登録者数が5万人を突破しました」
「「「「おおおー!!」」」
すごっ。
「リリース当初は、アクセス集中でお客様に不便をおかけしましたが、サーバーも増強され、評判も上々です」
「わたくし皿橋も登録してます!
【彼と私の未来紀行】がお気に入りです!」
「あー、それいいですよね!
なかなか彼が振り向いてくれないんですよー!」
【彼と私の未来紀行】は、海原の脚本による、簡単なアドベンチャーゲームだ。
美術部に所属する内気な女子高生が、人気者で鈍感な先輩と仲良くなろうとする、甘酸っぱいラブストーリーだ。
途中の選択によって結末が変わる。
KPIを見てみると、一部のユーザーがめちゃめちゃパワープレイしている。
これはあれか、世に言う乙女ゲームというやつなのか……?
「おほん、今はサービスの安定を【ミンナモ】さんと進めています。また、冬にはコンテンツの追加を予定しています」
5万人でも、【バタフライアクセス】には毎月700万、【ブラックエンゼル】には300万入る。
これでどちらも黒字経営になるぞ!
「大したもんだ!
悠華さんたちの努力の賜物だが、新垣、おまえもよく頑張ったな。悠華さんたちが気持ち良く仕事出来るのは、おまえの存在が大きい」
「はい!」
「それから妙子、【GOUCHI】との交渉フロント、お疲れ様。皿橋も、よくサポートしてくれた」
「「いえいえ」」
「花明院、二戸。
【シャインガレット】からテストプレイの人員を出してくれて助かった」
「大したことはしてないよ」
「楓!こういうのは、はい!頑張りました!
って言っとくものよ!」
「へー」
「それから、真鍋と宮下もテストプレイ、ありがとうな」
「はい」
「えへへ」
「芳江、えへへじゃないでしょ」
「えー!」
「……まぁ良い。
みんな、これからも【バタフライアクセス】をサポートよろしくな」
「「「「「はい!」」」」
来期は、大幅に昇給出来そうだな。
「続けます。次に、【シャインガレット】について。
楓ちゃん、よろしく」
【シャインガレット】に出向中の花明院と二戸は、主に青木さんのサポートをしていて、契約や人事、スキルシートの作成などをしている。二戸は営業も担っていたりする。
花明院はどちらかというと、スタッフ管理の方かな。
カリスマ性と統率力があるので、人心掌握に長けている。
経理庶務関係は、生え抜きのスタッフに任せている。
「そうだね。
青木さんが積極採用を進めていて、来月入る人を含めると、全部で70人になるよ」
70人て。
常時稼働人員はざっと55人てとこか。
やはり、青木さんが人材獲得に注力出来ているのが大きい。
「そうか」
「【GOUCH】から、テレアポ人員のさらなる催促もあるし、データ入力の依頼も多い。携帯電話ショップやナビゲーターの依頼も殺到してるから、これでも全然足りてないよ」
「ふむ。人材は一朝一夕には増えないから、着実に信用を積み重ねるしかないな」
「そうだね。青木さんの採用するスタッフは確実だから、このまま少しずつ増やしていくのが良いと思う。
ウチは待遇がかなり良いから、求職者も多い。
タイミングとしては、そろそろ上場しても良いと思うよ」
「上場か」
上場のメリットは、なんと言っても社会的信用だ。
人が集めやすくなる。金もな。
株価を上げて売却すれば、俺の利益は計り知れない。
配当もバカにならないだろうし。
それから、ストックオプションで社員にメリットを供与し易い。青木さんに1億くらいの将来的利益なら、リスクなく配分可能なのだ。
青木さんには、現状毎月70万の役員報酬を設定しているが、貢献度を考えると、もっと報いるべきだ。
だが……。
「上場は視野に入れてない」
「なんで?」
「上場は、諸刃の剣だ。
こちらの都合で経営がしにくくなる。
青木さんの願いは、あくまで、みんなが笑顔で仕事のできる環境だ。ウチは派遣先に、過大な報酬をふっかけていない。
向こうから、人が欲しい、と上げてくることはあるがな。
派遣先にストレスを与えないことで、結果的にこちらのスタッフが過ごしやすい環境を提供出来ている。
上場すると、株主の圧力もあるだろうし、ちょっとしたスキャンダルで、会社が思わぬダメージを被ったりもする。
そんなことに気を遣うのは、みんなストレスだろう」
「それはそうだけど……」
「花明院、提案は嬉しい。
今はそのつもりはない、と考えてくれ」
「わかった。
会長の言うことは、だいたい間違いないしね」




