ネオンテトラと漆黒の女王 4
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「ああ、言い忘れてたんですが、
会社で持っているバーがあるんです」
「バー?」
「仕事の空く女の子の為に、用意したお店です。
事務所のすぐそばにあります」
副業みたいな夜のお仕事、公式で用意してんのかーい。
「【マーガレック】というお店です。
結構お客さんが入ってくれてまして……
毎月50万くらいの売り上げがありますので、
諸経費を差し引いて、25万程度は会社の運転資金に回せています」
「なるほど、それは良いですね」
そっち一本でやったら?って気がするわ。
「では次に、派遣事業について。
仕事の取れそうな取引先は、ありそうですか?」
「うーん、落ち着いて営業出来れば、あると思います」
「人材については?」
「求人をかければ……」
青木さんがフリーになれれば、仕事は取れる。
だが人は、一朝一夕には戻らない、と。
メモった内容を見ながら、うーん、と唸る。
今のままでは、遅かれ早かれ倒産だ。
このご時世、新規の融資は受けられないだろうし。
「誰かに社長をやってもらう。
最低500万の融資、あるいは出資をしてもらう。
これがまずは必要ですね。
そうすればひとまず、青木さんが通常の業務に戻れます」
「そうですね」
「そして、仕事を探しながら人材を集めて、本来の姿に戻る、と」
「それがベストです」
暗い表情で、青木さんが応える。
それがいかに難しいことか、社長がいなくなってからの、短い間に理解しているのだろう。
「問題は、今の御社の社長になろうという人は、なかなか見つからない、ということ。そして、融資する銀行は、ないであろうということ」
「ええ」
「仮に御社が株式を100%売却する、つまり買収されるとしても、それを買う会社がないだろうと言うこと」
「でしょうね……」
未曾有の不景気の世の中だ。
潰れかけの派遣会社を買う、酔狂な会社はあるまい。
いや、数百万出資して、女性3人が自由になる、と考えれば、金の余ったエロオヤジがあるいは食指を伸ばすかも……
いやいや、そういうのはダメだ。
というか、話の持って行き先によっては、メッチャ有りそうな話だなコレ。
冷めてしまったお茶を、ステファニーさんが代えてくれる。
「順也が、会社を買って社長になってあげれば?」
一瞬、時が止まった。
「はあ!?」
何をぶっ込んでんだステファニーさん!
そんな簡単なものじゃないぞ。
「なるほど、岸谷さんなら、私も安心出来ます」
青木さん、乗っかるなー!
そんなんだから騙されるんだぞ。
「ちょ、ちょっと待ってください。
仮に私がそれが出来る、としても……」
「出来ると思うよ」
「ステファニーさん、茶々を入れないでください。
出来るとしてもですね、会社を売るということが、どういうことか、お分かりですか?
私の指示に従わなければなりませんし、突然クビになるかもしれない。後悔することになるかも、しれないんです。
今日会ったばかりの私を信用するなんて、やめておいた方が良いでしょう」
「……既に、進退極まっております。
それに、お話しして分かりましたが、岸谷さんは、悪い人じゃなさそうですし」
そうやってお人好しだから、こういうことになってるんでしょうが!とツッコミを入れたくなる。
「私も男です。
セクハラをするかもしれません」
「有希にぶち殺されるよ」
「……」
「岸谷さんには、素敵な恋人がいらっしゃるそうですね。
ステファニーから、聞いています」
ステファニィィ!!
「タチの悪い輩に、会社を転売するかもしれません」
「悪だくみをする人は、そういうことは言わないものでしょう?」
「……まあ、そうですね。では……」
俺は、向き直った。
「私にメリットは?」
青木さんが言葉に詰まる。
「そ、それは……」
「順也、そんなこと……」
「ステファニーさんは黙っててください」
場に沈黙が流れる。
……出ないか。
金を倍にして戻す、とか、奴隷のように働く、とか。
青木さんにそういうことは望んでいない。
シンプルに、答えて欲しいのだが。
「青木さん、考えておいてください。後でまた聞きます。
ところで青木さん、この後は?」
「社に戻って、書類の整理くらいしか……」
「では、私も行きますよ」
「え?」
「お力をお貸しするにも、検討材料が足りません。
デューデリジェンスです!!」
「デュー……何?」




