ネオンテトラと漆黒の女王 14
2-14
【ネオンテトラ】の部室。
年の暮れで、もう休みに入っているメンバーも多い。
有希は、年末年始は名古屋の実家に帰るので、今日は一緒に過ごそうと、二人で帰りの準備をしていた。
ちなみに俺は、実家の秋田には帰らない。
青木さんたちの仕事納めに、付き合うつもりだ。
寿司でも取ろうかと思っている。
「ねぇ岸谷くん、最近あまり家に居ないね?」
「え?そうかな?」
確かに放課後、【シャインガレット】の事務所に行く事が多い。
年末で立て込むから、請求書の処理とか、手伝ったりしている。
元は社会人歴40年のおじさんだ。
書類関係の仕事なら、何でもごされ、だ。
新しく入った従業員に、挨拶もしなきゃいけなかったしな。
そのまま【シクリッド】で飲むから、遅くなる事が多い……。
最近、長谷川さんや半田さん達、話を聞きつけた島田さんも、ちょくちょく飲みにきてくれる。
順調に会社が回る兆しが見えてくると、それはそれで忙しくなる。
ここが正念場なのだ。
少しだけ微笑みを浮かべながら、じぃ、っと有希が俺を見ている。
これは、ちょっとだけ怒っているぞ。
有希は大人しい方だから、あまり怒りを露わにしたりしない。
賢いし、俺を理解しようと努めてくれている。
それに、甘えてしまっていたのかもしれない。
「ごめん、有希。
俺、最近帰りが遅いから……」
有希は俺の家の鍵を持っているから、ひょっとして何度か、待っててくれたタイミングがあったのかもしれない。
いや、あったんだろうな。
あー、気がつかない俺。
「忙しいのはわかってるよ。社長さんだしね」
この言葉に甘えてはいけない。
「それは関係ない。
有希に寂しい思いはさせない」
有希の手を握る。
「私、寂しいなんて言ってない……」
有希が、ちょっとバツが悪そうに顔を逸らした。
「だな、すまない。俺が一緒に居たいだけだ」
「もう」
そっと抱き寄せる。
「有希、大好きだ。
ずっと一緒に居たい」
「……私も、だよ?」
すまない、不安にさせてしまった。
有希を笑顔にしたい。
今日はクリスマスイブだ。
一緒にディナーを作ろう。
そして、皿橋や一年たちの面白い話をしよう。
笑えるコメディ映画のビデオを観て、そして、朝まで抱き合って寝よう……。
部室の外には、妙子の姿があった。
せっかくのクリスマスイブ、もし岸谷が居れば、ちょっとしたプレゼントを渡そう、そんな小さな冒険心からだ。
そして、妙子は音もなく、立ち去って行った。




