ネオンテトラと漆黒の女王 18
2-18
-1995年9月-
俺は今日も、写真サークルで昼飯を食べている。
【ネオンテトラ】の部室は、もはや女子の花園で入れない。
入りにくいのではない、入れない。
山野辺大学の学食は、結構充実しており、洋食からイタリアン、和食、中華、喫茶まで幅広いラインナップを誇っている。
今日のごはんは、学食名物『ポークー丼』、お値段は400円。
『ポークうどん』と対になっている名物メニューだ。
要はダジャレである。
豚肉山盛りのポークー丼と格闘していると、モジャモジャ頭で長身の男が、俺の向かいに座った。
「岸谷、就職活動は?」
写真サークルの前部長、山田。
俺と同学年で、文学部フランス語文学科。
「しないよ、自分の会社やるし」
就職活動、マジでダルい。
俺付近の世代は、失われた世代、と呼ばれる就職氷河期世代だ。
需要と供給が見合っていないので、書類で落とされることが多くなり、面接もグループ面接が基本、圧迫面接なんてのまで生まれた。
そもそも就職が難しく、また入れたとしても、企業マインドが冷え切っているので、雰囲気が悪い。
経費節減、利益至上主義の号令と共に、パワハラが正義かのように横行する。
粗い金遣いを覚えたバブル世代の多くは、仕事の方は全然覚えていないため、マジで役に立たない。
その癖、いかに会社の金で遊ぶか、という命題には一生懸命、取り組むのだ。
「岸谷、この経費精算しといて」
と、高そうなスーツを着た上司に言われて、キャバクラの領収書を出されたことは数えきれない。
通るかぁ!そんなもん!!
……だんだん腹が立ってきた。
忘れよう。
「かーっ!!予言者様はいいよな!」
「だから、どこからその呼び名出てきたんだよ」
「みんな言ってるよ!」
「何故だ……!」
予言者の出所は、島田さんだ。
しかしその先、何がどうなってここまで広まったんだ?
今じゃ占い師がわりに、相談に来る女子のグループが、たまに訪れてくることすらある。
意味がわからない。
「おまえ、結構有名になってるぞ?
ところで予言者様に聞きたいんだが、やっぱり1999年に世界は滅ぶのか?」
「アホか。んなわけない」
「予言者様がそう言うなら、安心だ。
彼女が心配しててさ」
山田は、何故かモテる。
チャラくもないし、オラオラ系でも無いが、ちょっとしたオシャレ感と、話しやすい雰囲気を持っている。
実際卒業後は、そのキャラクターを生かし、携帯電話販売を始める企業の営業になって、そこそこ活躍して、そこそこ出世して、趣味のカメラを持って撮影旅行とかを楽しんでいる。
俺たちの世代の中では、幸せな未来が待っている奴である。
そして地味に未来のネタバレ案件なのだが、歴史の修正力様も、このデマ情報をたいした重要事項として取り扱っていないようだ。
「そのデタラメな予言をした予言者も、俺も、基本的には一緒だ。
インチキなんだから、あまり騒がないでくれ」
「インチキは、自分でインチキって言わないんだけどな」
「揚げ足取るなって」
「悪い悪い、んじゃ俺、授業あるから行くわ」
「おう」
部室から出ようとして、山田が振り返った。
「そういや」
「ん?」
「サークルジャンパー、ありがとな。
みんな喜んでる」
「おう、世話になったからな。
予言者からのささやかなお返しってことで」
「じゃあな」
写真サークルには、20着のサークルジャンパーを贈呈したのだ。
デザインは出してもらった。
皿橋を筆頭に何人か引っ張っちゃったし、ほとんど活動にも参加できなかった。緩くて適当なサークルだったが、いい奴が多いんだ。
ポークー丼も食べ終わるかという時に、珍しく有希が顔を出した。
「あ、いたいた。
ねぇ、きいた?妙子ちゃん、また河内に告白されたらしいよ」
な、なんだって〜!




