ネオンテトラと漆黒の女王 40
2-40
花明院と二戸を新人研修に放り込んだ【シャインガレット】だが、スタッフが45人を超えた。
青木さん、頑張り過ぎだよ。
仕事の量から考えると、これでも拡大路線は控えめだったりする。
青木さん曰く、いきなり人員を増やして、クオリティが下がるのは、嫌らしい。
もはや俺も全員を把握していない。
節目に挨拶するくらいなので、まあ良いんだけど。
それはそうと、渋谷のオフィスが手狭になってきたので、上階の六階が空いたタイミングで借り増した。
【シャインガレット】以外のみんなの席を移動させたのだ。
五階は【シャインガレット】専用、六階に【ブラックエンゼル】と【バタフライアクセス】だ。
悠華さん達は、全社の社内システムと機材の管理をしているので、頻繁に行ったり来たりにはなる。
マジで、インフラ周りを任せられるのは有難い。
悠華さん様様だ。
かかった費用は八割がた前払い家賃で、全部で600万くらい。
【ブラックエンゼル】から出している。
そして俺の席はない。
別にいじめられていると言うことはなく、はっきりと言えば、トイレ問題だ。このビルには男女一つずつのトイレの個室があるのだが、スタッフが女子限定な為、トイレはどちらも女子が使っている。
これはみんなにとっては、かなり画期的に利便性が高いらしい。
知らんけど。
俺も断りを入れれば使わせてもらえる。
と言うことで、俺はもっぱら自宅か、あるいはこの、【シクリッド】の奥にある事務室をオフィス代わりにしている。
「はい、お茶」
「ありがとう」
メグは、昼間は自由時間である。
寝ててもらっても良いのだが、こまめに掃除をしたり帳簿をつけたり、こうしてお茶を淹れてくれたりもする。
今日はタイトなジーンズにTシャツ。
昼はこんな格好してる事が多い。
「うむ、渋くて美味いお茶だ」
「ジュンジュンって、たまにジジ臭いわね」
「……」
まあ、生きた長さを考えれば、ジジイだからな。
「さて……」
出て行くメグの魅惑的な腰付きを眺めながら考える。
うーん、良いケツ……いやいや、そうじゃなくて!
古今東西、政治家にしろ、芸能人にしろ、経営者にしろ、下半身事情で身を滅ぼす奴がやたらと多い。
これは男の性というもので、恋人がいるとか伴侶がいるとか、ある意味関係ないんだよな。
完全に秘匿されたセレブ向けサロンのようなものがまことしやかに囁かれるが、多分あるよな、そういうの。
需要があるもん。
いかんいかん、気が散った。
妙子、ごめんなさい。
机の上のよくわからない山を崩していく。
【ブラックエンゼル】や【シャインガレット】に届いた俺宛の手紙や荷物はだいたいここに集められていて、たまにこうして処理をしている。
一つの封書を開く。
とある大手派遣会社からのもので、【シャインガレット】を買収したい、というものである。最近この手の話が多い。
多分今の【シャインガレット】なら、余裕で5億の値は付くだろう。
2000万で買って5億で売れれば大儲けではあるが、残念ながら売るつもりはない。
「こっちは……?」
パーティーのお誘いか。
【シクリッド】で知り合った、与党の衆議院議員からのものだ。いわゆる、政治資金パーティーって奴。
君子危うきに近寄らず、だな。
ゴミ箱行き。
パーティ系のお誘いは、割に多い。
政治家絡みの胡散臭いやつだけでなく、贔屓にしている【中島屋】のVIP向けパーティとか、芝居の柿落とし的なもの、投資家関係のよくわからんバブリーなパーティ、映画の試写会など。
俺の投資家ネットワークだけでなく、【ブラックエンゼル】で妙子達が派手に動き回ったことや、河内が適当に俺のことを言いふらしていたりするので、やたらと知り合いが増えたことが原因だ。
エンタメ系は青木さんや皿橋達に配って、適当に顔を売って来てもらうことにしている。
あとは島田さんからの手紙の束+菓子折り。
【村乃野証券】は、昨年のゴタゴタから、ある程度復活してきてるから、そろそろまた取引しても良いかもな。
菓子折りは、二戸にでも渡そう。
「ん?」
控えめな水彩柄の封書を手に取る。
裏を見て、得心した。
「来たか」




