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ネオンテトラと漆黒の女王 5

2-5


【シャインガレット】のオフィスは、渋谷の宮益坂、そのまま行けば表参道に抜ける大通りの途中から、路地に入ったところにあった。

飲食店や雑居ビルの立ち並ぶ、雑然としたエリアだ。

この辺りはその大半が、20年後には再開発で更地になる。


「あ、そこ左です」


「ここっすか?」


電車代も節約している青木さんのため、車を出している。

電車賃くらい奢ると言ってもガンとして聞かないし、会社の経費も増やしたくないらしい。

横浜まで歩いて、そこから品川までは電車。

その先は渋谷まで歩く、なんてことを言うので、さすがに車に乗せざるを得ない。

青木さんを経理にした前社長は、人を見る目があるのかもしれない。


第三京浜から246号線に抜けて、約1時間のドライブである。

横浜と東京を繋ぐ第三京浜は、距離も料金も程良く、しかもそんなに渋滞しない為、走って気持ちの良い道路だ。

青木さんは、あまりこういうドライブシチュエーションに慣れていないのか、やや緊張していたのが微笑ましい。

たわいもない話をしてたら、少し打ち解けたと思う。


ちなみに、ステファニーさんは退勤している。

あの人、最初から俺を巻き込むつもりだったな。

人の良さそうな顔して!

いや、人が良いからか……。



立ち並ぶ雑居ビルの中の一つ、その4Fに、オフィスはあった。


「どうぞ、散らかってますが」


20畳くらいの、こぢんまりとしたオフィスは、古い作りの事務所だった。探偵事務所を思い浮かべると、ちょうど良い。

天井が低く、間仕切りがちょいちょいあって、謎の観葉植物、黒いソファの応接セット、奥にデスクが4つ程度ある。



「お茶だしますね」


「いえ、いいです。

ちょっとお電話借ります。

あと、契約書とか、経営関連の資料を全部出しといてください」


俺は電話を借りて連絡を済ませると、ソファに座った。

応接セットのテーブルには、クリスタル然としたデカい灰皿が置かれている。この時代、分煙の概念がない。

会議では、こんなデカい灰皿が、吸い殻で山盛りになったりする。

不健康極まりない。


手持ち無沙汰なので、せっせと書類を持ってくる青木さんを手伝ったりしてると、事務所のドアが開いた。


「お邪魔します。

岸谷様はいらっしゃいますか?」


見慣れた、景気の悪そうな顔をした仏頂面、

税理士の長谷川さんである。


「あ、こっちです」


応接に通すと、長谷川さんの後ろから2人の男性が姿を現した。


「初めまして、タミタミット法律事務所の、半田です」


「滝川です」


半田さんは、60がらみのストレス溜めてそうなナイスミドル。

滝川さんは、30歳くらいの、まだまだ目に光のある青年だ。


「初めまして、岸谷です。

すみません、わざわざお越し頂きまして」


「【シャインガレット】の青木です」


名刺交換を済ませて、ソファに腰を下ろす。


「さて、岸谷様。

投資先のデューデリジェンスをしたいということで、ご相談を受けましたので、半田さんと滝川さんをお連れしました。

これまでのような法律相談は良いとして、今回のような案件では、さすがに私の方でお受け出来ないので、ご契約は直接お願い出来ますか」


「そうですね、長谷川さん、ありがとうございます。

半田さん、御社とはこれから私の顧問弁護士として契約させて頂きたいと思っております」


「はい、ありがとうございます。お噂は予々伺っております。

岸谷様のお役に立てるなら、何よりです」


噂というのが気になるが、

長谷川さん経由で話を聞いているのだろう。


「青木さん、デューデリジェンスでは、投資元、つまり私の手配した弁護士さんに調査してもらう必要があります。

結果どう転んだとしても、御社の顧問弁護士さんや税理士さんは、今後も御社の仕事をして貰うと思いますので、そこはご安心ください」


「なるほど、承知いたしました」


「では半田さん、早速なのですが、私はこの会社の買収を検討しています。

法律的なリスク、あるいは、将来的にリスクになりそうなことがありましたら、ご指摘頂きたいと思います」


「承知致しました。

本来なら、顧問契約など完了してからのご相談となるのですが……

長谷川さんのご紹介もありますので、全て後追いでやらせて頂きます」


さすがベテラン、話がわかる。

滝川さんなんか眉を顰めてる。まだまだ若い。


「長谷川さんも協力してくださいね」


「そう言われるだろうと思ってました。

致し方ありません。この費用は別途請求させて頂きますよ?」


「わかりました……

青木さん、会社の資料はこれで全部ですか?」


「はい、残らずここに」


と言っても、A4で20㎝くらいの束である。


「ただ、契約書のないものもありまして……」


「良いです。あるだけで」


この時代、上場企業でもない限り、口約束で仕事するなんてザラにある。

義理人情が通る時代なのである。

むしろこれだけ書類があるなら、上々ではないだろうか。


「では、よろしくお願いします。

どれくらいかかりそうですか?」


「今回は簡易的な調査になりますので……

2時間も有れば」


「承知致しました。

じゃあ青木さん、お店の方を見せてください」


「はい!

従業員も、そちらに居ると思います」


クリスタル風ガラスの灰皿、ありましたよね。

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