ネオンテトラと漆黒の女王 7
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結論から言って、【シャインガレット】には、資金面以外の問題はなかった。
半田さん、あの店見てないよねぇ……?
「さて、青木さん」
俺の中で結論は出ている。
後は、青木さん次第だ。
「はい」
青木さんの手が震えている。
「私にどんなメリットが?」
「……従業員がみんな笑顔で、明るい雰囲気で、その中で私は、好きな経理の仕事に没頭出来る……そんな未来を、お約束します!」
不安に満ちた表情だが、決意が感じられる。
「それが私のメリットだと?」
「ええ、その通りです」
青木さんの描く未来、か。
しばし腕を組んで考える。
おおむね、俺の期待通りの返答と言える。
青木さんにしろ、マキメグコンビにしろ、経営センスはゼロだ。
成り行きで窮地に陥っているだけ。
俺の見るところ、みんな良い子だし、多分働き者なのだろう。
これ以上の答えは、求めるべくもないのだ。
「……分かりました!
御社を買い取りましょう。社長もお引き受けします」
「岸谷さん……!」
拝むなって。
「ただし青木さん、あなたにはその未来を実現する、義務があります。それをお忘れなきよう」
「もちろんです!!」
出来るかな?やってもらわないと困るが。
「それから、私は学生ですし、いち投資家でしかありません。
あまり業務には関われません。
実質的には、あなたが舵取りをすることになります」
「承知しています」
「もちろん、人材の欠けている点は理解していますから、
いずれ何らか手は打ちますが……
それまでは、踏ん張ってください」
「はい!」
「では、半田さん。
私の持っている会社から、2000万出資して、【シャインガレット】を買い取ります。つまり100%子会社ですね。
先方の顧問弁護士と協力して、契約書の取りまとめを。
それから、【シャインガレット】は株式会社にします。
今のタイミングでもいいし、後からでもいいです」
「承知致しました」
【シャインガレット】は有限会社なのだ。
箔をつけたい。
「長谷川さん、税金対策やお金周り、半田さん達と協力して、建て付けをお願いします」
「やれやれ、割と業務外ですよ?
やりますけどね」
やれやれ。
客観的に見れば、2000万をドブに捨てるようなものだ。
だが、【ネオンテトラ】しかり、これから作る会社しかり、戦略的に女性メインで事業展開すると決めた以上、ここは見捨ててはいけない。女性目線で見て、見捨てて良い理由がないからだ。
周りの信頼を2000万で買えるなら、それはそれで仕方ない投資だ。
半強制的ではあるが、乗り掛かってしまった船である。
これでもダメなようなら「やるだけやった」と言う言い訳も立つ。
「青木さん、青木さんは引き続き副社長です。
入金されたら、まずは銀行に返済を。
それから、滞っている分も含めて、給与をしっかりと払ってください。青木さんもです」
「承知致しました」
「お店はひとまず続けて頂いて良いんですが、
マキさんとメグさんの服装は、もっと布の面積を増やす!」
「はい……」
「二人のために、派遣の仕事を取ってください」
「それはもちろん!」
いずれお店の売上に頼らない体制をつくらないと。
ひとまずはこれくらいか。
「では皆さん、よろしくお願いします!」




