ネオンテトラと漆黒の女王 23
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「東堂先輩、それは無いんじゃないですか?」
新垣の、棘のある言葉が響く。
横浜、関内の馬車道にある、ケーキ屋【レッド・グース】。
その店内の四人席には、東堂 有希、新垣 翔子、曽良岡 妙子、皿橋 直美の四名が顔を突き合わせていた。
有希は、岸谷に断りを入れて、【ネオンテトラ】の幹部に自分の事情を説明する場を設けたのだった。
「うん、酷いよね。わかってるの……」
率直な新垣は、筋の通らない有希の話に、素直に憤慨していた。
「会長の反応は?」
恐る恐る皿橋が口を開く。
「岸谷くんは、私のこと、大馬鹿だって」
涙ぐむ有希。
さもありなん、という表情をする三人。
罵倒の一つくらいされても、仕方がない。
「もっと早く言えば、辛い思いを抱えることもなかったじゃないか、って。だったらもっともっと、岸谷くんやみんなと、いっぱい楽しい思い出を作れたじゃないか、って……」
そっちなの!?
さすがの新垣も、毒気を抜かれた。
「会長、優し過ぎませんか!?」
「想像のはるか上を行きますね」
「先輩らしい……んですかね」
噛んで含めるように発言する妙子。
仮に、自分が付き合っていた男子が、そんな事情を持ち出して、一方的に別れを告げたとして、果たして冷静な判断が出来るだろうか?
いや、無理だ。
刺すかもしれない。
三人はそう思った。
「私が全部悪い。酷い事をしたと思ってる。
でも、岸谷くんは、私を責めなかった……。
とても悲しそうで、苦しそうだったけど、私は悪くない、って……
少し気持ちを整理する時間が欲しいって……」
「まあ、会長がそう言うんだったら……」
皿橋は、岸谷にも有希にも好意を持っているので、二人が別れたとしても、仲良くしていて欲しいと思っていた。
「納得はいかないですけど、確かに会長がそう言うのなら……」
憤慨はしつつも、デラックスイチゴショートの苺を頬張る新垣。
甘酸っぱくて大変美味しい。
「……」
妙子の心中は、複雑だった。
東堂先輩は、確かに酷い。
岸谷先輩を傷つけるなんて、許せることではない。
だが、東堂先輩の言い出せなかった気持ちもわかる。
好きであればあるほど、どれほど言い出しにくかっただろうか。
彼女の気持ちになって考えると、胸を締めつけられる。
それに、二人が別れるのであれば、自分にもチャンスがあるのではないか、という邪な気持ちも出てきてしまう。
いやむしろ、この千載一遇のチャンスを、逃していいのか?
でも、別れたからと言って、すぐさまアプローチするなんて、そんな厚顔無恥なことを出来る気がしない。
さりとて、岸谷先輩は、有名人だ。
【ネオンテトラ】の下級生含め、実は狙っている女子が多いと見ている。
一つ下の二戸さんや、花明院さんも怪しい。
チラッとしか会ったことがないが、【シャインガレット】のメンバーは素敵な人が多い。
今までは、誰もが認める東堂先輩がいたから、許せた。
他の誰かが岸谷先輩の隣に立っていたとして、自分は許せるだろうか?許してしまうかもしれない。
それで岸谷先輩が幸せなら、自分は我慢しよう。
いやいや、我慢前提でどうする!
しかし、河内先輩への返事をどうしよう?
一度は、付き合ってあげようか、という方向に傾いていたわけで……
と、妙子の心は、漫ろに揺れていた。




