ネオンテトラと漆黒の女王 19
2-19
曽良岡 妙子は、困惑していた。
時は1日前に遡る。
妙子の前に現れたのは、しばらくキャンパスで見なかった、
河内 豪太郎。
以前より、やつれた様子。
「曽良岡さん、すまない。
俺は、後ろめたい気持ちを隠したまま、君への好意を伝えていた。
……自分を欺いていたんだ。
世間を騒がせているから、君も少しは知っているかもしれないが、俺は今、自分に正直に生きている。
だから、今なら、君にふさわしい男になれたかどうかはわからないが……少なくとも、胸を張って君に言うことが出来る!
君のことが好きだ!付き合って欲しい!」
豪太郎は、髪の手入れも昔ほど出来ていないし、服装もややくたびれた気がする。テカテカしたジャンパーも着ていない。
だが、以前より晴々とした良い表情をしているように見えた。
妙子から見ても、だいぶ男振りが上がった気がした。
【河内葉通信機器】のいきさつを知らない妙子では無い。
だいぶ苦労したのだと言うことが、見てとれる。
「え、えーと……」
「地位も名誉も金もない、ただの河内 豪太郎だ。
言われても困るよな……。
でも、返事は欲しい。ゆっくり考えてくれ」
力なく手を振って、豪太郎は去った。
そんなことがあった。
今まで河内は、妙子にとって、ウザいモブキャラであった。
そこから、ネームドの固有キャラに昇格した。
正直、タイプではない。
ビビビっと来ないのだ。
だが、ちょっとだけ『付き合ってあげてもいいかな』と思うくらいの地位に昇格した。
妙子には珍しいことである。
「河内先輩、随分見窄らしくなったわね!
お金も持ってなさそうだし、あまり優良物件とは言えないわね」
「でもでも、不正を告発した悲劇のヒーローよ?
付き合ってあげれば、妙子もテレビに出れるかも?」
遠巻きに見ていた知り合いが寄ってきて、喧しく騒ぎ立てる。
「うーん……」
右手を顎にやって、可愛く小首を傾げる妙子であった。
妙子は、自分の気持ちに限りをつける必要性に駆られていることに、気がついたのだった。




