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ネオンテトラと新時代 52

5-52


-2004年11月-


 新橋にオフィスを構える、【コードテックシステム】。

従業員50名ほどの中堅システム会社である。


「いや、だからそのー、来月分の更新と新規追加開発が滞ってまして……はは、そう言われましても。

発注先の【プロトコントル】さんから、追加費用の請求がありまして。

ええ、しばらく前に見積もりをするから期間をくれと言われまして、かなりしっかりとした見積書が……はい、弊社としてもかなり筋の通った見積もりだとは思っておりまして、ちょっと流石に予算の方を……はは、弊社もかなり苦しい状況で……」


 受話器を片手に、汗だくで拝むようにぺこぺこしているのは、開発部長の梅宮。エンジニア上がりだが、比較的社交性があったと言うだけで、渉外担当になってしまった哀れな男である。



 神保町にオフィスを構える【アドリッカ】。

陸海空の広告を束ねる、というご大層な命名由来のこの会社は、従業員150名ほどの大手IT系広告代理店である。


「バカヤロー!!!

追加予算なんか出すわけねぇだろうがぁ!!

おまえんとこで何とかしろよ!

あ?

おたくの経営状況なんぞ、知った事じゃねぇわ!

つうか更新だけでも何とか終わらせろって……

間に合わない?

オイコラてめぇ!!

俺の顔を潰す気かコラ!!

業界で飯食えねぇようにすんぞコラ!!」


 ガチャリと乱暴に受話器を置いたのは、営業部長の羽賀。

黒く日焼けし、艶やかに黒光りするオールバックの43歳。

脂肪と筋肉に覆われた身体を黒いスーツで包んだその姿は、イカツい、としか形容出来ない。


 メンツが全ての超体育会系営業会社。

一度発注した仕事に予算を追加するなど、弱気の極みである。上に睨まれるだけでなく、下からもナメられる。

しかし、【ツキテレビ】からの無茶な要求を三次請け、四次請けにクソ安い予算でゴリ押ししてきた手前、【コードテックシステム】の言っていることは理解できる。

それくらいには、仕事に理解があるのだ。

さすがにやり過ぎたか……。


ピカピカと光る銀色の四角いライターを取り出し、キツめのタバコに火をつける。


「ふー」


眉に皺を寄せてタバコを吸う姿は、もはやサラリーマンとは言い難い。


オフィスに紫煙が広がっていく。

そろそろオフィス内禁煙の潮流が感じられる昨今だが、この会社には関係ない。


 クリスタルの丸い灰皿でタバコをもみ消すと、羽賀はおもむろに受話器を取って、どこかに電話をかけた。



「あ、どうもどうも!羽賀でございます!!

いつも大変、ええ、大変!お世話になっております!!

はい!先日の!あー、喜んで頂けて何よりです!

私も綺麗どころを揃えた甲斐が……ええ、また是非!

で、ちょっとご相談が!

鷺ノ宮さんの案件、ちょっとマズい事になってまして、少し更新が遅れそうです。

ええ!すぐに!すーぐーに!解決致します!

で、ご予算の方を少し……あ、はい!

はい?ああ、承知いたしました!

大変お手数をおかけ致します!!」


 そっと受話器を置く羽賀。


 「フッざけんな!!!

平日にゴルフ行くんじゃねぇゴラァ!!」


一人で怒鳴ってから息を整えると、羽賀は部下を呼んだ。


「おい、【コードテックシステム】の案件、500万追加しろ」


「ウィッス!!」


「爆速でやれって言え。

あとついでに今の四次請け、二度と使うなって言っとけ」


「ウィッス!!言っときやす!」




 有楽町に小さなオフィスを構える、【ツキウサギ電子出版】、30名ほどの小さな会社だ。


「やあ羽賀君。

この前の多国籍クラブ、ありゃ良かったよ〜!

女の子選び放題でねぇ、年甲斐もなくハッスルして危うく腹上死する所だったよ、アッハッハ!

やはり女の子は、恥じらいがあるのが良いよねぇ!

また行こうよ!

ん?鷺ノ宮君の?ああ、色々携帯電話のなんだっけ?アプリっつうのか、メルマガって言うのか、なんかそんなのまとめてやってもらってる案件?

遅れるのは、そりゃ困るなぁ。

予算足りないの?

うーん、今さ、みんなゴルフ行っちゃってるからさ、明後日とかでいいかな?まあ来月末の入金になると思うけど、多少なら出してあげられると思うよ。

これは羽賀君、高くつくよ?

うん、じゃあね」


 初老の男が受話器を置く。

そしてその前にしていたのと同様、将棋雑誌を片手に、パチリと将棋の駒を指した。


 【ツキウサギ電子出版】は、ツキウサギグループ各社の販促用やら教育用やらのCD、DVDの制作を一手に引き受ける子会社だ。昨今は、携帯電話の公式サイトや各種の会員管理システムなんかも手掛けている。

とはいえ実際に動くのは、発注先の広告代理店だ。

所属するのは、【ツキテレビ】やグループ各社、あるいは官公庁から天下りしてきた老人達で、仕事の内容なんか知りもしない。

元のポジションが弱い場合、この男のように出社しなければならないが、ただそれだけだ。たまにかかってくる電話を対応する以外は寝てても良い。


 「鷺ノ宮君にメール打っとかないといけないか。

うちに出してるやつ、丸っと更新遅れるよ、って。

まあ、明日でいいか」


と言いつつ、連絡は忘れられ、思い出した頃に【ツキテレビ】へメールが飛ぶ事になる。


 次は10代の子が良いなぁ。

制服なんか着てたりして!

くくく、羽賀君に頼んでみよう。


鼻歌混じりに将棋を指す男であった。




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