ネオンテトラと漆黒の女王 32
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-1997年8月-
「【シクリッド】を部門化する?」
定期報告で俺の家に来ていた青木さんは、怪訝な顔をした。
「うん。あの店は、青木さんが何となく管理してる感じになってるんだけど、店長を立ててそいつに任せたいと思ってる」
「なるほど。スタッフや帳簿の管理を、中間管理職に任せる、ということですか?」
「そうだ。そうする事で、青木さんの仕事が減る」
「確かに。今は派遣の仕事だけで手一杯です……」
「それに、【シクリッド】に頼らなくても、会社は充分に回ってる。
あの店の管理は、もう誰かに任せても、会社的にはリスクにならないんだ」
「言われてみれば、その通りです。
【シクリッド】の利益が占める割合は、今となっては10%程度ですね」
「何だか寂しそうだね」
「ええ、当社もここまで来たんだな、と思うと同時に、【シクリッド】には、随分助けられたな、と」
「ふふ、そうだな」
カラン、と麦茶の氷が音を立てた。
【シャインガレット】は数年で目覚ましい成長を遂げた。
もうバーの副業はやめても大丈夫なのだ。
「しかし、店長は誰にするのですか?」
「青木さんは、誰にしたら良いと思う?」
「そりゃ、メグちゃんでしょう」
「うん、俺もそう思う。他にいない」
「なるほど。社長もそう思うのでしたら、決定ですね」
メグは、派遣の仕事を文句も言わず嬉々としてやるのだが、明らかに夜職の方が、性に合っている。
茂木さんとは親子のように接している。
金勘定も出来るし、管理系も出来なくはない。
IT研修も卒なくこなす賢い子だ。
出来れば本社の管理に入って欲しいのだが、適性を見るに、間違いなく【シクリッド】に配置した方が良い。
「メグは、昼職を外して【シクリッド】専任。
カウンターに立ちつつ、青木さんがやっていた事をやってもらう」
「そうですね。その方が本人の為にもなりますし、そして何より、喜ぶでしょう」
「うん。青木さんもわかってた?
メグは昼働いてるのに、相当【シクリッド】に入ってる。
顔色が悪い」
「そうなんですよね……
お金には困ってない筈ですから、単純に【シクリッド】で働いていたいのでしょう。こちらとしては助かっているのですが」
働き過ぎだ。
あんなクネクネした態度の割に、メグはめちゃくちゃ働くのだ。
もうちょっと休んで欲しい。
「マキは、今まで通りサポートにつけようと思ってる」
「はい」
ちなみにマキは、ああ見えて昼職志向が強い。
外で働くのが好きだから、管理系に配置すると腐るタイプだ。
今まで通り派遣に出てもらって、時折夜も出て、たまに社員が集まる時に姉御感出してもらうくらいが丁度良い。
「じゃあそんな感じで、よろしくお願いします」
「承知しました」
「青木さんも、休みを取るようにしてください。
妙子たちを信用して」
青木さんは、ふっとため息をついた。
「私は、社長に言われないと、ダメなんでしょうね。
全部やらなきゃ、と必死になってしまって……」
「青木さんは、大切な人だ。
これからも元気に、笑顔で働いて欲しい」
青木さんはクスクスと笑った。
「真顔で言われると、照れてしまいます」
「そうか」
「わかりました。
人に任せる事を、覚えたいと思います」
「ああ。頼みます。
それから……」
「はい?」
「社員の中から、本社の管理事務に使えそうな人材を二名ピックアップしておいてくれ。急ぎじゃない」
「それでしたら、おおよそアタリはついています」
「仕事が早いね」
「本社機能がボトルネックになりつつありますから、いずれ人員の強化が必要だと思ってました」
「うん。そうなんだよね。
青木さんに苦労かけっぱなしだから、何とかしたくてね」
「お気遣いありがとうございます」
「後で実績とか送ってください」
「承知しました」
株式を購入した。
【サードハング】という、元々IT出版系の会社で、急速にインターネット業界と携帯電話業界に手を伸ばしている会社だ。
2020年代には、携帯電話キャリアの一つとなっている。
今は店頭公開銘柄で、金融不安も相まって、激安になっているのだが、ITバブルでとんでもないことになるはず、の銘柄だ。
【サードハング】
・購入時(1997年8月)
単元100株15万
¥150,000 × 2000単位(2,000,000株) = ¥300,000,000
3億円分、買い集めた。




