ネオンテトラと新時代 53
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「番組公式サイトの更新が出来てない〜!?
全部ぅ!?」
寝耳に水の鷺ノ宮は、食べていた余りのロケ弁の箸を止めて怒鳴りつけた。
「はい、先日広報の担当から連絡があったかと思いますが……」
顔についたご飯粒を取りながら、木下が冷静にツッコむ。
「知らねーぞ!」
「メール見てないんじゃないですか?」
「見るかそんなもん!
そういう大事な事は、直に話しに来いや!」
「私に言われても……」
数ヶ月前に、好調な携帯電話公式サイトやメルマガ周りの事業を、同僚のプロデューサーから奪い取った鷺ノ宮には、ウェブ周りのキッチリ書面で承認を取って進めていく文化を理解していなかった。
スケジュールの引かれたものが、自動的に行われていくものだとばかり思っていたのだ。
「使ってるタレントのフィーは、一日ごとにかかってんだぞ!
写真の出るアイドルは、これをデビュー合わせにしてる子も居るんだぞ!」
「それは鷺ノ宮さんが手を出したから、仕方なくやってる案件じゃないですか……」
「うるせぇ!事務所にも連絡が必要だし……。
大御所タレントのウェブ企画もあった気がするし、やべぇ!
本人というより、事務所がやべぇ!
……おまえ、気を利かせて先に動いてたりするか?」
「私が任されてる中小の各所には、連絡済みです。
鷺ノ宮さんが握ってるとこは、連絡していいか、メールで問い合わせてたんですけど……」
「またメールかっ!!
見ねぇっつってんだろ!!
ああ、もういい!!
で、いつ更新出来るんだ?」
「広報のメールには、三週間もあれば……とありましたから、作業が進んでれば、あと二週間くらいですかね」
「半月っておい……もう11月入ってんじゃないか!
1ヶ月分飛ぶのと変わらんじゃないか?」
「その件も含めて、電出から鷺ノ宮さんに判断のメールが来てましたね。広報は、もう今月の更新飛ばしちゃえばいいんじゃないか?と先程、追加でメールが来ています」
電出とは、【ツキウサギ電子出版】のグループ内での呼称である。
「ぐぬぬ……
今月の更新は諦める。
せめて、発注費用は取り返せ」
「そんなこと出来るわけないじゃないですか。
広報も電出も、返事がないから、もうぬるっと進めちゃってます」
「出来てねぇんだから、金払う必要ないよなぁ?」
「タレントさんも、映像がお蔵入りでもギャラは払うでしょ。それと同じですよ」
「タレントと一般人一緒にすんな。
ああ言えばこう言う、おまえほんとに嫌な奴だな」
「いや、普通のことを言ってるだけです。
電出から費用回収します?
来月の更新も危うくなってきますけど……」
「……もういい。
電出に手を出すと火傷するからな。
ほっとけ。事態の収拾をせんとな」
残りのロケ弁を掻き込む鷺ノ宮。
関係各所への連絡や謝罪を思うと、気が重くなる。
社内の権力争いの為に、大物タレントや大手芸能事務所とのパイプ役を、誰にも任せず自分でやっていたのが裏目に出た。
その座っているデスクの一番下の引き出し。
その一番奥に、鷺ノ宮秘蔵のハードディスクが眠っている。
ゼネラルプロデューサーとなってから、権力にモノを言わせて数々の女を服従させてきた撮影記録。
いわゆる、ハ◯撮り映像が大量に入っている。
そのハードディスクが、全く同じメーカーの、全く同じハードディスクに入れ替わっているのを、鷺ノ宮はまだ知らない。




