ネオンテトラと漆黒の女王 1
第二部開始しました。
2-1
-1994年9月-
曽良岡 妙子は、優等生である。
おしゃべりとカワイイものと、甘いものが大好きな、普通の女の子ではあるが、勉強、特に英語には抜きん出た才能を発揮した。
大学でもそれは変わらず、国際交流学部の講義を、日々楽しんでいる。
特に自分が特別であるとは、思ってはいない。
だが、天は、妙子に別のものも与えた。
華奢ながら、出る所は出て、細い所は細いそのスタイル。
人よりもその度合いが、無視できないほど大きい。
そして、瓜実顔にややつり目の、純和風な美しさ。
見る人によって、千変万化するそのミステリアスな表情。
後ろで留めた、柔らかな髪から流れるほつれ髪。
細く長い首から、やや撫で肩なデコルテラインは絵画のような美しさ。
華奢であるが故に、ワンサイズ下の服がぴったりハマるのだが、
そうすると、胸は強調され、スカートは絶妙に短い。
パンツのお尻部分はややぴっちりとする。
本人としては、
「多少窮屈に感じるかな」
という感想だけだが、周りはそうは思わない。
妙子のファッションの好みが、本人も気づかない程度に、あざとカワイイ系なのが多少影響はしているが、普通なら無視できる程度のことである。
もう一つ、大事な事として、妙子は四人姉妹の末っ子である。
女兄弟間には、野生動物もかくやという、熾烈な弱肉強食の世界が存在する。
修羅の国を生き抜く為に、妙子は、末っ子の特権をフル活用した。
すなわち、自然と周りの同性異性に甘える、媚びる、という特権。
そのスキルが、人並み外れて高くなっていたとしても、誰も責められないだろう。
高校の頃から、何故か告白されることが多い。
学校の中だけでなく、他校から、バイト先でも、年齢も幅広く、様々な男が言い寄ってくる。
「私は、他のみんなと何も変わらないのになぁ」
と、本人だけは首を傾げている。
恋に憧れないわけでもない。
好きになれる人が現れたら良いなと、人並みに思っていた。
だが、大学に入って、気になる男子が一年上の先輩に現れた。
気になるというレベルではなく、一瞬で恋に落ちた。
磁石のように惹きつけられた。
「おかしいな。何か私、変かも」
何でもズケズケと言える、明朗さがあるにも関わらず、その人の前に出ると、もじもじしてしまう。
言いたい事の半分も言えない。
挙動もおかしくなる。
普段絶対にしないような、変な動きになってしまうのだ。
自分で自分のことが焦ったくて、仕方がない。
でも、その人には、既に素敵な恋人がいた。
大好きな、尊敬できる女の先輩である。
それが、妙子の小さな胸を締めつける。
その男子も、妙子のことが嫌いでもなさそうだった。
大成功している個人投資家で、卒業後は自分の会社を作るそうだ。
その会社に、妙子にも来て欲しいと言ってくれている。
それが嬉しくもあり、辛い。
彼は、私をどう思っているのだろうか?
「ままならないものね」
窓の外を見ながら、思わず呟く。
「え?なんか言った?」
「ううん、何でもないよ、フフ」
講義中だった。
隣に座っていた女友達が、怪訝な顔をしている。
講義が終わったので、サークルに顔を出さなきゃ。
妙子は、カバンから経済新聞を取り出した。
人に誘われたものではあるが、投資の世界は奥が深くて面白い。
ハマってしまいそうだった。
別の世界線では、世界を股にかけるファンドマネージャーとなった妙子である。ハマっても致し方がない。
と、一人の男子に呼び止められた。
「曽良岡さん、お、俺と、付き合ってください!」
またか、と曽良岡 妙子は、心の中でため息をついた。




